第65話 諜報員
店から出た私達は修二に連れられて道場のような場所に来ていた。
少し怪しい気もしたが、鬼の情報は欲しい。それに何かあってもレオンが攻撃魔法を使えるし、クラウドにも剣がある。
私も少しだけど、暴漢を撃退できる程度の魔法は習得している。
「たーだいまー」
私達の先頭を歩いていた修二はそう言いながら敷地内に入っていく、私達はそれに続いた。
…おかしい、修二の暮らす忍一族は人里離れた山の中にあったはず。
「修二、何度もいっているがここはお前の家じゃない。我が物顔で帰ってくるな」
警戒していると、声がして道場の引き戸ががらりと開き、いつぞやのポニーテールが顔を出した。
もちろん、私は彼を知っている。
彼は東の国の攻略対象、そして何より乙女ゲーム内ではグッドエンドだろうがバッドエンドだろうが、ノーマルエンドだろうが、魔導一族を滅ぼしてくれようとするメインヒーロー。
人呼んで『サクちゃん』こと作十郎・ディール・ナイト。
東の国の王子を叩きのめして護衛になった剣術の使い手である。
レオンも顔ぐらいなら覚えているだろう。
「まー、まー。そんな事言うなって、お前の気にしてた可愛い子つれてきたんだからさ」
「はぁ?何を言って………っ」
目があった途端驚愕する作十郎。
「…お、お前……何で此処に…」
うわい、二度目ましての人にお前呼ばわりされた。初対面の時もだけどサクちゃん私に無礼でしょうよ。
私、族長様だぞ!威張れるような力はないけど!
「そいつが俺達を此処に呼んだんだ。鬼を召喚したヤツの情報が欲しかったら、この方をお前に会わせろってな」
レオンとクラウドが私を庇うように一歩前に出る。
「我々は要求に従った、今度はそちらが情報を開示する番だろう」
「鬼の……って…おいこら修二!どういうことか説明しろ!」
「いやぁ、だって作十郎、その子に会ってから何か元気ないしー?相棒の俺としては心配してたわけよ。そしたらうちの諜報員が国境で鬼が出たって情報仕入れてさ。調べに行こうかなーとか思ってたら、クラルテ国の王子様がやって来て作十郎の気にしてた女の子連れてるじゃん?だから連れてきた」
修二は悪びれた様子もなく告げる。
「何故私の正体が分かった?」
クラウドが眉間にシワを寄せると修二はへらりと笑い説明する。
「あー…俺って東の国王家直属の諜報員なんすわ。城の中もある程度出入りできるんですよ。だからクラルテ国の王族様方が東の国に訪問された時に、クラウド殿下の事は一方的に見て知ってたんすよ」
「なんだ俺達が鬼の召喚者について調べてることが分かった?」
今度はレオンが修二を問い詰めると、修二は肩を竦める。
「やー、だって鬼が出たって聞いたタイミングでクラウド殿下が現れたし。無関係じゃなさそうだなーと思って、カマかけてみた」
修二はにっこりと笑うと親指をたててぐっと此方につき出した。
「あ、でも鬼の召喚者について知ってるのは本当だかんな?」
修二の言葉に私達三人だけでなく、作十郎まで目を見開く。
いや、サクちゃんも知らんのかい!
「……それは誰なんですか?ついてきたのですから、教えてください」
私がじっと修二を見据えると修二はにっこりた笑う。
「教えてあげる代わりにクラウド殿下と、そこのおにーさん、俺と一杯やらない?」
そういって修二は懐から緑茶の茶葉を取り出した。
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