第55話 一歩間違えばアウトです

客室に案内された私は、眠くもないのにベッドに寝かされる。




「あの…本当に、大丈夫ですから」




「虚勢を張るのは顔色がまともになってからにして下さい」


シオンが私の視界を手のひらで覆い隠す。


すると途端に眠気に襲われた。






あ、この魔法知ってる……ミナモ様に教えてもらった、眠りを誘う魔法だ…




そんな事を思いながら私は意識を手放した。














◇◇


どのくらい眠っていただろうか。


まだ眠っていたいとさえ思えるほどに穏やかな眠りだった気がする。




手が、温かい…




ゆっくり瞼を開けると、見知った顔が視界に映った。


「………クラウド、様?」


声をかけるとクラウドは目を細めて頷いた。その後ばつが悪そうに視線をそらす。


「眠る女性の部屋に、許可なく立ち入ってしまってすまない…アレクセレイからアザミ殿が来るときいて…もしかして此処に居るのかもしれないと思ってきてみたんだ。眠っているとは思わなかったが…」






寝てようが起きてようが無断で人の部屋にはいってはいけません




と怒りたいところだが、眠りにつく前の事を思いだしそれどころでは無くなる。




「私はここでのんびりしてる場合ではないのですっ…やるべき事が、それをやらないと」


上半身を起こしてベッドから出ようとすると、クラウドが私を引き留めた。


「アザミ殿、落ち着け」


ぎゅっと手を握られて、気がついた。手が温かいのはクラウドが握っていたからだと。


「何事に置いても、急いで進めた物事はいい結果を得ることはほとんどない。焦った分だけ見落としが出来る、最良の結果を求めるならば冷静になれ」


クラウドの言葉に息を飲む。






そうだ、私は何がなんでも魔導一族にとっての最良の結果を得なければならない。


それ以外の結果は…きっと破滅に繋がっているかもしれない。


落ち着け、冷静なれ。








「アレクセレイの騎士達から聞いた。鬼と呼ばれる化け物が国民を襲ったそうだな」


クラウドの言葉にこくりと頷く。


「………そこに居合わせたアザミ殿と護衛の御二人が、怪我を負った街の人間を助けたと聞いた。礼を言わせてくれ。クラルテ国の国民を救ってくれた事、第一王子として感謝する」


クラウドに深く頭を下げられて慌てる。




「私は比較的軽傷の方の傷を治癒しただけです。大怪我された方の命を救ったのは、レオンとシオンですから」


「アザミ殿も治癒してくれたのは事実だろう?」


「……はい」


「ならば感謝を素直に受けとってくれ、助けられたことに代わりはないのだから」


「…はい」


感謝されるのは少し気恥ずかしいけれど、悪くはない。私が頷くとクラウドは微笑み握っていた手をそっと離した。




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