第6話 族長、家のそとに出る

翌朝、目が覚めると見事に髪が広がっていた。


そして寝癖もすごかった…。


寝巻きのまま洗面所に向かう。




昨晩、レオンが帰ってから部屋の回りだけ散策したら私の部屋からずっと廊下を進んだ突き当たりに浴室と洗面所を見つけた。




ちなみに浴室の手前がお祖父様の部屋だった。


散策した時に遭遇したお祖父様は、お風呂上がりだった様でガウンに似たものを着ていた。


……胴回りが一瞬サンタクロースっぽいと思ってしまった…すみません、お祖父様。




洗面所で寝癖を直して自室に戻る。


それなりに早い時間に目が覚めたみたいで、部屋の窓からちょうど日が射して来たところだ。




これからどうしたものか……、やっぱり情報集めかな


パソコンとかある世界ならよかったんだけど、あいにくそんな文明の機器は無い。




ゲームでは物語が開始される一年ほど前から、一族の近隣である東の国とクラルテ国は険悪になり物語が始まる時期に、両国の国民たちが『鬼』という化け物に襲われる。


それをお互い、相手国が差し向けたものだと勘違いして、戦争一歩手前まで国同士の仲が悪くなってしまう。




まぁ、その鬼は魔導一族が戦争を引き起こすために召喚した怪物なんだけど………。




ん?待てよ、てことは魔導一族が鬼さえ召喚しなければ両国が険悪になることはないかな?


険悪にならなければずっと平和で、ヒロインが呼ばれる事もなくて…一族が破滅することもない!


フラグすら立てなければ良いってことか、うっわ盲点だった!!


何もしないことが破滅フラグ回避の近道だったのかー、なーんだ。楽勝楽勝!




「って、んな訳あるか!」


思わず自分の思考に、声を出して突っ込みを入れてしまう。


世の中そんなに簡単には行くはずがないということを、私は前世において嫌と言うほど経験してるのだ。




たとえ、私が族長の力を駆使して一族全員に「鬼なんて化け物は召喚しちゃダメですよー」と言ったところで、全員が従ってくれるとは思えない。


従わない人がいて当たり前、予想外なことが起きて当たり前なのだ。


族長に反発する人が、鬼を召喚して他国の人を襲わせでもしたら意味がない。




とにかくそれを防ぐ為に私自身が行動を起こさなければ!




昨日は一族の人達に全然会えなかった。


アザミ様になってからずっと家の中だったからね


認識しているのはお祖父様とレオンとシオンの双子くらいだ。




とりあえず外に出たら一族の人が誰かいるかもしれない、鬼についての情報と東の国とクラルテ国の関係が現在どういったものなのか…アザミ様のノートになかった情報を集めなければ。




私はクローゼットを開けて早急に着替える。歩きやすいようにシンプルなワンピースタイプの服にした。


その上から魔導の一族特有のグレーのローブを羽織る。ゲームの中で一族の人たちはみんなこのローブを着ていた。


なんかコスプレみたいだな……




ドレッサーで軽く身だしなみを整えると、部屋を出た。




お祖父様を起こさないようにそっと廊下を歩き玄関の扉を開ける。


音がしないように、開けてからするりと外に出るとまた音がしないようにゆっくりと閉める。


無事に外に出られた。




別に閉じ込められていた訳じゃないけどね?


アザミ様になってはじめてのお外!




魔導一族の村は、見つけにくいように森の奥深くにある。


さらにお祖父様の魔力を使って森に迷い混んだ人が、うっかり見つけたりしないように一族以外の視覚を誤魔化す細工がしてあるのだとか。


これもアザミ様ノートに書いてあった。


流石アザミ様、そしてお祖父様。




森の奥にあるため当然村の回りは木々ばかりだ。


私とお祖父様の家から少し離れた所に、ぽつぽつと何件か家があり、その先には小さな湖が見えた。


湖を囲むようにして家が建っているのが見える。


湖の傍には畑も見えた。




畑なら朝から誰かいるかもしれない、行ってみようかな




「アザミ様?」


気合いをいれて歩き出そうとした瞬間、声をかけられた。


イケボじゃないけど、小鳥みたいなめっちゃくちゃ綺麗な声が私を呼び止めた。


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