第69話 正解

「俺はバカだから、クラウドみたいにアザミの思考を正すことなんか出来ねぇけどさ……素直に、思ってること言ってみろよ。それを聞いて、一緒に考えてやるくらい出来るんだぜ」


先程まで力が籠っていた手を離したかと思うと、そのままぎゅっと抱き寄せられる。


泣いてる子供をあやすように、背中をポンポンと撫でられる。クラウドを見れば苦笑を浮かべながら「思ってること言葉にしてみろ」と促す。






……元は、ただ私の破滅フラグを回避するのが目的だった。その為に一族の破滅フラグも回避するだけの事。


でも皆、優しかった。


皆といると、楽しかった。


だから私は。






「守りたいと…思ったの…。だって私、族長だもん…皆の事、守れる立場だもん…だから頑張らなきゃって…でも、それは私の我儘で、本当は皆…あのままひっそりと暮らしていたいのかもって…そう思ったら……どれが正解か、分からなくて…っ」


言葉を吐き出せば嗚咽が混じる。それを堪えるようにレオンの背中に腕を回して抱き締め返す。


「ばーか、正解なんてある分けねぇだろ。あったら俺ら苦労してねぇわ」


レオンに背中をよしよしと撫でられる。






「レオンの言うとおりだな、正解があるなら私も見つけてみたいものだ」


「アザミは自分に自信ないのか過小評価し過ぎなんだよ。悪役とか言ってたけど本当にそうなら俺もクラウドも心配したり守りたいなんて思わねぇもん。つかその程度で悪役とか、悪役に失礼だろ」


「そうだな、悪役を名乗るならまず非道で残酷になり尚且つ見た目も厳つくならなければ名乗れまい」


「クラウドの悪役像ってどっかの海賊か山賊かよ」


「それよりレオン。いつまでそうやってアザミ殿を抱き締めているつもりだ、離れろ。そしてそこを変われ」


「やなこった、これは護衛である俺の仕事ですー」


「ほう、セクハラをするのが護衛の仕事か」


「セクハラじゃねぇから!つかクラウドだって変われとか言ってただろうが!」


「俺はいいんだ、王子だからな」


「いいわけあるか!」








あー…レオンさんや、私、もう落ち着いたからそろそろ離して欲しい。恥ずかしいし頭の上で言い合いされるの困るわー……


と言うかこの世界にもセクハラって言葉があるんだね。うん、吃驚した。


…うん、なんか泣いたら少しスッキリしました。知らないうちにストレスためてたのかな…




あ、ルイが居ないからだ!私の癒しが居ないせいだ!


帰ったら絶対ルイと遊ぶ、丸一日遊ぶ。サクちゃんの弟子入り志願のせいで私のストレスが容量オーバーして、レオンとクラウド様がそれに気がついて吐き出させてくれた…うん、私、めんどくさい人間だなほんと。






自分でも良くわからないものを拗らせていた結果、二人には迷惑をかけてしまった。


とりあえず二人の言い合いを一度止めて、その上で謝ろうと決めたその時、間延びした声が割り込んできた。




「あーのさ、ちょっといいかなー?」




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