第72話 愚かな願い
クラウドが呟いた言葉は、今洞窟に来た男が東の国の王子であるという証明になった。彼はシリウスと面識がある。
男――シリウスは洞窟の中に入り鬼を召喚する準備を始めた。
「悪い、連絡が間に合わなかった」
「………っ!?」
そう言って突然現れたのは修二だ。気配もなく私の隣に現れたので叫びそうになったのを慌てて口を押さえて耐える。
「…国王陛下への取り次ぎはどうだ?」
極限まで声を押さえてクラウドが尋ねると、修二は視線をシリウスに向けたまま頷く。
「国王陛下が城の兵、序でにシリウス殿下の護衛もつれて此方へ向かってます」
その時、淡い光が洞窟を包んだ。その直後不気味な唸り声をあげながら鬼が現れる。
ゲームで見ていた、ただのイラストじゃない、そんなものでは済まされない程の醜悪な生き物がそこにいた。
洞窟からのそりと出てきた不気味な黒い体、真っ赤に光る目、頭部から生えた鋭い角。
鬼と呼ばれるに相応しい生き物だ。
「鬼よ、俺に従え」
鬼が出てきた後ろから、シリウスが姿を表す。その姿を確認して私達は飛び出した。
まず修二が何処からか鎖のような物を取り出して鬼へと飛ばし、巻き付け動きを封じる。それをクラルテ国騎士二人が剣を向けて取り囲む。
唖然としているシリウスをクラウドとレオンが二人で取り押さえる。
「っ…!?クラウド、何故ここに!?どういう事だ!」
シリウスは目を見開きながら声をあげる。
「自分が何をしたかわかっているのか、シリウス!」
クラウドが厳しく叱責する、しかしシリウスは何が悪いと言うように睨み付ける。
「俺は国民に好かれたいだけだ!今までの俺の行いが横暴だった事を学んだ、国民に嫌われていたことを知った!だから俺は、俺の力を示して民の信頼を得る!それの何が悪い!」
「お前と言うやつは……」
「離せクラウド!俺はっ…」
シリウスが再び口を開いた瞬間、先程まで大人しく囚われていた鬼が咆哮し突然暴れだした。
修二が巻き付けていた鎖は引き剥がされ、騎士達を吹き飛ばす。吹き飛ばされた騎士達は土の上を転がり呻く。
「…また、魔力不足かっ」
シリウスが吐き捨てるように呟く。
鬼はその場にいる一人一人を品定めするように眺めた後、ギロリと私の方を向いた。
「人間、魔力、ヨコセ」
重く低く、しゃがれた声で言葉を発すると私の方に突進してくる。修二が阻もうと鎖を投げ付けるも、羽虫を払うように簡単に弾かれてしまう。
「アザミ殿!」
「アザミ!」
クラウドとレオンが、シリウスを押さえつけたまま叫ぶ。
鬼が私に狙いをつけたのはこの場で私の魔力が一番高いからだろう。そして私が一番無防備だからだ。
けれど、こっちだって魔法の修行はそれなりにしている。
実践は初めてだけど…
どこまで戦えるか、わからないけど…やってやる。
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