第6話 魔法戦チュートリアル

ヒッヒッヒ、ヒャッヒャッヒャ。

神経を逆撫でするような笑い声が飛び交っている。

中には武器を落とし、腹を抱えてるヤツすら見える。

こちとら大真面目だぞオラ。

オレの相「棒」はマジやべぇからな。



「こいつぁ良い! 女を前にしていきがってやがる。この人数が見えねぇのかよオイ!」


「こんなバカ初めて見た! そんな棒キレで何する気だっての!」


「おい、んな事やってねぇで、オメェもオレらに加われよ。そうすりゃ一回ぐれぇ女とヤラせてやっからよぉ!」



ゲラゲラゲラ!

こういうヤツらの笑いって嫌いだ。

人を傷つける事が前提にあるからカンに障るんだろうか。


それはさておき、実を言うと攻め方に悩んでいた。

負けることは無いにしても、無傷の勝利は難しいと感じている。

前と後ろ。

オレがどちらに襲いかかっても、残った方がレジーヌたちに手をかけるだろう。

ともかく挟み撃ちの状況が厳しい。



「クソ……どうすっかな。せめてもう1人居れば……」


ーーミノル様。敵は小粒ばかりですが、多数で群れている為処分が面倒です。ここは魔法で一掃すべき状況かと。


「マジで? オレに使えんの?」


ーー標的に両手で狙いを定めつつ、私の後に続いてください。天上の神よ、大地の徒たるミノルが祈る。


「て、テンジョーの神よ。大地のトたるミノルが祈る!」


ーー天と地は遥かなれど、偉大なる裁きの光を我が元へ届けたまえ。


「天と地ははるかなれど、偉大なる裁きのの光を、我が元へ届けたまえ!」



そのとき、体から力を抜き取られたかのような、不思議な疲労感が襲ってきた。

それとともに、空が突然曇りだす。

さっきまで晴れ渡っていたのに、ゴロゴロと不穏な音をたてつつ、嵐のような暗雲が立ち込めたのだ。



「な、何だぁ? 急に空が……」


「お前ら! 早くアイツを殺せ、グズグズするなッ!」


「どうしたんだよ、ブレイドの旦那。まさか雷が怖いってのかい?」


「バカ野郎! あれは魔法だ! オレは戦場で嫌というほど見てきたんだぞ!」


「魔法って、あんなガキが……?」


「かかれ! 今すぐにだ!」



突然の攻撃命令に、誰も反応できていない。

足元に転がる武器を慌てて拾う有り様だ。

詠唱完了まで邪魔されなかったことは、こっちにとっては幸運だった。



ーージャッジメント・ダウン。


「ジャッジメントダウーーン!」



オレの声に呼応して、空に雷鳴が轟く。

そして、眩い光が降りてきた。

次の瞬間には地を揺らし、坂を削り取る程の雷が地面に落とされた。


ドドォオオン!


断末魔の叫びすら焼き切ってしまったのか、辺りはにわかに静寂に包まれている。

前方で笑っていた20人のほとんどが光によって命を落とした。



「おいおい、こんなヤツが居るなんて聞いてねえぞ!」


「た、た、助けてくれぇ!」


「クソ、役立たずどもめ! ここは退くしか……」



前後方から悲鳴があがり、山賊たちは散り散りになっていった。

それに紛れてブレイドも逃げようとしている。

アイツだけは始末しないと面倒な事になりそうだ。



「アリア、あいつを仕留めるぞ。詠唱を教えてくれ!」


ーーお答えします。魔法の発動に詠唱は必須ではありません。魔力を使用しつつイメージすれば、それだけで発動します。


「はぁ? じゃあさっきのは何だったんだよ!」


ーー雰囲気です。華々しい鮮烈なデビューを飾る為のものでした。


「ああ、もういいよ! イメージ、イメージ……」


ーー目標が索敵エリア外に逃走しました。追撃をするには接敵してください。


「クソッ! 逃げ足速ェな!」



オレはチラリと後ろを振り返った。

敵が逃げ去ったとはいえ、レジーヌたちを残して追いかける訳にはいかなかった。

単独で追いかけて深追いできるほど安全ではないだろうから。



「すまん、レジーヌ。あの野郎を逃がしちまった」


「……ミノル様」


「一言謝らせるくらいはさせたかったんだが、失敗した」


「ミノル様!」



その時、2人が同時にオレへと飛びついた。

右腕にレジーヌ、左腕にシンシアだ。

4つの瞳は見開かれ、光を自ら放っているかのようにキラキラと輝いている。

暴言によって傷つけられた少女たちの面影は、もはや欠片も残されていない。



「その若さであれだけの魔法を使えるだなんて、あなたは何者なの!?」


「いや、自分が何者なのかはオレが聞きたいくらいで……」


「魔法だけじゃなく、接近戦もお強いですよね? 山籠りしてた剣聖さま、あるいは術師さまですかぁ?」


「わからん。つうかお前らさ……ショックなんじゃないの? 仲間に裏切られたんだろ?」


「それはそうだけど、ねえ?」


「いやー私は予想してましたよ、ありゃあ絶対裏切るヤツだってねぇ」


「でもこうして途轍(とてつ)もない力を持った方に出会えたのだから……」


「もうお釣りが来るような幸運ですよね、姫さま!」



2人の圧力が強くなる。

逃がさねえぞ、という無言のプレッシャーを乗せて。

その時、両腕にたまんねぇ感触が伝わってくるが、今はそれ所じゃない。

何せ人生がかかっている瞬間なのだから。



「ミノル様のお力があれば、祖国復興も容易いわ。アルフェリアの連中に一泡吹かせられるわよ」


「いやいや勝手に決めんなよ。オレはそこまで肩入れするなんて言ってない……」


「良かったですね姫さま! これからはミノルさまが養ってくれますよぉ」


「ふざけんな! いきなり寄生する気かよ!」


ーー妾(めかけ)1号2号の確保、おめでとうございます。鮮やかなお手並みには感服いたしました。


「誰か、誰かオレの味方をしてくださいぃぃ!」



追い詰められた果てに悲鳴が飛び出す。

それを聞いて駆けつけてくれるヒーローは、とうとう現れなかった。

誰か、この強引な女たちからオレを守ってくれ!

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