第70話 東の国、第一王子

「お前、盗み聞きとか趣味悪いぞ」


私を腕から解放したレオンは、声のした方へ体を向ける。


「そうやって情報集めるのが仕事なのよー、俺」


そこにいた修二はわざとらしく肩を竦めて見せる。


「…わざわざ声をかけてきたということは、何か用件があんだろ?」


「うん。まーね。でも思いがけない事聞いちゃったな。そのお嬢さんが魔導一族の族長さんだったとか」


「……何が目的だ」


ピリッと殺気を放つクラウドに修二は両手を上に上げて苦笑を浮かべる。




「そんなにピリピリしないで下さいよ、クラウド殿下。俺は言いふらしたりしませんかよ、俺も忍一族の頭領なもんで立場は一緒ですから。なんなら口外しないって誓約書でも書きますよー?血判付で」




修二の言葉に、レオンとクラウドはどうする?と問うようにこちら見る。


「………鬼の召喚についての情報を下さるなら、要りません」


「へぇ、良いの?」


「それが嘘の情報だった時は……夜道で背後に気を付けてくださいね?」


思いっきりにっこりと微笑む。


「うわ、そりゃ怖いわー」


けらけらと笑った後、修二は片膝をついて頭を下げた。




「忍一族の頭領として、貴殿方に対して偽りを口にしないこと誓います。そして、我が友が魔導一族の族長殿に無礼を働いてしまった事、お詫び申し上げる。誠に申し訳ない」




間延びした口調は何処へやら。修二は凛と響き渡る声で謝罪する。




「そして約束の情報を伝えさせていただく。鬼を召喚して操っているのは――――東の国、第一王子シリウス・メイル・東……シリウス殿下だ」




修二の言葉に私達は目を見張る。




「…何故、この国の第一王子がそのようなことを?」


一番に口を開いたのはクラウドだ。


「これは…ただの障害ではすまされない、国際問題になる。東の国は、クラルテ国に戦争を仕掛けるつもりか?」


その声は怒りや戸惑いから来るものか、いつもより低く口調は早い。




「クラウド殿下、それは違います。シリウス殿下の独断です。クラルテ国の国民を傷付けた事など、あの方はご存じないのです。忍一番が調べ上げた情報を全て開示いたします」


そういって修二はすっと顔をあげると何故、シリウス王子が鬼を召喚するに至った語り始めた。








◇◇


切っ掛けは作十郎……、クラウド殿下達が先程会った俺の友人です。


本名は作十郎・ディール・ナイトと言います。


アイツがシリウス殿下を叩きのめした事だと思います。


クラウド殿下はシリウス殿下と面識があるので分かると思いますが…シリウス殿下はとても…我儘で手がつけられません。




シリウス殿下は一人息子なもので国王陛下や王妃様は甘やかして育ててしまい、叱ることも中々出来ずにいて…


誰もが逆らわず、もし逆らったり機嫌を損ねたら即罰を与えるような……我儘俺様な殿下なのです。






そんな殿下に渇を入れたのが作十郎でした。


アイツ馬鹿正直で真面目と剣術しか取り柄のない脳筋で………失礼しました。


作十郎はシリウス殿下の横暴が許せず、構成させようとしてクビにされそうになりました。けれど作十郎は諦めず、勝負をして作十郎が勝てたらこのまま護衛としてシリウス殿下に遣え、更正指導すると殿下に約束させました。




殿下も剣術の腕はいい方なので、その勝負に乗って…こてんぱんに叩きのめされました。




約束もあるのでシリウス殿下は作十郎を護衛として受け入れて、少しずつ性格が更正されてきました。


……だからこそ、気付いてしまったんです、兵士や使用人、国民からご自分が良く思われていないことに。




シリウス殿下は良く思われようと必死になって考えました。


そして鬼を召喚することを思い付いたのです。


◇◇




「なんで国の人に良く思われたいのが、鬼の召喚に繋がるんだ?」


レオンが眉を潜める。




同感だ、私が言えたことでもないが何故そういうぶっ飛んだ思考に至ったのだろう?


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