第19話 三人と一匹

結果から言えばコドモドラゴンを聖域に返す事になった。


しかし、すぐには難しい。


私は仮にも族長なので族長の仕事がある。


仕事は村を見回ったり、一族の困り事を解決したりすることだけど…




困り事といっても、畑の作物の収穫に人手が足りないとか、薬草の栽培の水路を引く手伝いとか、一族のおばちゃんの井戸端会議に巻き込まれたりとか……あれ?最後の違ってない?




なので、一族の他の人にコドモドラゴンを聖域まで送り届けてもらおうとしたのけど、肝心のコドモドラゴンが私にぴったりくっついて離れようとしない。




聖域の生き物に実力行使するわけにも行かず、族長としての仕事が一段落するまで一緒に生活する事になった。












◇◇




コドモドラゴンが来て、七日程経過した。


七日目にしてようやく族長としての仕事が一段落したのだ。




「つ、かれた……」


自室で机に突っ伏す私の頭をコドモドラゴンは小さな手でよしよしと撫でてくれる。




「ありがと、ルイ」


「みゃーうっ!」




声をかけるとコドモドラゴン――ルイは元気に返事をした。


一緒にいるうちに愛着が湧いてしまい、私はコドモドラゴンの事をルイと呼ぶようになっていた。




ちなみに由来は私が前世で飼っていた猫の名前だ。


この七日間でルイはすっかり私の癒しになっている。




名前つけたら別れがたくなるのなんて分かりきってたんだけどなぁ……シオンにも「名前をつけるなんて無責任です」とか散々言われたし。




でも、うっかり猫の名前でこの子を呼んでしまったとき真ん丸の瞳をキラキラさせて嬉しそうに抱きついてきたんだよね


…そこから名前で呼ばないと返事しなくなっちゃったし。


不可抗力…だと思う!




けれど、明日はルイをちゃんと聖域に返さないとけない。




「ルイ、明日はちゃんとさよならしようね」




そういうとルイはしょんぼりと落ち込んだ。ここ数日見ていて思ったが、どうやらルイは人の言葉を理解しているようだ。




「みゃ…みゃう」


小さい子がイヤイヤをするように私の指をきゅっと掴んで首を左右に降る。




「私も寂しいけど、仕方ないんだよ。ルイのお家は聖域なの、このまま聖域の外にいると悪い人に捕まっちゃうかもしれないんだよ?」


「みゃー……」


宝石みたいな目をうるうるさせて私の指を離さない。


「……最後に少しだけ、一緒にお散歩しようか?」


「みゃうっ」




私の提案にルイはこくこくと頷く。


私はローブを羽織り、外に出る準備をするとまだ家の前で護衛してくれている双子に声をかけた。




「ルイと少しだけ散歩に行きます」


「もうそろそろ日が暮れるし、俺達もいくよ」


「貴女に勝手をされて困るのは私達ですから」




うぅ、シオン相変わらず容赦ない…。


私そんなに勝手な行動とってないもん…嘘です、内緒で家を抜け出して村の中を探検したりしました…。


一度だけバレて、シオンに絶対零度の無表情でお説教されました…。






そうして村の周辺を三人と一匹で散歩する事になった。


夕日が沈みはじめて、森の木々がオレンジ色に染められていく。


その中を三人と一匹でゆっくりと歩く。




ルイは背中の羽を使って先頭を飛んでいる。そのすぐ後ろに私、そして私の後ろ両サイドをレオンとシオンがついてくる。




「みゃう、みゃーうっ!」


ルイは楽しそうに飛び回りながら、木の実や花や虫を眺めてたりしていた。時々、木の実をもいでは私のところに持ってくる。


プレゼントしてくれてるつもりなのだろうか。小さな手で木の実を取る姿は愛らしくてつい口元が緩んでしまう。




「俺もコドモドラゴンになりたい…」


「馬鹿言わないで下さい」




あー、私も前世で思ったことあったなぁ…コドモドラゴンじゃなくて猫になりたいって。


まさか悪役族長になるとは思わなかったけど。




どの世界でもやはり動物は癒しなのかな、少なからずなってみたいと思うんだね、納得!

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