第78話 私として

「そんなに赤くなって…俺達の事、意識しちゃった?」




うっさい、耳元で囁くな柴犬!恥ずかしいわ!




「今更ですけど、私達も男なので少しは


警戒していただかないと」




シオンお前もか!耳元で低い声出すな!




顔を真っ赤にしてあわあわしてる私を楽しむように双子は同時にくすりと笑うと声を揃えて私の耳元で更に追い討ちをかけた。




「俺達は」


「私達は」


「「貴女を愛しく思っている」」




心臓が、五月蝿くて、なにも聞こえないと言い訳したくなるほどに衝撃的だった。


私が硬直しているのを見ると双子は悪戯を成功させた子供のように笑い、するりと手を離して会場に戻っていく。


「じゃあアザミ様、後でな!俺、飯食ってくる!」


「あまり冷えすぎないうちに戻ってらしてくださいね」


「…………………………はい」


私は自由になった両手で顔を覆いながら小さく返事するのが精一杯だった。






バルコニーで一人、顔の熱を冷ましながら考える。




愛しいとか、言われた…ついでにぼそっとどっちかから生涯を捧げるとか言われた……。重いと思う反面喜んでいる自分がいる。ちくしょう、乙女ゲームかよ!………忘れてた、乙女ゲームだよ!イケメンずるい!!


愛しいっていってもほら家族愛とか…あるよね!そっちだよね…………!


……そっちでそんな恥ずかしいことするの!?




私がぐるぐる考え込んでいるとアレクがやって来た。


「アザミ、大丈夫ですか?」


顔を覗き込まれて、赤みが引いてることを願いながらこくこくと頷く。アレクは一瞬、目尻をピクリと動かしたけれどいつもの微笑みを浮かべて私の髪を撫でる。


「今日はいつもよりとても綺麗ですね」




あ、はじめてドレス誉められた。




「はい、侍女さん達が頑張ってくれました」


なんとか冷静を取り戻した私は微笑んで見せる。するとアレクは苦笑を浮かべた後、私の頬をさらりと撫でた。


「アザミが素敵だからですよ」




おおぉうい、アレクまで何を言い出すんですか!




「…アザミ、以前父上が言ったこの国の妃になるという話。本気で考えてくれませんか?」


真剣な口調に思わず息を飲む。アレクは真剣な眼差しで此方を見つめると私の手を取り、甲に口付けた。


その瞬間もう一人が割って入ってきた。


「それは私も是非考えてもらいたい案件だな」


「……兄上、とっとと会場に戻られては?」


「お前こそ戻れ、魔導一族の少女達がお前の姿を探していた。挨拶くらいはしておけ」


「…………わかりました。アザミ」


「は、はいっ」


「また今度二人きりの時に続きを話しましょう」


アレクはにっこり微笑むと会場に戻って行った。何処と無く雰囲気がシオンに似てきたとか、シオンに比べて少し影が見え隠れしてきてるとか、絶対に言わない。




「全く…油断も隙もない」


アレクを見送ったクラウドはため息混じりに呟く。そして私の頭をぽんぽんと撫でると優しく微笑んだ。


「無理にこの国に嫁げとは言わない、安心してくれ…優先すべきはアザミ殿の気持ちだ」


さすが第一王子……女性の扱いが上手いようです。




「ありがとうございます」




苦笑浮かべながら気遣いに対して礼をのべるとまた頭を撫でられる。


「……けれど、もし…その…考えてくれるのであれば私の事も視野に入れてくれると嬉しい」


ぽつりと聞こえたその言葉に顔をあげると、耳まで赤くしたクラウドの横顔があった。私の視線を感じたのかみるな、と呟きそっぽを向く。


吊られて先程冷めたはずの顔の熱がまた上がっていくのを感じる。




「…私も、アザミ殿の事を少なからず…想っている。だから、少しでもそういう対象として…考えて欲しい」


「…はい」


小さく頷くとクラウドは安堵したように微笑み、会場へ戻ったしまった。






本当に…今日はいったいなんなのだろう…。心臓が早鐘を打ち過ぎて痛いくらいだ。




両手で心臓を上から押さえつける。




突然のことすぎて整理がつかないけれど、時間をもらって一つずつ向き合っていこう。


族長ではなく、私として。


そして、想いを向けてくれた彼らにしっかりと答えを出せるように。








そう決意して私は音楽と人で賑わう会場へ戻るべく踏み出した。

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悪役族長の家族修復計画 枝豆@敦騎 @edamamemane

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