小話・文化祭のその後で。

文化祭の後のあやめ視点、そして三人称視点の橘夫妻の会話。

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「ただいまー」

「あ、あやめちゃん!」

「アヤ、すごかったんだよー!」

「え?なにが?」


 文化祭が終わり、帰宅していく亮介先輩を見送った後。自分の教室に戻った私に、遅番だった花恋ちゃんとユカが鼻息荒く声を掛けてきた。

 一体何がすごかったというのか。


 私の疑問に答えたのは未だゾンビメイドな花恋ちゃんである。


「女の人がね、あやめちゃんの作ったプリンをたくさん食べちゃったの! もう! 本当にすごかったの!」

「え…」

「すごい美味しそうに食べてたから、こっちもわんこそばみたいにお代わりを出しちゃったけど、あの人何者なんだろう?」


 うん、それ誰か知ってる。

 英恵さん、どんだけ甘いものに飢えているんですかあなた。よくも今まで息子にバレませんでしたね。

 自分が勧めといてなんだけど、彼女の血糖値とかが気になる。…大丈夫なのかな?

 ……ちょっと先輩に相談してみようかな。ギクシャクしてても多分先輩だって親のことは気になるだろうし、病気になってたら困るもんね。


「そっかー…」

「あ、いっけない、片付けしないと!」

「アヤは後夜祭の準備しなくていいの?」

「あーそうだね。ちょっと片付けしたら準備するよ」


 突然の来訪だったけども、なんだかんだで橘夫妻は文化祭をエンジョイしているようだから良かった。

 ……しかし、髪の色がなぁ…印象悪くなってしまったのが痛手だな。

 マイナスからのスタート覚悟で頑張るしかないな。



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「結局、トリックは暴けたの?」

「…手こずったが、なんとかな。なかなか面白かった」


 中年の夫妻が肩を並べて夕暮れ時の道を歩いていた。

 男性の手には手作り感満載の冊子があり、それには【制作・ミステリー研究部】と書かれていた。


「危うく高校生にしてやられるところだった」

「あなたもそう若くないんだから、はしゃぐのは程々にしてね」


 高校生に混じって真剣な表情でトリックを暴こうとしていた夫の姿を思い出して、婦人は呆れたようなため息を吐いた。

 その反応にムッとした様子の男性は婦人をジト目で睨みつける。


「…お前こそ、亮介の彼女のクラスで大量にプリンを食べていただろうが。全くいい年して…高校生に引かれていたのに気づかなかったのか?」

「…あなたが私を待たせるからでしょ……それに」


 婦人はバツが悪そうに顔をしかめた。冥土喫茶の子たちが気を遣って、沢山プリンを提供してくれたのでついつい食べすぎたことは否めない。


「…それに?」

「あやめさんの作るお菓子はとっても美味しいのだもの…止まらないのよ」


 とてもおいしかった。

 婦人が恍惚とした表情でそう呟いたのを見た男性は、彼女から目をそらし、夕日を見上げた。


「……亮介に、言っておいたほうが良いな。彼女の作った菓子を英恵に与えるなって」

「!? 何を言っているの!?」

「お前はいくら言っても限度を弁えない。俺はお前の身体の為を思って言っているんだ」

「私は大丈夫よ!」

「なら健康診断の結果を見せなさい」


 夫の要求に婦人はハッとした表情をして、目を逸らすと固く口を閉ざしたのであった。

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