第16話 大事なもの

放って置くと、双子はいつまでもやり取りを続けそうだったので早く帰らないと日が暮れてしまいますよ、と急かした。




日が沈んでしまうと、森の中にある村を見つけにくくなってしまう。


ただでさえ、一族以外の人間からは見付けられないように徹底されているのだ。


それに、なるべく日があるうちに戻らないとお祖父様も心配する。




東の国へ来た時よりも、帰りは少し急いだ。


結果、日が沈む直前には村へと戻ってくることができた。




双子は私を家まで送ってから、交代でお土産を自宅に置いてきたらしく、私が着替えてお祖父様の所に顔を出す頃には、お土産の袋は持ってなかった。




何を買ったのか少し気になるけど…詮索しすぎは良くないよね


レオンが買ってたのは明らかにお菓子だったけど…。


甘いの好きなのかな?






「無事に戻ってきて何よりだ…それで何か情報を得ることは出来たのか?」


お祖父様は安心したように目を細めると、首をかしげた。




「東の国の王子がかなり強い護衛を雇った、との話を聞きました。それからシオンさんが書店で情報誌を見つけてくれましたわ」


「こちらです」




シオンは東の国で購入した新聞と、情報誌をお祖父様に差し出した。


帰還する道中で、シオンから見せて貰った内容を思い返す。




新聞には、東の国のクラルテ国の関係は良好ということが書いてあった。


両国の現国王が仲が良いらしく、戦争になりそうな気配など微塵もない様だ。




情報誌には小さく魔導一族についての記載もあった。




『昔、魔法を自在に操る魔導一族が存在していた。彼らは魔法の力を使い、聖域を我が物としようとした為、東の国とクラルテ国が協力し退治したと言われている』




東の国とクラルテ国が魔法の力欲しさに一族を捕まえようとし、追い詰めたことなど欠片も記載されていなかった。




自分達の都合の良いような書き方しかしてないのね……。




アザミ様のノートには聖域を手にいれようとしたことなど書いてはなかった。


都合の悪いことだから、書かなかったのか本当にそんな事はしていないのか。




事実確認が出来ればいいけど、百年以上生きている生き証人なんて少なくともこの村にはいない




「…東の国やクラルテ国では、魔導一族は悪の様に思われているのだな」




魔導一族に関する記述を読んだのだろう、お祖父様が悲しそうに目を伏せる。




「やはり、我らはこのままひっそりとこの地で暮らす方がいいのかもしれないな…」






お祖父様の言葉に、私の心の中でこの一族をどうしても救いたい。一族の皆が安心して暮らせる世界を取り戻したいという気持ちが湧いてきた。




……そうか、ここでアザミ様は一族を救い繁栄させたいと思ったんだ。


アザミ様は、本当に魔導一族が大好きなんだ


アザミ様にとっても、お祖父様にとっても魔導一族は家族同然なのだろう。




私は前世の家族を思い出す。


大黒柱なのに母に頭が上がらない、優しい父。


いつも心は若々しく、肝心なときは必ず力になってくれた母。


我が儘で泣き虫だったけど、芯が確りしてて頼りなかった私を支えくれた妹。


編み物が得意で、梅干しを漬けるのが得意だった祖母。


お腹が空くと、いつも絶品のカレー炒飯を作ってくれた祖父。


ついでに皆に溺愛されてたうちの猫。




もし、皆が今の魔導一族の様に追われて隠れて過ごさなければいけないとしたら。




私は家族を救うために何でもするだろう。


私の家族に害をなそうとする人達を許せないだろう。






アザミ様もきっと同じ気持ちだったんだ…だから、戦争を引き起こしてでも一族を繁栄させたいと、守りたいと願った。


それは結果的に破滅ルートになってしまったのだけれど。




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