盗撮は犯罪。ダメ、絶対。
あの時、亮介先輩がお母さんの英恵さんと電話で何を話したのか、お父さんが一体どうかしたのか、私は詳しく話を聞きたかったけど聞けなかった。だって家まで送ってくれた先輩はどこか上の空だったから。
何があったんだろうか。
もしかしたら先輩の触れてほしくない事情かもしれないから、私は踏み込むのを躊躇ってしまった。
タイミングよく橘兄とどっかで遭遇できたら、こっそり聞いてみようかな…
中間テスト前に入った私と、大学が始まって授業と文化祭の準備とサークルで忙しくなった先輩は、お互い忙しく過ごしていた。
とはいっても休みの日にお勉強デートしたりしているんだけどね。
テスト勉強を兼ねたお勉強デートの休憩中に、先輩の大学の文化祭の話を聞いた私はうずうずしていた。
行きたい、大学の文化祭に行きたい…!! 先輩は所属してる剣道サークルで公開試合するんだって! すごく見たい!!
一時間、一時間だけなら息抜きに行っても良くないか? そう、こっそり先輩の姿を見たら帰るから……
だけど私の企みがバレたのか、「受験生は勉強しろ。…来年になれば一緒に回れるだろう?」と言われてしまった。
……私は大学の文化祭に行くのを渋々我慢するしかなかった。
わかっている。私は受験生なのだ。
交際をしても勉強は疎かにしないという先輩との約束を守り通さなければお話にならない。
「…写真…動画でもいいから文化祭の様子を送ってください…」
「わかったわかった。…さて勉強再開するか」
勉強しろと言われ、私は開きっぱなしのテキストに目を落とした。
そうだ、頑張らないと。
あともうちょっとでセンター入試の日がやって来るのだ。一時の気の迷いで点数を落としてはならないのだ。
私は問題を解きながらふと思った。……他人事だけど、沢渡君は本当に大丈夫かな。この間担任が嘆いていたけど。主にテストの点数の件で。
私も去年散々担任を嘆かせたけど、教師って大変だよね。
中間テスト二日前の土曜日。
先輩の大学で文化祭が行われている真っ最中に、私は煩悩を振り払って勉強していた。今日は気分を変えて図書館にやって来たんだ。
あさイチで自習室の席をゲットすると、私は四人掛けの席を制圧していた。
…いつもは誰かが座りに来るのに誰もこない。
滲み出る私の煩悩に人々が避けているのだろうか。
「あれ、あやめ? お前も来てたのか」
「! 山ぴょん…それに箕島さんと朝生さんまで…」
そしてこのタイミングでトライアングルな彼らが登場した。元カノコンビは表向きはにこやかだけど、お互いに牽制しあっている。こわい。三角関係こわい。
あ、なんか嫌な予感がする……
「ここ座っていいか」
「えぇ…山ぴょんがぁ…?」
ナチュラルに私の隣に座ろうとするな。椅子に載っけてる私の荷物どかすな。
許可してないのに、私の隣に山ぴょんは座りやがった。
ちょっと頭痛がしそうだったが、仕方がないな。私は元カノコンビと山ぴょんに念押しするように声を掛けておいた。
「…私、ガチで勉強してるから……ホントに巻き込まないでね…?」
「お……おう……」
「……うん」
「わかった…」
皆は大学合格圏内なのかもしれない。受験なんて余裕なのかもしれない。
しかし私は油断すると転落するのだ。本気と書いてマジなのだ。だから痴話喧嘩に私を巻き込んでくれるな。
カッと眼力で三人を威圧しておくと、三人がビクリと怯えた様子になったので多分これで大丈夫。
私はサッと頭を下げてテキストの問題を解くのに集中したのである。
その後特に危惧していた修羅場はなく、皆おとなしく勉強をしていた。
やれば出来るじゃないか。
因みに昼食は別行動させてもらった。誘われたけどやんわり断りました。だって面倒くさいじゃないの。
「方向一緒だから一緒に帰ろうぜ、あやめ」
夕方になって私が帰る準備をしていると、山ぴょんが一緒に帰ろうと私を誘ってきた。
私は思わず遠い目をしてしまった。
「……私文房具店に寄ってくから一人で帰る」
…この状況で何言ってんの? あんた女子二人を侍らして来といて、なんで私を誘うのよ。私彼氏持ちなのよ。幼馴染といえど男と二人で帰りたくないんだよ。
文房具店まで着いて行くけど。とのたまう奴に「女の子二人を家まで送ってやったら?」と切り捨てて、私は一人で図書館を出ていったのである。
アホかあいつは。あの状況で幼馴染を誘うってどうかしてるぜ。
☆★☆
中間テストを無事終えて、生徒たちは早くも文化祭モードに入っていた。
沢渡君はいつもにも増して力を入れているが、担任に呼び出される回数も更に増えていた。彼は担任から説教をされた後は凹んでいるけど、文化祭の準備をしていたらその事を忘れてしまうみたいだ。
その切り替えの良さ、悪くはないけど今のこの受験生という状況下では命取りな気がするな。いやそれが沢渡君という人間なんだけど…
沢渡君が浪人生になったら、更に勉強し無さそうな気がするんだけど。
文化祭の出し物は冥土喫茶。
去年と同じく和洋折衷なホラーハウス風の喫茶店をコンセプトにしている。
私は去年と同じくティファ○ー姿でもいいけど、折角ならメイド服が着たい。
…先輩可愛いって言ってくれるかな? いや…ゾンビメイクすることになるからそれはないか。
衣装を各自で準備し、他にすることは喫茶店の内装とカフェメニューの準備だ。学生の文化祭なので無難なものでいいと思うが、やっぱり萌え萌えオムライスは必要だと思うの。後オプションの写真撮影ね。
先輩が来たらケチャップで名前を書いてあげるんだ!
……そういえば去年メイド先輩にもオムライスにケチャップで私の名前を書いてもらったけど、羞恥心からか字がブレッブレだったんだよね。思い出すとおかしくなってくる。
それはともかく楽しみだ。
高校最後の文化祭、より良いものを創り上げたい。
クラスメイト達も高校最後の文化祭に並々ならぬ情熱を燃やしているように見えた。
「アヤッ! ちょちょちょ、これみて!」
「なに? 雑誌?」
とある朝の登校時間。
ユカが勢いよく教室に入ってきたかと思えば、すごい形相で私に雑誌を見せてきた。差し出してきたのはファッション雑誌なんだが、それがどうかしたのだろうか。
これ昨日発売の雑誌か?
「和真君が載ってんの!」
「…え?」
ユカに言われるがまま、和真が載っているらしいページを見ると……確かに弟だ。
しかもうちの制服姿で。…だがカメラを見ていないので間違いなく盗撮であろう。
街のイケメン特集と書かれた記事に、デカデカ1ページ丸ごと和真が載っかっていた。
しかし、和真がこういう目立つようなことを進んでするとは思えないし、載ってる事自体知らないと思う。雑誌に和真の名前は載ってないけど、高校の制服が載ってるのがな……
私はその雑誌をユカから借りると、そのまま弟のいる二年のクラスを訪れた。
和真は友人らしき男子生徒と楽しげに雑談をしていて、邪魔したら悪いとは思ったのだが、言っておかないとあいつも混乱するだろうと思うんだよね。
「和真ー」
私が出入り口からそう名を呼ぶとそれが聞こえたのか、和真が振り返った。私が手招きしているのを訝しげにしつつも席を立ち、私のいる場所まで来てくれた。
「なに?」
「これ。あんた載ってたから教えてあげようと思って」
「……なにこれ」
「ファッション雑誌のイケメン特集。ユカが教えてくれた……やっぱり知らなかったか。盗撮されたんだろうね」
雑誌に映る自分の姿に和真は顔を歪めていた。ショックなのか、それとも知らない間に盗撮されていたのが気持ちが悪いのか。それとも両方か。
「…制服姿だから近隣の人が来るかもしれないよ。…気をつけて」
ミーハー女子の勢いというものは凄まじいものがある。多分何人かは学校までやってくると思うんだよね。
うちの高校の制服はシンプルな紺のブレザーだけど、胸元のエンブレムを調べればうちの校章だってわかるだろうし。
となると身内の私にも何やら関わってきそうな気がする…
……頼むからトラブルだけは勘弁してくれ。私は受験生なんだよ。
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