第4話

 通された部屋には円卓が真ん中に設置されており、一つの椅子の向かい側に三つ椅子が置いてある。この三つの椅子に順番に座るように言われ、ダグ、アリック、ティモシーの順に座るとカードは回収された。

 テーブルの上には、ペンと何やら用紙が置いてあった。

 ティモシー達と数人の監察官だけだったが、五分ぐらいするとオーギュストが入って来た。

 「三人もお疲れ様でした。では、これから契約を結びたいと思います」

 そう言って、オーギュストは三人の前に設置されていた椅子に腰を下ろした。

 「そこに王族専属薬師の約款がる。それに目を通し理解をしたならば、署名をするように」

 彼の言葉に三人は、用紙に目をやった。

 この用紙は契約書で、別紙の約款に同意し署名するようになっていた。

 契約書をどけると、約款が数ページあった。

 「え? これ全部、今覚えるのかよ……」

 「いや、今読んで納得したのならば署名し、その約款は持ち帰って保管しておいてほしい」

 ティモシーが驚いた呟やきに、オーギュストが答えた。

 内容は仕事に関する事から、王宮内の規則などである。

 例を上げると、知り合いであっても関係ない者は、許可なく王宮内には入れない。

 私物以外は、王宮の外に持ち出さない。

 機密である内容は、他に漏らさない。

 などである。

 不服があったとしても、署名しない場合は本契約にならない。三人は迷うことなく署名する。

 三人が署名した契約書は集められ、監査官の一人が持って部屋を出て行った。

 「さてお腹もすいた事だろう。まずは腹ごしらえしてから詳しい話をしよう」

 オーギュストはそう言うと、監査官に合図を送った。そうすると、部屋の奥から料理が出され、ティモシー達の目の前に置かれた。

 パンにサラダ、ハムにスープ。デザートまでついていた。

 先ほどから美味しそうな匂いが漂っていた。正体はこれだったのかとティモシーは思いジッと見つめていた。

 「遠慮なくどうぞ。我々も隣の部屋で昼食をとりますので、食べ終わったらそのテールに置いておいて下さい。では、一時間後に」

 壁側に設置されているテーブルを指差し軽く礼をすると、オーギュスト達は部屋を後にした。自分達がいては落ち着かないだろうとの配慮だろうが、ティモシーにすればこれはこれで落ち着かない。

 今日会った二人だし、一人は魔術師の可能性が高いのだから……。

 (気にしても仕方がない。お腹がすいたし食べるか……)

 「いただきます!」

 ティモシーは、そう言うとバクバク食べ始めた。

 二人はその姿を唖然として見ていた。可憐な少女に見えていたので、食べきれないのでは? と思っていたのに、すごい勢いで食べ始めたからである。

 ティモシーは、背が低かろうが食べ盛り。相手がどう思うが関係なく食べた。



 三人は食べ終わった食器を言われた通り、壁側のテーブルの上に置いた。

 勿論ティモシーは完食した。

 お腹がいっぱいになり気分が落ち着いたティモシーは、テーブルに置いていた小さな木箱に目が行く。

 (そういえば、これなんだろう?)

 木箱を手に取りカパッと開け、中を覗き込む。

 そこには、直径二センチほどの円にリーフが描かれたバッチが入っていた。

 「何これ?」

 ティモシーの呟きに、二人は驚いて目を丸くする。

 「何って……。王宮専属薬師に配られるバッチだよ。それが、僕達の身分証明にもなるから無くさないようにね。裏に通し番号が記載されているから、同じモノはないよ」

 アリックは、ティモシーに優しく説明をしてくれた。

 「あははは。無くしたら罰則があるから」

 ダグの方は、笑いが止まらないという感じで付け加えた。

 ティモシーは、顔を赤らめながらムッとして俯く。

 (知らなかったんだから、仕方ないだろうが!)

 「僕は、アリック・ガイトル。アリックって呼んで。君は、ティモシーだったよね?」

 アリックは場を和ませる為か、ティモシーにそう話しかける。ティモシーがチラッと彼を見ると、にっこりほほ笑んだ。

 「アリック……さん?」

 彼は頷いた。

 ティモシーはランフレッドに、目上には『さん』は絶対つけろよ! と言われていた。ついでに『皆、目上だけどな』とからかわれもしたが。オズマンドに至っては、殿を付けてと呼べ! と言われていた。

 「俺は、ダグで宜しく。何かわからない事があったら何でも聞けよ!」

 (誰がお前なんかに聞くかよ!)

 心の中でそう思いながらも、一応頷いておく。

 ムカついても無視はせず、頷く事はしておけ! これもランフレッドに言われた事だった。

 「でさ、ティモシー。お前いくつなんだ?」

 ダグが気になったのか聞いて来た。

 ティモシーは、年齢なんてどうでもいいだろうと思いつつも答える。

 「今年で十六」

 「十六! 若いとは思っていたけれど……」

 「若すぎないか? 大丈夫かよ……」

 一般的には、早いもので十八歳ぐらいに薬師になり、王宮専属薬師やマイスターと言われる薬師のトップクラスは、早い者で二十代後半。

 ティモシーの母親もマイスターである。

 それを踏まえると、驚くほどの異例であるのは間違いない。

 ダグの言葉にティモシーは、フンとそっぽを向く。

 (大丈夫だから、選ばれたんだろうが!)

 と、言い返したいが言葉を飲み込み、グッと我慢した。

 「陛下が認めたんだから大丈夫だよ。でも多分薬師の仕事はした事ないと思うから、僕らがカバーしてあげようよ」

 アリックの意見にダグは頷いた。

 「まあ、そうだな。で、アリックはいくつだ? 俺は二十九」

 「二十三です。五年ほど薬師の仕事をして受けたんです」

 アリックはそう返した。

 「お前も十分若いな……」

 「やっぱり一旦、薬師になってから受けてるんだ……」

 ティモシーは、ランフレッドが言っていた言葉を思い出し聞いた。

 「当たり前だろう? お前が異常……いや、特別なんだ」

 ダグの返事にアリックは、そうんな言い方をしなくてもとチラッと彼を見た。

 「君の年齢で薬師の試験を受ける者だって少ないよ。知識と技術の両方が必要だからね。それに、王宮に務める者を決める時は大抵、仕事をした事をあるものを基準としていると思うよ。その方がすぐに戦力なるだろうし。でも、規定では仕事の有無はないから。ただ仕事の経験がないなら大変かもね」

 アリックは、ティモシーに向き直りそう説明をした。

 経験がないティモシーを雇おうと思ったほどの成績だった事になる。

 「まあお前は、色んな洗礼受けそうだな……」

 (なんだよ、その洗礼って!)

 ダグに言われて、ムッとしてティモシーはそっぽを向く。

 「あんまり脅さないであげなよ」

 「親切で言っているんだ。自分より年下が自分より出来たら、そりゃ当たりたくもなるだろうよ。それはアリック、お前も当てはまるからな!」

 アリックは、嫌そうに顔をしかめ答える。

 「わかってるよそれは。もう前の職場で経験済みだから……」

 「そんな事しても仕方がないだろうに……」

 ボソッとティモシーはこぼした。

 「それが現実だ。まあここでは、あからさまにはないとは思うが……」

 「だといいけど……」

 ダグの言葉にアリックは呟くように返した。

 その後三人は、オーギュストから軽く説明を受け、王宮専属薬師の制服を受け取り解散となった。

 仕事は明日からで、当分の間は朝八時から十三時までと伝えられた。

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