第58話 『秘話にゃーの怪』


『このお話は、おーむかしの、『マイクロ詩編集』から抜き出したうえ、さらに、改訂したものです。』・・・・なんだか、忘れがたいできごとでしたもので・・・



            🔥   🐈   🔥



 これも数十年前の事で恐縮なのですありますが。


 ある、寒い、冬の日のことです。


 ぼくは、おそらく、本屋さんに寄っておりました。


 『さてと。帰ろう』っと、お店を出て、自動車を動かし始めました。

 


 最初は・・・・、


 「にゃー」


 という、弱弱しい声が、すぐ車の脇で、聞こえたように思いました。


 『ああ、道路に猫ちゃんがいるのかな。』


 と、くらいに思ったのです。


 ところが、それから数分くらい走ると・・・・・


 また・・・


 「にゃー」


 と鳴く声が聞こえるのです。


 えええ?


 これは、猫ちゃんが、僕の自動車を追いかけてくるのだろうか?


 そんなことが、あるかい?


 いやあ、落し物したやましんのあとを、『おとしものにゃんこ~~~~!』、とねこちゃんが追いかけてくるなんて、まず、考えられないです。


 ところが、次の瞬間です!


 「にゅあー!、にゅあー!、にゅあー!」


 と、こんどは、はっきりと、しかも、でっかい鳴き声がするではありませんか。


 ま、まさか、車に中に入ってるのかしら、と、車内見回します。


 しかし、いくら何でも、にゃんこちゃんが車内にいれば、大人しく座ってるわけもなく、すぐ、わかりますでしょう。


 なななんだ、これは?



 しかし、その鳴き声は、次第に大きく、さらに、激しく、鳴き続けるようになりましたのです。


 小さい街とはいえ、ここは、その中心街の道路です。


 なんと、道行く人々が、みな僕の車を見て、びっくりしているではありませんか。


 つまり鳴いているのは、


 他ならない、ぼくの自動車そのものなのです。


 いやあ、これは、えらいことになりましたよお。



 ぼくは、『にゃー!にゃー!にゃー!にゃー! にゃー!』


 と、激しく鳴き続ける自動車を運転しつつ、まさに、焦りました。


 これは、まあ、さてどうしたものかと、焦りつつも考えたのです。


 自動車は、相変わらず、鳴き続けています。


 

 そこに、『ガソリンスタンド』⛽のマークが!



 ぼくは、そのまま、飛び込みました。


 しかし、給油機の前ではない、開いた場所に停車しましたから、もう、その時点で、ちょっと、怪しい。



 ああ、それから、ぼくは、生涯忘れられないセリフを、吐くことになったのです。



『すみませーん、自動車が、にゅあー、にゅあー、鳴くのです。助けてください!』



 これを聞いた、ガソリンスタンドの店員様は、唖然、茫然と、なさいました。



 そりゃ、ま、そうでしょうな。


 けれど、さっきまで、ひどく鳴いていた自動車はというと・・・、


 スタンド内に停車したあとは、さっぱり静かになっていたのです。


 こらこら。なんだい、それは。


 この、危ない雰囲気。


 こら、鳴きなさい。



 ぼくは、危うく病院に通報される、一歩手前に立たされていました。


 店員さんが、数人ぼくの周りに集まってきました。



 『うわあ~、どう言えばいいのさ! あ、あのですね・・・』



 困惑するぼくの横で、


 ついに、車が『にゃ~!』と、鳴いたのです!!



 さあ、こんどは、店員さんが慌てる番でした。


『おわ! 本当に鳴いた!な、なな、なんだこれは?』


 さあもう、大変です。



 自動車の中やら、下やら、ボンネットの中やら、天上やら・・・・


 数人がかりで、その犯人の姿を捜しまわったのですが、まったく姿がありません。


 しかしまた・・・・・・・


 『にぅゃ~!』


 と鳴くではありませんか。


 『おかしいなあ。おかしいなあ。どこにも、いないぞお~~~?』


 

 あたりに漂う、怪し気な空気。



 お寺の鐘が、陰にこもって「ぼ~~ん」・・・・・・・



 とは、まあ真昼の街の中なので、そうはなりませんでしたが・・・

 


 そうして、みんなで、さらに探し回った挙句のこと。


 『あ、いた、いた!』


 ああ、もう生まれて、そう間もないだろうという、小さな小さな子猫が!


 エンジンの『隙間』に、ねじれ込んでいたのです。


 『まあ、よくこんなところに入ったなあ。』


 みな、感心するやらびっくりするやら。


 いったい、いつ、どこから、入ったのか?


 本屋さんの駐車場で、こっそり、忍び込んだに違いありません。


 しかし、これは、なかなか、簡単に、事態が収まらなかったのです。



 出ない!


 出てこないのです


 小さいし、奥に挟まってるし


 引っ張り出そうとしても、さらに奥に逃げ込んでしまいます。

 

 『手が届かないよ。まいたな、こいつは。』



 ねこちゃん本人は、ぽかぽかと暖ったかいからか、そこがひどく気に入っているらしく、まったく出ようとはしません。


 店員様が、ようやく苦労して引っ張り出した!


 と思う間もなく、スタンド中の地面の上を、猛ダッシュして逃げ回り・・・


 早い、早い! ものすごく、早い!


 またまた、エンジンのお腹に逃げ込みます。


 これを、いったい、何回、繰り返したやら。


 つまみだしては、逃げ回る。


 また、エンジンに逃げ込む。



 やがて、やっとの思いで、お縄となったねこちゃんは、


 箱に入れられました。



 しかし、結局のところは、その寒い箱からは逃げ出し、やましんに、お礼もお詫びもせずに、どこかに走り去って行ってしまいました。


 あのお池に放した『かめさん』だって、『ばいばい』してくれたのにですよ!


 まったく、もう。



 ある、寒い冬の日の、恐ろしくも、おかしな、物語でした・・・・・。


 ああ、こわ。                    🐱



*******************************


 

                     《くたばれ! やましん》


 















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