第44話 氷点下の笑顔

客室に戻ってきた私は安堵感からソファに腰掛けていた。


後は不可侵条約に署名すれば、魔導一族の村に戻ることができる。


ただ不可侵条約を取り付けたのはクラルテ国だけ。東の国に関してはまた何か対策を考えなくてはならない…




でも、一つ、頑張れた。




「やったね、ルイ」


「みゃう」


腕の中に語りかけるとルイも喜んでくれているのか、嬉しそうな声が帰ってきた。




「…………なぁ、アザミ様。あの弟王子とアザミ様の仲って何?」


ぱちんと指を鳴らす音が聞こえたかと思うと、デーブルを挟んだ正面に不機嫌そうなレオンとシオンの姿が現れる。




「友達ですよ?」


「ふぅん、友達ねぇ」


納得いかないと言うようにぼやくレオンを横目に、シオンはじっと私を見下ろす。


「条約を取り付けたのは流石です、と申し上げておきましょう」


ちらりとシオンを見上げると無表情。




あー…これは怒ってらっしゃる!


シオン激おこなうですね、この絶対零度の無表情、久しぶりです。


やっぱり怖い!




「条約に署名したらさっさと村に帰りますよ、此所にいると王子のどちらかに嫁入りさせられそうですし。まだ一族の仕事をろくに果たしていないのにこの国へ嫁ぐなど馬鹿馬鹿しい。貴女もはっきり断るべきです。まさかとは思いますが魔導一族を守るために嫁ごうなどと考えてはおりませんよね?」




シオンは一息で私にそう告げると無表情から急ににっこりと笑みを浮かべた。


よくわからないけど、怖いです。怒ってらっしゃるのが良く分かりました。




絶対零度の無表情の次は、氷点下の笑顔だ……。




「えっと…私には族長としての責務がありますし…無かったとしてもいきなり王族の方と結婚は出来ません」


そう答えると氷点下の笑顔が消える。


「当然です」




よかった、お説教回避!






安堵したその時、部屋のドアがノックされる。


反射的に返事をしてからハッとしてレオンとシオンを見ると、二人は顔を見合わせてそっくりな笑顔でにやりと笑った。




あ、これは何か企んでいらっしゃる…!?




私の読みは的中して、ガチャリとドアが開いても双子は魔法で姿を消そうとしない。


案の定、部屋に入ってきたクラウドとアレクが双子の姿を見て固まる。


私も固まる。




これ、侵入者とかで追い出されたりしない!?大丈夫!?




ルイは状況がわかって無いのか首をかしげて双子と王子を見比べている。


最初に口を開いたのはレオンだった。




「御初にお目にかかります。クラルテ国クラウド王子、アレクセレイ王子。アザミ様を御迎えに上がりました、護衛のレオンと申します。此方はシオン、以後お見知りおきを」

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