第29話 『脱走!』

 以前どこかで書いたかもしれませんが、やましんは幼稚園時代から、脱走の常習犯でした。


 3歳から3年間、幼稚園にバスで通ったのです。


 やましんは、古~い記憶がいささかかなり残っていて、この幼稚園の入園試験も覚えています。


 「これは、何色ですか?」


 「この形は、なんですか?」


 「1から順番に数を数えてください。」


 という、感じでした。


 一番困ったのは、数を数えるという問題で、1から5あたりまでは、元気よく言えましたが、10に近くなるにつれ、声が小さくなって、いつしか、消えてしまったと覚えています。(自分のことですけどね・・)


 まあ、入園はしたものの、これが大変な『脱走犯』だったわけなのです。(自分の事ですけどもね・・)


 現在も、箪笥の奥に、当時の出席ノートが残っているはずです。


 ちゃんと出席したら、手帳にかわいいシールをはってもらえるのです。


 大分前に見たところでは、半分も行っていません。


 と言いますか、行くのは行っても、すぐに逃げて帰ってしまうのです。


 なぜ? 

 

 と聞かれても、本人も困ります。


 いやだったから、としか言いようがありません。


 大体は、すぐに探し出されてしまうのですが、幼稚園のそばで隠れても見つかる!という事実から考えて、ある日、これはかなり遠方に逃げるべきである。という結論に、いたりました。


 そこで、バス通りを歩いたのでは、さらに見つかる危険性が高いと思ったので、わざわざ裏通りを通過し、まんまと、「ねんど山」まで逃げ延びました。


 しかし、敵もさるもの。


 大々的な捜索を行われ、あえなく御用となりました。


 そこで、こんどは、逃げ出さないように、監視の目がきつくなり、なかなか逃げる隙がなくなってきたのです。


 小学校にあがってからも、脱走の機会を常に伺っておりましたが、小学校は幼稚園よりも近く、徒歩ですぐに行ける範囲で、毎日近所の子供が数人で誘いに来て、取り囲まれて行く(護送される)格好となり、非常に脱走しにくくなりました。


 しかし、親の仕事の都合で、小学校は4つ転校し、転校するたびに、さらにいじめられっ子となるという悪~い状況だったので、実のところは、なんとか脱走したくて仕方なかったのです。


 そこで、次にとる手段は、当然ながら、体調不調でお休みするという方策です。


 しかし、なんとな~く罪悪感というものもありますので、休んだ日は、自宅の奥の狭~い部屋の中や二階に逃げ込んで、隠れておりました。


 考えてみれば、60歳近くなって、仕事にさっぱり行けなくなりました際も、二階に隠れて、お客様にも電話にもさっぱり出なくなった訳なのですが、これはまあ、当時とおんなじだったというもんです。


 こまったもんだ。


 まあ、それでも、とにかくも無事に中学を出て、さらに『お前なんか高校に受かる訳がない!』という教師の驚愕の予言にもかかわらず、入試だけは、なぜか良い成績を出してしまい、なんと高校も受かってしまったりして、とにかくも、よくもわるくも、よくもまあ、卒業できたもんですなあ。


 当時は、学校というころが荒れ始める直前くらいだったのが、やましんには、多少なりとも幸いしたのでしょう。


 数年あとだったら、きっと、生きていられなかったに違いないです。


 20年ほど前に、母と一緒に、幼稚園の園長先生のお宅を尋ねました。


 母の事は『面影を覚えている』と、おっしゃっていましたが、『脱走常習犯』のお話は出なかったので、ほっとしました。



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