第3話

 すべての実技が終わり、壇上のテーブルが撤去されると、グスターファスは立ち上がり前へ出た。

 「今日は朝からご苦労である。皆、素晴らしかった!」

 っと、グスターファスの話が始まると、皆固唾を飲んで聞き入る。これからこのまま、合格者が発表されるからだ。

 もう既に落ちた者さえ、じっとグスターファスの言葉に耳を傾けていた。

 「さて、素晴らしい者の中で、特に目を引いた者を紹介しよう……」

 とうとう発表である。

 「二十二番、ダグ・プリザンス!」

 「はい!」

 呼ばれたダグは、大きな声で返事をし立ち上がり、監査官に誘導され壇上に向かう。そして、当然だという顔つきで、堂々と壇上に上がった。

 (っち。受かったか……)

 ティモシーは、受かるだろうとは思っていたが、面白くなかった。彼が首位なのは実力ではなく、魔力を使った不正だからである。

 「十七番、アリック・ガイトル!」

 「はい!」

 次に呼ばれたアリックも静かに立ち上がり、壇上に向かう。ダグとは違いその背中には安堵した様子が伺えた。

 (うそ……彼?)

 次に呼ばれるのは自分だとティモシーは思っていた。それほど自信があったのである。しかしその自信は実力からと言うよりは、母親から『あなたなら一番通過確実ね!』という、太鼓判があったからである。

 村には、村で唯一の医者の母親しか薬師はおらず、他の者と比べた事などなかった。だが先ほど実技をやってみて、二人に劣っているとは思っていなかったので、母親の言う通りだと思っていたのである。

 (もしかして落ちた……?)

 急に不安になる。ティモシー自身が、二人に勝っていると思ったところで、判断するのは試験を開催する側だ。

 手の平が、じっとりと濡れてくる。今まで自信満々だったが、今は不安の方が勝っていた。

 既にカードの色で悩んでいた事など、頭の片隅にもない。

 「九十八番、ティモシー・カータレット!」

 (呼ばれた!)

 ガタンとティモシーは、反射的に立ち上がった。

 「返事をお願いします」

 近づいた監査官が、いつまでも返事をしないのでそう耳打ちしてきた。

 「え? あ、はい……」

 安堵感からかティモシーは、頭が真っ白になっていた。言われるままに返事をするも声は小さい。

 監査官はこちらですと、ティモシーの前を歩き先導する。それにフラフラとついていくティモシーに皆釘付けだ。最年少だと思われる美少女だったからだ。実際は少年なのだが……。

 いつもならムッとするところだが、今のティモシーにはそんな事はどうでもよかった。無事に合格出来てよかったという思いでいっぱいだったのである。

 上には上がいるという事を知った瞬間でもあった。

 壇上の前にくると、アリックの横に並ぶように監察官に言われ、ティモシーは一人で壇上に上がる。

 ティモシーが、アリックの横に並ぶのを確認したグスターファスは、うむっと頷いて口を開く。

 「以上の者を我が王宮専属薬師とする!」

 (え? 三人だけ……)

 三人に皆の拍手が贈られた。

 ランフレッドの言う通り、狭き門だったのである。

 ティモシーがランフレッドをチラッと見ると、彼はニッコリと微笑んで返してきた。

 「ではこれから、認定式に移ります」

 オーギュストがそう進行すると、彼はグスターファスに小さな木箱を手渡す。それを持って、グスターファスはダグの前に立つ。

 「ダグ・プリザンス。あなたを王宮専属薬師に任命します。今までで一番素晴らしいモノだった!」

 一言添えてグスターファスは、ダグに木箱を手渡した。

 「ありがとうございます。精一杯務めさせて頂きます」

 ダグはそう言って、礼をしながら木箱を受け取った。

 グスターファスは、次にアリックの前に立った。

 「アリック・ガイトル。あなたを王宮専属薬師に任命します。基本に忠実でよく出来ていた!」

 先ほどと同じく一言添えると木箱を手渡す。

 「ありがとうございます。誇りを持って務めます」

 アリックも礼をしながら木箱を受け取る。

 そして、グスターファスは、ティモシーの前に立った。

 目の前の彼を見たティモシーは、今回初めて緊張し、ごくりと生唾を飲み込む。

 「ティモシー・カータレット。あなたを王宮専属薬師に任命します。この私も驚きである。その年齢でその技術! 将来が楽しみである」

 ティモシーは、グスターファスから木箱を受け取る。

 「ありがとうございます。今の気持ちを忘れず、仕事に務めます!」

 ティモシーの返答に、グスターファスはうむと頷いた。

 三人が試験を受けにきた者達を振り向くと、また拍手が贈られた。

 「皆には、王宮専属薬師を目指すだけではなく、薬師として人々を助けてほしい。今の時代、魔術による治療は見込めない。皆の力が必要なのである」

 グスターファスの発言が終わると、オーギュストが皆に宣言する。

 「これにて、試験及び認定式を終了します。皆さまお疲れ様でした」

 グスターファス達はその宣言で、壇上から退場していく。ティモシー達三人も壇上から降り、部屋に案内された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る