ある暑い夏の日

ゆきんこ

ある暑い夏の日

蝉時雨が聞こえるようなそんなある夏の暑い日に、私たちは、私の家で雄大に勉強を教えている。

「ほらほら。そこ違う。さっき教えたでしょ。そんなんじゃ志望校受からないよ」

「いやそうだねうん……」

いつもは「怖い怖い」とか言うのだけれど、今日は違った。何かあったのかな。

「どうかした? なんか反応悪いけど……」

「いや……なんでもない」。

「それよりさ桜。桜は好きな人とかいるの?」

好きな人が誰かと聞かれたって答えられるわけがないよ。こんな状況で……。

「いるよ。誰が好きかは言わないけどね」

「じゃあヒントは?」

「身近にいる人」

いえないのでそう答えておいた。

「逆に聞くけど、雄大は好きな人とかいるの? あっそうか。隣のクラスの晴香ちゃんが好きなんだったよね?」

「いやいや。また夏休みに入ってできたよ。ヒントは同じ、身近な人」

「えっ……いやうん。違うよね」

もしかして雄大は私のことが好きとか……いやいやそんなことあるわけじゃないよね、あはは。だって雄大は隣のクラスの晴香ちゃんが好きって前言ってたし。

晴香ちゃんはクラスの人気者でかわいくておしゃれで勉強もできてさらにはスポーツまでできて完璧なのに、私は人気ものでもないしかわいくもないしおしゃれでもないし、さらには勉強もスポーツもできないし私なんかが晴香ちゃんに勝てるわけないよね。いつもは自分を隠すためにキャラを演じているけど、本当は自信も何もない。こんな私なんかが。私なんかが……。

「何が?」

「なんでもないなんでも。それよりも早く勉強しよう勉強」

「分かった分かった」

 






僕たちはある暑い夏の日、桜の家で本とかゲームとかしたりしながらではあったが志望校に受かるために勉強をしていた。

「ほらほら。そこ違う。さっき教えたでしょ。そんなんじゃ志望校受からないよ」

「いやそうだねうん……」

「どうかした? なんか反応悪いけど……」

「いや……なんでもない」。

本当はなんでもないわけがない。

「それよりさ桜。桜は好きな人とかいるの?」

「いるよ。誰が好きかは言わないけどね」

「じゃあヒントは?」

「身近にいる人」

身近にいる人か。となれば僕も可能性があるのか。いや、そんなことあるわけないか。信じたくはないがそれが現実というものである。

「逆に聞くけど、雄大は好きな人とかいるの? あっそうか。隣のクラスの晴香ちゃんが好きなんだったよね?」

「夏休みに入ってできたよ。ヒント同じ、身近な人」

「えっ……いやうん。違うよね」

「何が?」

「なんでもないなんでもない。それよりも早く勉強しよう勉強」

「分かった分かった」



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