第12話 『演奏会』その2

 忘れ物をするということは、世の中、そう珍しい事ではありません。


 雨が降った後の電車内の傘などは、忘れ物の代表格でしょう。


 ときどき、変わった忘れ物のお話がテレビに出てくることも、ありますよね。


 しかし、やましんの忘れ物というのは、なかなか普通はやらない物のことがけっこうあります。


 その一例。


 人様の演奏会用のスーツを持って帰って来てしまったお話の、たぶんすぐ後。


 こんどは、県外で演奏会した後、るんるんと電車に乗って遠路帰って来たのは良かったのですが・・・


 またまた奥様のびーちゃんが言いました。


「あなた、服は?」


「は?」


「服よ、服!」


「あらら・・・・・」


 スーツ一式、全部どこかに忘れてきました。


 もう夜中の事とて、これまた翌日に。


 幸い最初に電話をかけた、演奏会したホールさまで当たり!


「ああ、スーツなら落ちてましたよ。」


「おそれいります、着払いでお送りください。」


「はいはい。」


 親切な担当の方は、すぐに送り返してくださいました。


 さすがに、取りに行く元気はなくて。。。


 でも、やましんの忘れ物癖は、なかなかこんなものじゃあ、ありません。


 買い物に行って、財布を忘れたことに気が付き、家に戻ったけれど、なにしに帰ったか忘れて、また買い物に行き、財布を忘れたことを忘れたことに気が付き、また家に帰ったけれど、またまた財布を忘れたことに気が付いたことを忘れたことを忘れて、そのまま買い物にお出かけし・・・・・なんていう、いささか病的な事もありましたが、これがその後の体調不調の先駆けであったとは、ちょっと気が付かなかったのですが、このことも、長く忘れておりました。


 比較的最近になってからも、お風呂にお湯を入れるのを忘れたまま飛び込むなんて、しょっちゅうですし、お湯でさえない事も、よくあります、


 まあ、こうした特技があることは、あまり周囲からは、なかなか認識してもらえない物です。(そりゃあ仕事上だったら、懲戒処分物ですから。)


 やましんは、いまさらしかたないとして、認知症などの方を、これをもって叱りとばしてはいけません。


 まあ、忘却とは忘れ去ることなり。


 思い出さない方が、かえって、幸せというものもある、かもしれませんです。


 都合のよいところだけ忘れる特技は、あまり持ち合わせませんけどね。






















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