第71話 召喚者

「んー…と。おにーさんが人に良く思われたい時ってどうする?」


「良く思われたい人の前で、何か良いことをする」


「正解。まさにそれなのよ」


先程の口調をやめて修二が頷く。


「例えば誰にも、それこそ東の国一の剣の使い手にも倒せないような敵が現れてさ、それを自分が倒したら人々に好印象を与えられるでしょ?」


「……つまり、国民の前に鬼を召喚して、それを倒して自分の好感度をあげようと自作自演したわけか」


「クラウド殿下、大正解です。まぁ、仕入れた魔石使いきっちゃって制御できなくなったのは予想外だったみたいですけどね。暴走と分かった途端、シリウス殿下は逃げ出したみたいですから」


私は話を聞いて頭の中を簡単に整理する。






鬼を召喚した犯人、東の国のシリウス王子。


理由、自分のイメージアップを狙っての自作自演をするため。


結果、魔石の力が足りなくなり暴走した鬼はたまたま通りかかったクラルテ国の男達を襲ってしまった。




つまり自作自演が失敗し、他国の人様に多大なる迷惑をかけたということか。


何てヤツだ。




「暴走した鬼はどうなった?」


「居合わせた忍一族が仕留めましたと報告を受けてます、放置しておけないですし」


クラウドの問いに修二が告げる。そして思い出したように顔を上げた。


「もしかしたら今夜、また召喚するかもしれません。今朝、シリウス殿下宛に魔石が届いていましたから」


その言葉に私は思わず空を見上げる。




夕日はとっくに沈み、空には月が登り始めていた。
















◇◇


その後、修二と協力してシリウス王子を止める事にした私達は騎士達がいまだ見張りを続けているであろう場所に戻ることにした。


修二はシリウス王子が行動を起こしたらすぐに連絡をくれると約束し、私達と別れた。




「…………まさか、東の国の第一王子が…鬼を召喚していたとは」


「…驚きました」


見張りをしてくれていた騎士達に、経緯を簡潔に説明すると二人とも驚いていた。当然だろう、クラルテ国のクラウドもアレクも誰かを危険に晒すようなことは絶対しない王子達だ。


だから余計に他国の王子の行動が信じられないのだろう。


「また今夜この場に現れたら現行犯で捕まえる。そのまま東の国の国王陛下へと引き渡せるように、忍一族の頭領が手筈を整えてくれるとの事だ」


クラウドがそう告げた途端、かさりと人が来る気配がした。




その場にいる全員が声を飲み、身を潜める。


魔方陣のある洞窟の前に姿を表したのは村人の格好をした一人の若い男だ。その姿を確認して、小さい声でクラウドが憎々しげに呟いた。


「シリウス…愚か者め」


それは誰に向けたものでもない言葉だったかもしれない、けれどその言葉は私の耳に酷く悲しく聞こえた。

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