第53話 騒動

「だから、うちの族長に変なことをしないで下さいと言っているんです」


「おやおや、ただ誉めることの何処が変なことなのかご説明頂きたいです」


「クラルテ国の王族は、気安く女性に触れるような方だとは思いませんでした」


「心外ですが安心してください。アザミだけです」


「「安心できません」」




まだ言い合いは続いていた。


私はと言えば、ルイと焼き菓子を堪能していた。双子も食べたいだろうから、半分くらい残して置く。


すると、広場の入り口が突然ざわつき始めた。




「何があった!?」


「怪我人が通るぞ、道を開けろ!」


「お父さんしっかりしてすぐお医者様が来るわ!」


顔をあげると怪我人が担架に横になっているのが見えた。


怪我人は三人ほど、全員中年の男性のようだ。


そのうちの一人に、私と同い年くらいの少女が寄り添っている。会話からするに怪我をした男の娘なのだろう。




その騒ぎに気がついた双子とアレクが顔をあげる。


「アザミ様、治癒魔法はどれくらい使える?」


「それなりに使えるところまで習得しています」


「シオンは?」


「愚問ですよ、完璧に習得しています」


私達は怪我人に駆け寄る。


「皆さん、安心してください。彼らは治癒魔法を使える魔導一族です。怪しいものでないことを僕が保証します」




アレクの言葉に、怪我人に駆け寄った私達が治療しやすいようにと、街の人達は場所を開けてくれる。


シオンが一番怪我の酷い男性に治癒魔法をかけ始める。レオンがフラフラと座り込んでいる怪我人の男性に治癒魔法をかける。


もう一人は出血はあるものの、重症ではないようだ。




私はもう一人の男性のもとに行くと、傷口に手を翳した。


男性は二の腕から手首にかけて、引っ掻いたような傷があった。止血の布が赤く染まっている。




少し怖い…でも、私なら…アザミ様なら治せる。






私は歯を食い縛ると、手のひらに魔力を集めて男性に治癒魔法をかける。


レオンとシオンには負けるけれど、それなりに治癒魔法の練習はしていた為、少し時間がかかったけれど男性の腕の傷を塞ぐことが出来た。


「すげぇな…嬢ちゃんは女神様かい?」


治癒魔法をかけた男性は驚いたように目を瞬かせている。


「いいえ、そんなたいした者ではありません。ただの魔導一族です」


「魔導一族……そうか。ありがとよ、すっかり痛みが引いちまった」




「少々伺いたいことがあるのですが宜しいですか?」


振り替えるとルイを抱き抱えたアレクがいた。私達が置き去りにしそうになってしまったルイを連れてきてくれていた様だ。


「…あ、アレクセレイ王子…!?俺に答えられることであればなんなりと」




怪我が治ったばかりの男の横では、レオンとシオンの治療がまだ続いてる。


双子の治癒魔法は私と違い、寿命と病気以外の外傷であれば何でも完全に直すことができる。


例え瀕死の重症であったとしても、心臓が止まってしまう前であれば直すことができるというまさに奇跡のような魔法なのだ。

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