第136話 魔導施設日報

●本日の業務

5:30 朝礼

6:00 給餌(朝)・除糞

10:00 第一種接続作業

11:00 不法来客者の対応

12:30 術士・ヘンリーによるメンテナンス

13:00 第二種接続作業

15:00 術士・ヘンリーによる定時メンテナンス

    および草人による世界樹への再接続

16:00 第三種接続作業

17:00 給餌(夕)・除糞

20:00 終わりの会・各部門清掃作業



●業務詳細

・朝礼

 例日通りの挨拶。

 三号、六号の魂魄の定着が安定せず不調。英霊による簡易メンテナンスを実施。


・給餌(朝)

 平常通り。

 実験的に、雷霊の餌にトネリコの木の根を使用。不評。


・第一種接続作業

 水牛六体、滞りなく接続。

【結果】全体の供給量は260%ほど。異常事態。黒竜の襲撃により、”魔導線”が一部欠損したことが原因と判断。術士殿と要相談。施設運営に支障なし。通常業務を再開。


・不法来客者の対応

 来客者:登録済みの公認”探索者”三名。不明な外国人二名。

 対応責任者:ロト・アーキテクト

【結果】二号、三号、四号、五号、六号、八号、十二号、十三号、十五号、十七号、三十一号および三十二号の損耗。施設内拘束触媒の破壊。詳細は下記参照のこと。


・術士よるメンテナンス

 連絡なし。術士殿の無断欠勤と判断。

 抗議文は作成済み。


・第二種接続作業

 雷霊二百体、接続。

【結果】予定の半分にも満たない接続数にも関わらず、供給量は規定の102%を記録。

 また、予定していた水牛の解体作業は霊員不足のため行えず。

 長期的な接続計画の再設定を術士殿に要請する。

 また、別途損耗分の霊員補充も要請中。


・術士による定時メンテナンス 草人による世界樹への再接続

 連絡なし。術士殿の無断欠勤と判断。

 抗議文は作成済み。

 また、草人による世界樹への接続作業が開始。

 今後のエネルギーのリソースは、草人を重点的に割くことにする。


・第三種接続作業

 焔馬十二体、接続。

 第一種・二種の例を計算し、供給量は最小限のものに抑える。


・給餌(夕)

 平常通り。特筆事項なし。


・終わりの会

水牛 接続数:6 全体数:77 不調個体:なし

雷霊 接続数:200 全体数:3888 不調個体:190

焔馬 接続数:12 全体数:100 不調個体:23

三つ首犬 接続数:0 全体数:5 不調個体:なし


・備考

 街に襲撃があったためか、一部家畜の不調が目立つ日であった。

 また、世話用の英霊が十二基損耗。重ね重ね追加分の霊員を申請する。



●来客者と、その対応に関する顛末(一部抜粋)

責任者:ロト・アーキテクト


 以下、接触時の音声記録。


外国人A(以下A)「ええと、――おじゃましまぁす」

外国人B(以下B)「旦那、敵が潜んでいるかもなのに、おじゃましますはないんじゃ」

A「しかし君、まずは敵意がないことを知らせないと」

B「敵意もくそも。あいつら縄張りに入った獣みたいに襲ってくるに決まってますぜ」

A「ふむ……」

B「どうしました?」

A「ああいや、やはり相手の”気配”を読み取れないと思って。やつはどうも、”魔族”でも”人族”でもない存在みたいだ」

B「?」

A「気にしないでくれ。こっちの話だ」

B「ん。まあいいや。……しかし、なんだか思ったより不気味なとこですなァ。あっちこっちに術式みたいなモンが描かれてる。これじゃあ、どれを”観”ちゃダメなのか」

A「まあ、もし君が塩の柱になっても、その犠牲は無駄にしないよ」

B「ヒデェ。こりゃあ着いてく人を間違ったかな」

A「そう言うな。そのガントレット分は働いてもらうぞ」

B「ハァ。……今からでも、ソフィアさんに助けを呼んだ方が」

A「言い出せる雰囲気じゃなかったろ」


 ここで責任者が対応。すでに作成済みの抗議文を読み上げる。

 抗議文は以下のもの。


『いかでかさることをするや。あないみじ。いかでか我が同胞を打ち給うか。あないみじ。』


 再び来客者の対応記録。


B「なんか言ってますぜ、こいつ」

A「なんて言ってるかわかる?」

B「サァ?」

A「あないみじ……? 古語なんてもう忘れちまったよ」

B「でもたぶんだけど、だいたいはわかりますぜ。『もう酷いことをしないでくれよ、ほんと頼む』、的な」

A「だろうね」


 抗議文が十分な効能を発揮したことを確信し、次の対応段階に移行。

 以下は術士・ヘンリー殿による現代語訳済みのテンプレート抗議文である。


『不法侵入について

 拝啓、時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。

 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。


 さて、貴下におかれましては、無益な対立を避けるべく行われた再三の忠告にもかかわらず、我がグラブダブドリップにおける心臓部とも呼ぶべき魔導施設に侵入していることを改めて警告させていただきます。

 つきましては、不法な施設侵入への対応措置として、施設内に組まれたA級触媒を起動し、その身柄を強制的に拘束させていただくことをここに宣言します。

 なお、この対応により生じうる損害、怪我、後遺症などに関しましては一切の責任を負いかねますのでご了承ください。


 国家生活保護機構 ヘンリー・ヴィクトリア』


 本対応後の活劇に関しては主旨とそれるため、割愛。

 しばしの後、来客は帰還。

 一部の施設設備に損耗。業務に支障なし。

 それ以上の特記事項なし。



「――来ますぜ、旦那ァ!」


 サイモンが金色のガントレットを構える。


 怪人が長々と抗議文を読み上げるのを待っていたのは、別にこういう時まで紳士的であろうとしたためではない。

 それとなく、施設内の構造を確認する必要があったのだ。

 ソフィアの”マジック・アイテム”を接続するには――なんでも、”魔導線”が集積した施設の”核”となる場所が無傷である必要があるという。

 そのためにも、敵が潜んでいるかもしれないといって”施設”を根こそぎ破壊してしまうわけにはいかなかった。

 すでに施設外壁をぐるりと回って、おおよその内部構造は想定できている。

 あとは、そこからうまく危険なものだけを取り除けばいい。


 最低でも、目の前に立ちはだかる怪人と相打ちになれば……。


――ステラのあの感じだと、塩化の術を受けてから実際に変異するまでは、少しタイムラグがあるようだった。


 つまり、術を受けてもすぐさま触媒を始末すれば、なんとなかる可能性は高い……。


『許さぬ迎へまうで来たり。遣るまいぞ遣るまいぞ』


 そうして、彼らの前に立ちはだかる”責任者”は、緩慢な動作で立ち上がる。

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