夢のキャンパスライフ。私の隣にはあなたがいる。
あやめが大学入学して1年経過した頃のお話。
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「この資料コピー、他の班員にも配ってるんだけど、来週の実験ではここが参考になると思うから読み込んだらいいと思うよ」
「わざわざありがとう! …あっ先輩! ここです!」
「……悪いな。講義が長引いて遅くなった」
「いえいえ……じゃあね三浦君」
「うんまたね」
先程まで話していた同級生に別れを告げると、待ち合わせ時間に遅れてやって来た先輩と合流して私達はカフェテリアに向かった。
カフェテリアで待ち合わせても良かったけど、構内の何処かで待ち合わせしていくのもワクワクするから全然いい。
「…今の誰だ」
「え? 同じ専攻の同級生ですけど…?」
先輩はご機嫌斜めそうな声で私に問いかけてきた。
今の、と言うのは冒頭で私が会話していた相手のことだ。
理工学部全体となると男子比率が高いが、私の所属する専攻学科は比較的女子も多い。実験やグループワークも多いので、他の学部生よりも同級生と密接に関わる機会が多いと思う。
先輩を待ってる間、勉強熱心な同級生に声を掛けられて、次回の実験授業で参考になりそうな資料のコピーを元にアドバイスをしてくれたのでありがたく拝聴していた所で先輩がやって来たという訳である。
それを説明したのだが、先輩は面白くなさそうな顔でムッスリしている。
まさか私の不貞を疑っているのか? 喋ってただけだぞ? そもそも私のような何処にでもいそうなJDにアプローチする男の人がいるわけがないだろう。JKの時もモテなかったんだから!
「三浦君はウチの実験班のリーダーなんです! 勉強熱心でみんなに平等に参考になる資料をくれたりしてるんですよ! だから先輩が心配しているような間柄じゃないんですよ?」
「……別に…そんなこと言ってないだろ…」
「じゃあなんで不貞腐れてるんですか!」
さっき先輩がムスッとしてたから三浦君が超困った顔してたぞ! これからアドバイスをもらえなくなったらどうしてくれるんだ!
「先輩だって同級生の女の人と話したりしてるじゃないですか! サークルの女子部員と話してるじゃないですか!」
「俺はあんなにヘラヘラ笑ったりしていない」
「はぁぁー!? 私に笑うなって言いたいんですか!?」
大学生になって、なんだか先輩はヤキモチ妬き度が増した気がする。
高校の時も波良さん・山ぴょんとか、私の身近にいた男の子に嫉妬していた時期があったけど、沢渡君みたいなタイプには嫉妬しなかったし、先輩のヤキモチの基準がよくわからない。
沢渡君は後期試験でなんとか私大に合格したけど元気にしているだろうか……彼のことだから何とかやっているだろう。
私は未だに不機嫌そうにしている先輩をキッと睨み上げた。
「先輩! ヤキモチ妬いても可愛いだけですからね」
「…可愛いくない…」
「ほらほらご飯食べますよ! ご飯!」
いつもカフェテリアで食事をするが、毎回私はお弁当を持参している。何を隠そうウチの母手作りの。学業優先ということでまだ母に甘えている面があって少々情けないが、ありがたいと思っている。
そんでもって多目に入れてもらっているので、一緒にお昼をとる時は先輩にも分けているんだ。だから私が持ってきているのは男性が使いそうな大きなお弁当箱なのだ。
「先輩は私の彼氏でしょう? 私が先輩のこと大好きなの知ってるのに信じてくれないんですか?」
「そういうわけじゃない…」
私はお弁当箱の蓋の裏にヒョイヒョイとおかずをいくつか載せると先輩の方に差し出す。今日はピーマンの肉詰めとパプリカのピクルス、小松菜のおひたしに卵焼きですよ。
先輩は「いただきます」と呟くと静かに食事をしていた。
機嫌が治るまでそっとしていた方がいいのだろうか。
この後お互い別の講義で別れるから、今のうちに機嫌直しておきたいんだけどなぁ。
【ポコポコ♪】
先輩の機嫌を治す方法を模索していると、机に置いたままのスマホが鳴った。メッセージ受信したらしい。
私はスマホを手にとってメッセージを確認する。内容は同じ学科の友人からの飲み会へのお誘いだった。
理工学部の学生達で交流会しようって内容で。
「……先輩、今夜友達に飲み会誘われたんで、今日一緒に帰れません」
「…飲み会? …酒を飲むのか…?」
「私こないだ20になったからお酒OKなんですよ」
この間私の誕生日を祝ってくれたのに忘れたのか。その時一緒にお酒飲んだじゃないか。
先輩の中で私はまだおこちゃまなのか? 先輩だってたまにサークルの飲み会に行ってるじゃないの。
「同じ学部の生徒達で集まって交流しようって」
「駄目だ」
「えっ」
「…男が来るんだろう…」
「……先輩、先輩だって女性がいる飲み会に行ってるじゃないですか…サークルのね。更に別の大学のサークルとの合同の飲み会とかね」
先輩ってこういう時、自分の立場になって置き換えられないよね。私が女の人がいるのに不安がっていても「先輩に逆らえないから」「心配するな」って流してさ。
先輩が不安なら私だって不安なのに勝手すぎるよ! 今日という今日は言わせてもらう!
「同じ学部生との交流は必要不可欠です! 私達は純粋に学業のために交流会するんですから! 先輩のサークルみたいな下心満載コンパまがいな集まりじゃありませんもん!」
私は日頃の不満を込めて、そうはっきり言ってやった。先輩の言っている事は説得力がない!
今夜私が行くのはサークルとは違う、理工学部生での集まりだ。同じ学部での人脈も出来るし、こういう交流会は後々役に立つと思う。…そもそも目的はサークルとは全く違うのだ。
あわよくば「お持ち帰り♪」とか「彼氏彼女作るぞ!」という出会い目的なサークルのような飲み会ではないのだ!(あやめの偏見です)
先輩が行っているような飲み会と一緒にしないでもらおうか!
ふん、と私が鼻息荒く反論すると、先輩は眉を顰めていた。
「言いがかりも大概にしろ。俺は邪な気持ちで参加してるんじゃない」
「それはこっちのセリフです! 先輩はもう少し私を信用するべきです! それと私に行くなと言うなら、先輩も飲み会に行かないでくださいよ!」
「俺にも付き合いってものがあるんだ」
「私だってそうですよ!」
「「………」」
話は膠着状態になってしまった。
「おいおいお前ら、大学の食堂で痴話喧嘩すんなよ」
「だって大久保先輩! 亮介先輩ったら酷いんですよ! 私の行動を束縛するくせに自分は許されるみたいな発言するんだから! 納得いきません!」
私達が睨み合いをしていると、丁度お昼を取りに来たらしい大久保先輩が声を掛けてきた。
お盆の上には湯気を立てている醤油ラーメンとオニギリ2個、コロッケという炭水化物多めなメニューが載っかっていた。野菜はどこに…? じゃがいもは野菜だけど…炭水化物じゃないの…?
「お前は大学生になってもちっとも落ち着かないじゃないか! いいか理工学部なんて男の集まりなんだぞ! 飲み会なんかに行った時にはお前みたいな無防備な女は真っ先に狙われるんだからな!」
「なわけないじゃないですか!」
失礼な! 高校生の時よりは落ち着いたと思いますけど!? 私はもう大人の女性なのよ!? 大体先輩は過保護すぎるの!
ぎゃんぎゃんと言い合いをはじめた私達を尻目に、大久保先輩は亮介先輩の隣の席に腰掛けて、ラーメンを啜り始めた。この人変な所で肝が据わってんだよなぁ。
「ていうかさ」
大久保先輩は口の中のものを咀嚼して飲み込むと口を開いた。ナチュラルに私が先輩によそったおかず(ピーマンの肉詰め)を掠め取りながら私達にこう言ってきた。
「心配なら亮介も着いて行けばいいじゃん」
「はぁ!?」
「じゃねーとこいつ絶対譲らないぜ。あーめんどくせぇなぁ。嫉妬深い男はよぉ」
「…うるさい。あとおかずを盗むな」
大久保先輩のとんでもない提案に私は開いた口が塞がらない。
彼氏同伴の交流会って何よ。悪目立ちするじゃないの。
「やです! 保護者同伴みたいでやだ!」
しっかり拒否の意を示したのだが、先輩は私に着いてきた。
マジかこの彼氏様。
理工学部のメンバーは法学部生が参加してきたことにちょっと戸惑っていたが、そんな中でも先輩は理工学部系の話題に興味を示していた。彼らの話を熱心に聞いて時折質問していたからか、学生達の議論が加熱してあっという間に交流会の輪に溶け込んだ。
そう、理工学部生の私よりもね……
なんか仲良くなって理工学部の学生とメルアド交換してるし…なんなのさ…
理工学部生と楽しそうに会話している先輩。
私はそれをやさぐれた表情で見つめていた。タレの付いた焼き鳥を齧りながら、カシスネーブルをグイッとあおる。悔しいから会費分飲食してやるわ。
「あんた…その飲み方、荒れたサラリーマンみたいだからやめなさいよ」
「だって…」
「…あやめの彼氏って過保護よね」
「…何も言わないで…」
この交流会に誘ってくれた同じ学科の友人に生温い目で感想を言われてしまい、私は恥ずかしくて頭を抱えたくなった。
それ以後、亮介先輩は理工学部生交流会の常連…ていうか主催者にゲストとして呼ばれることが増えることになる。法学部生なのに何故だ。
…うん、まぁ先輩の彼女ということで有用な情報が流れてくるようになったから結果オーライなんだけど…私、理工学部生だよね? なんでオマケみたいな扱いになってんだ?
考えていたら何だかもやもやし始めたので、私も今度同じことをしてやろうかと画策している。先輩の飲み会に我が物顔で居座ってやるんだからな…!
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