第3話 族長の護衛

ドアから半身を覗かせたのは白銀の髪を短めに切り揃えた青年だった。見た目年齢は二十代半ば辺りだろうか…


ゲームの中で彼の姿を見た覚えはない。




でも…うわぁい、イケメン。目が幸せ。


……あれ、でも魔導一族って皆金髪じゃなかったっけ?




青年は私の姿を見つけると、居るのに返事をしなかったのか、というように眉を寄せる。




うわ、めっちゃ不審がられてる!




「どうかなさいましたか?」


「いや、何でもない…です。少しぼんやりしてしまって…」


何とか誤魔化すように答える。




「族長就任式の疲れが出たのでしょう、本日は早めに御休みください。それと、前族長様がお呼びですので談話室までお願い致します」




青年の話からするに私は族長に就任した直後なのだろう。


と言うことはやはりゲーム開始までそれなりに時間があるようだ




ゲーム開始時、アザミ様は族長になって二年目位だったはず…なら少なくともあと二年は猶予があると見ていいのかな


それにしても、前族長…アザミ様のお祖父さんだよね…身内接触イベント…。


ゲームの記憶だけで乗り切れる気がしない…




「………何をしていらっしゃるんですか、とっとと行きますよ」




身内イベントへを乗り切るための選択肢を考えていると、青年が不機嫌そうに声をかけてきた。


どうやら用件を伝えるだけでなく、連れていくところまでが彼のお仕事のようだ。




一応、私が今の族長だから、この子の上司ポジになるんだろうけど…態度があからさまだなぁ…前世の会社なら目をつけられるところだよ?




恐らく彼は私の事をよく思っては居ないのだろう…以前アザミ様との間に何かあったのだろうか…




そんなことを考えながら彼にそのままついていくと、談話室に案内された。


部屋にはシックなテーブルを囲むようにソファが置かれている。


そこには、ウェーブのかかった金髪を肩まで伸ばし微笑む老人が座っていた。




この人がアザミ様のお祖父様。




「おぉ、来たか。就任式で疲れてはいないか?」


微笑むと目元の皺が深くなる。凄く優しそうな人だ。


私はゲームの記憶を引っ張り出しながら笑顔を作り、口調をアザミ様に寄せる。




「はい、お祖父様。問題ありません、ご心配ありがとうございます」




「ついにアザミも族長か……、息子夫婦にも見せてやりたかった」




寂しげに眉を下げるお祖父様。


ゲーム中、メインストーリーで少しだけアザミ様の過去が出て来ていたのを思い出す。




御両親は幼い頃に事故で亡くなっていてお祖父様が親代わり。


八歳の時に、一族の中でもかなり強い魔力が開花して、次期族長に指名された。




八歳の女の子に一族の未来を託すとか、どうなの、って私は思ってしまうけど…アザミ様は期待に応えようって頑張ってきたんだね…


その方法は戦争を引き起こす、なんてとても誉められたものじゃなかったけど。




一人で必死になって業務をこなしていた前世の自分を思い出して、アザミ様に親しみを感じてしまう。




「アザミも族長に就任したことだから、護衛をつけようと思うのだ…二人ほどな」




「護衛、ですか?」




「アザミの相談役も兼ねてな…族長という立場は何かにつけて外部から狙われやすい。それから………今まで無理をさせてしまった…遊びたい盛りの子供の時間を、一族の為とお前から奪ってしまった…本当にすまない。お前が努力していたことを、知っている…頑張ってくれてありがとう」




少し骨ばった手を伸ばされ、頭を撫でられる。


その手つきは本当に優しくて。


撫でられてるのはアザミ様なのに、いや私でもあるけど……思わず涙腺が緩みそうになる。




こんな風に優しくして貰ったのは何年ぶりだろう…、優しくされてるのはアザミ様であって前世の私じゃないのはわかってる…


わかってるけど…凄く嬉しい…。




「お祖父様…、そのお言葉をいただけただけでも充分、報われますわ」


私の言葉だけど、きっとアザミ様だってそう思う。お祖父様、めっちゃ優しいから。




私の言葉にお祖父様は目の皺を深くして笑顔を見せてくれる。




「そこで二人の護衛なんだが、一人はそこにいるシオンだ。もう一人は彼の双子の兄でな、レオンと言う」




は…?お祖父様、なんて?


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