第54話 鬼

「……襲われたんです」


アレクに何があったかと聞かれた男性は、身を竦めた。今になって恐怖を感じ初めたのか指先が小さく震えている。


「襲われた?誰にですか?」


アレクが眉を潜める。


「『鬼』にですよ!森で突然襲ってきたんです!」








『鬼』―――。


それは魔導一族がゲームの中で召喚する化け物の名称。






「あの角に、ぎらついた目…あれはまさに鬼です!」


男性の言葉に回りの人達がざわめきだす。






なん、で……今の魔導一族に鬼を召喚できる技術を持った人はいないのに…


まさか他に、召喚できる人がいるってこと…?








「あ、あのっ…それはどの辺で襲われたんですか?」


声が震える。けれど私は聞かなくてはならない、鬼の情報を得なければ。




「東の国の、国境近くだった…。東の国に仕入れにいってその帰りだったんです…いきなり、木の影から奴が現れて。死に物狂いで逃げて…途中で撒いたんだが…仲間が俺を庇って怪我を…」


「大丈夫です、貴方の仲間を治癒してるのは魔導一族の中でも優秀な二人なんですよ。ですから何も心配ありません、絶対大丈夫ですから」


男性を安心させようと私は微笑む。


すると、アレクがぎゅっと私の手を握る。


アレクが抱いていたはずのルイは、私の頭の上に乗っていた。


「怖い思いをしたのですね…あとは僕たちに任せてゆっくり休んでください、鬼とやらの事も調べてこれ以上被害が出ないようにすると約束します」


「…お、お願いします…!」




男性を休ませるため、私達は人の集まりから少し離れる。


シオンとレオンも治癒を終えたようで、どこか疲れた顔をしながら戻ってきた。




「…鬼が、出たそうです」


「鬼?」


「被害に合われた方の話を聞く限り、どうも人を襲う化け物らしいのですが…」


「昔、聞いたことがあります。鬼は大きな魔力を持つものによって召喚される生き物だと」


戻ってきた二人にアレクが告げると、双子が眉間にシワを寄せる。




その声がどこか遠くに聞こえる。


アレクが握ったままの手のひらが熱い気がした。






いや、違う…私の手が冷たいんだ…


どうしよう、どうしたらいい……?今、何が起きてるの…


誰が鬼を召喚したの…?


どうすれば、止められる…?


考えなきゃ…


東の国の国境近くで襲われたなら、東の国の人間だろうか?


いや、結論付けるには早すぎる。






「……アザミ?」






クラルテ国の人が召喚した…?もしくはそれ以外にもなにか企んでいる人がいる…?


しかも召喚した人はそれなりの魔力を持ってることになる。


今、この世界で私より魔力が強い人って…誰?


ダメだ、このままじゃ…。


何か解決策を考えなきゃ…




「アザミ!」




名前を呼ばれてハッとする。アレクと双子が心配そうにこちらをみていた。


「みゃ…?」


頭の上のルイまで心配そうに鳴いてる。




「何て顔をしてるんですか貴女は」


シオンがポツリと呟く。


「大丈夫、ですよ…」


「大丈夫な訳あるかこの馬鹿!」


レオンに怒鳴られた。


「すぐに部屋を用意します、暫く休んでください」




アレクの言葉に双子が同意する。


そして私は、以前お世話になった城の客室に再びつれていかれた。

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