第23話 赤のソーマ

「根源たるマナに眠りし無数の星々の残骸よ、今ここに姿を顕現し、その

 衝撃にて全てを打ち砕け! メテオ・エクスプロージョン!」


  辺りに轟音を響かせ凄まじい熱量と衝撃で辺り一面に広がった点と

 点を一瞬で消滅させていく。それに加えてマルチキャストでもう一面、

 もう一面と少し遅れ、点が消えていく。


  そう、点とは・・・無数に群がる邪神が率いるモンスター達だ。


  ここは天空城。飛空可能なモンスター達が次々と襲い掛かってくる。

 今は完全に防護障壁を切り、わざわざ天空城におびき寄せながら戦って

 いる。かつての英雄達の魂を仮初めの肉体に宿し、不死の戦士として

 蘇らせる奇跡『エインヘリヤル』。これの範囲が狭いからだ。


  アレルカンティアを救った英雄、勇者アストリアもその英霊の一人。

 今、彼は全身に闘気(オーラ)を纏い、剣にその闘気を集中させている。

 そして、闘気が満ちた瞬間全ての力を敵の大群に目がけて解き放つ。


「唸れ! 我が剣撃! ライトニング・スラッシュ!」

「飛べ  炎の戦斧! フェニックス・ブランディッシュ!」

  

  ほぼ同時にアストリアとゴンザレスの秘奥義が敵の大群へと襲い掛かる。

 一方は直線上に敵を薙ぎ倒し、もう一方は扇状に広がりながら敵を一

 気に屠っていく。その中には凶悪な巨竜ヴィルム族やワイバーン、ガーゴ

 イル、巨鳥族、翼竜族もいるがお構いなしに切り裂き、燃やし尽くす。


  それに負けじと他の英雄達も秘奥義や究極魔法を惜しげなく披露する。

 天空城だけで垣間見ることができる、今は亡き英雄達の共演。彼らが

 力を披露する度に無数に広がった点がまた一つ、また一つと消えていく。


「もういいでしょう。ご苦労様。下がりなさい。防護障壁を展開します」


  最高神となったセシリアの一声。役割を果たした英雄達は仮初めの

 肉体のまま天空城内へと帰還する。天空城の動力で、かつあらゆる奇跡

 の根源となる『奇跡の宝玉』。そのエネルギーの消耗を抑えるために、

 時折、防御壁を解き天空城に集まった無数の敵を英雄達が薙ぎ倒して

 いる。


  宝玉のエネルギー源は人々の祈りであり、願いだ。それらを吸収し、

 宝玉は奇跡の力を神々を通して行使する仕組みだ。神々は宝玉の代行

 者と言える存在。神々は宝玉の力を借り、様々な奇跡を行使してきた。


  邪神は、『リヴァイヴ』阻止だけではなく、この『奇跡の宝玉』を

 奪う事も目的の一つだ。邪神を生み出したのは奇跡の宝玉と対になって

 存在している『災厄の宝玉』。それは、魔界の奥深くに厳重に封印を

 されていたはずだったが、何者かが封印を破壊し、邪神といにしえの

 四人の魔王を復活させたのだ。


  自らの命も省みずに。


    =======アレルカンティアにて=======


  俺は・・・王都ローランに辿り着くことができた。そして、国王陛

 下と謁見し、皇太子殿下からアンネローゼ姫やロザリア姫の行き先を

 知ることとなる。それは、遙か北東に存在する魔王城の一つ手前の砦

 ヴェガリウス城塞にて随時交戦中とのことだった。


  もし、そこが陥落すれば、魔王城から一気にモンスター達が押し寄せ、

 王都ローランもただではすまない。ローラン王国にとって最重要拠点とも

 言える存在だ。そこに大半の戦力を集中させ対応に当たっているという。


  そして、機をみて主力を投入し、一気に攻勢へと出たいのだそうな。

 主力とは軍の総大将である第二王子殿下率いる軍だ。英雄テセウスも

 ここに在籍している。

  

  大半の戦力を城塞の防衛に当たらせていると言う事は、同時に

 その他の防衛が薄くなる事を意味する。そこで、俺達は国王陛下

 直々の命で国内の各地を転戦し、村や町の周辺に巣くうモンスター

 達の討伐にあたっていた。


  数度ヴァルグランドへ向かう為のゲートを求め、神々の住まう山

 へ向かったことがある。一度目は50前後、二度目は75前後、最後は

 99になってからだ。


  モンスターを討伐したからと言って伝説の武器など手に入る事など

 もなく、相変わらず俺はカラドボルグを振り回していた。店や競売で

 購入できる装備品では最高級の装備を揃えていたが、それでも抜ける

 事ができなかった。


  99になってからも国王直々のいわば、お使いを延々とこなす羽目

 となる。なぜならば、伝説の装備群と言われる秀逸な装備は全て、

 ローラン王家の宝物庫の中だったから!


  それを頂くために黙々とレベル上げやモンスター討伐をこなして

 いたわけだ。皆がいなくなってもう、二年もの月日が経過している。


  オマケにイスタリア大陸へと向かう為の船もくれるという。まさに

 至れり付くせり・・・なわけない! 体よくこき使われているだけだ。

 ロザリア姫やアストリア達はというと、城塞で来る日も来る日も防戦

 しているのだそうな。


  例え、リザレクションが使えるアークプリーストがいると言っても、

 敵、戦死者共に膨大な数となる。逆にリザレクションを詠唱可能な

 アークプリーストの数は限られている。


  それにリザレクションのような高度な魔法は負担が大きく一日に何度

 も詠唱できるような代物ではない。つまり、必然的に間に合わなかった、

 もしくはキャパシティーを越えた人員分はそのままお亡くなりになる。


  そうやって、徐々に徐々に人が死に、入れ替わり、死にを繰り返して

 いる。一気に攻めに出たいのは山々だが、準備が終わらない事には攻め

 込むこともできない。その準備とはつまり・・・俺達のことだ。


  今、国内中の名工と呼ばれる職人達に俺達の防具類をあつらえて

 貰っている最中だ。ローラン王家が全勢力を注ぎ込み、レア素材をかき

 集め作成させているのだそうな。剣も伝説の武器の打ち直しをして

 貰っている。なにせ、年代物で宝物庫にしまいっぱなしだったから。


  その間、俺達は巣を作ったモンスターを討伐して回って居たわけだ。

 既製品の武器防具類で。レベル99まで到達した俺達にとって、ゴブ

 リンキングなど既に敵ではなかった。勇者の俺を含め究極職4名のPTだ。


  そして、今俺は最後のお使いをこなすために伝説の鍛冶職人のゴラ

 イアスの元にやってきている。打ち直した伝説の武器と新たに作成して

 貰った、オーダメイドの全身鎧を受け取るためだ。


「裏山の洞穴の中にとある、飲み物がある。貴重な飲み物でな、それを

 飲まないと最後の仕上げができんのだ。それを取りに行って貰いたい」


  ゴライアスはそう、俺達に告げた。今から最後の仕上げの準備に取り

 掛かるのだという。それと、絶対に飲むなとも忠告される。そう言われ

 ると一口だけでも舐めたくなるものだ。


  俺達は、お使いにうんざりしながらも素直に言われたとおり、裏山

 の洞穴に向かい、赤い飲み物が出ると言われる場所へと歩を進める。

 割とすぐかと思いきや、この洞穴はなかなか距離があり、結構歩か

 される羽目となる。武器と防具と船のためだ仕方あるまい。


「・・・蛇口がある・・・」

「ご丁寧にまぁ・・・ゴライアスが据え付けたんだろうけども」

「こんなもんまで作ってんだな」


  液体を入れるための陶器製の瓶を蛇口のすぐしたに置き、蛇口を捻る。


「でないな・・・」

「でませんねぇ・・・」

「しょうがない、しばらく開けたまま待とう」


「なかなか、苦行だったな・・・この2年間」

「もう、二度とレベル上げとかお使いはしたくない気分っすね・・・」

「ええ・・・さすがにもうくたくたです・・・」


「姫さんから譲り受けたカラドボルグって本当にいい剣だったんだなぁ」

「既製品ではそれを越えるような剣は存在しなかったからな」

「オリハルコンブレードも悪くなかったが、これを使うのも今日までだ」


「ヴァルハラントも簡単には抜けれそうにないしなぁ・・・」

「今で何とか1/3程度進めたかどうかという所だ」

「さすがに、範囲魔法を撃ちまくってゲートが隠してある建造物を破壊

 するのは問題ですからね」


「でないな・・・」

「でませんねぇ・・・」

 

  休息がてらうとうとしかけたその時、光る赤い液体がぽたり、ぽた

 りと瓶の中に滴り落ちていく。


「これが頼まれてたもんか?」


  光る赤い液体とかやばそうな匂いがするが・・・、俺は恐る恐る指を

 だし、試しに一滴舐めてみる。


「・・・甘くて旨い・・・」

「何なんでしょうね、この液体」

「飲むなとは一応忠告を受けてはいるが・・・」


  右手の紋章が一瞬強く煌めき、そして消える。この現象はこの液体

 と何か関係あるのか? そう思い、もう一滴すくい取り舐める。すると、

 また同様の反応が起こる。


「これ・・・力が漲ってきている気がする」

「これが、もしかしたらソーマなのかも知れないな」

「なるほど、この液体が赤のソーマか・・・」


「下手に飲むと副作用があるかもしれん、そこまでにしておけ」

「そうですね」


  瓶が満たんになるまで一時間程度掛かった。これだけあれば充分

 だろう。俺達は来た道を戻り、ゴライアスの元へと帰還する。

 

  帰りは、テレポートだ。一瞬で作業小屋へと戻る。


「爺さん、これでいいのか?」

「ああ・・・そうだ」

「これって、もしかして赤のソーマって奴じゃないのか?」


「誰から聞いた?」

「女神ミレイアに9つのソーマを集めるように頼まれたんだ。俺達には

 それが必要なんだよ」


  そう言うとゴライアスは一度目を閉じ一瞬考えた後、口を開く。


「これは、我ら一門に代々伝わる秘薬。お前さんの推測通り、これが赤

 のソーマだ。」

「誰か舐めてみたか?」

「ああ、ちょっとだけ」


「ふむ、勇者だけあって特に何ともないようじゃな」

「これ、なにかまずいのか?」

「人によって劇薬でな、死に至る事もある危険なものだ。但し我々一族

 は耐性をもっているのでな、これを飲むと力が湧き出てくる」


「良かったら、それをわけて貰えないだろうか?」

「いいだろう、但し人によっては危険なものだ。保管には留意しなさい」

「ありがとう。恩に着る」


「それでは今から最後の仕上げに掛かる。一週間後にまた取りに来い」

「ありがとう、ゴライアス」

「礼には及ばん、かつてご先祖様も勇者アストリアに防具を用意したと

 言われている。これも我々一族に課せられた使命なのかもしれん」


  一週間経過した後、再び工房へ立ち寄った。


  俺は、打ち直したブリューナクと防具一式を受け取り、カラドボル

 グはゴライアスが再度調整した後に部長の手へと渡った。部長にも専

 用防具が用意され、それと同時に伝説の盾オハンを託された。これも

 ローラン王国の宝物庫に眠っていた品らしい。


「ふむ、鎧のサイズはぴったりだ。それと、この盾はいいものだな」

「こいつらを手に入れるためにどれだけ走り回ったことか・・・」


  ひたすら、モンスターを狩り、レベルを上げ、王の頼まれ事をこな

 して居ただけで、特に面白いこともなかったので割愛。


「後は、王都に戻って魔王城奪還の打ち合わせをせねばな」

「ええ」


  ようやく、俺達の反撃がここから始まる。魔王城に篭もっている

 いにしえの魔王の一人、オヴェリスがそこに居る。英雄アストリアに

 よって討伐された魔王。しかし災厄の宝玉の力によって再びこの地に

 降り立った。


  やらなければいけないことはたくさんあるが、まずはアレルカンティア

 に再び平和をもたらすことが先決だ!



      =====エルフォリア某所にて======


「ついに・・・勇者峰山悟が動き出したようですよ・・・リザリー姫殿下」

「・・・・・・」

「全く、どれだけ人を待たせれば気が済むんでしょうかねぇ・・・」


  とある一室に監禁されたドレス姿のリザリーがそこにいた。特に

 痩せ細った様子もなく、体に傷一つついて居るわけでもない。丁重に

 扱われているようだ。ただ、両手両足には拘束魔法が掛けられていて

 この部屋から出ることができなくされているが。


「マクスウェル伯爵・・・恥を知りなさい・・・」

「相変わらず辛辣なことだ・・・。私は諦めませんよ、あなたが首を縦に

 振るまで待ちましょう。峰山悟が死ねば、気が変わるかも知れない」


「あなたという人は・・・」

「そうだ、良い物を差し上げましょう」


  そう言うとマクスウェル伯爵は一つの魔法の水晶球を取りだし、

 真っ白な壁に映像を映し出す。


「これは・・・」

「彼に監視を付けてあるんですよ。但し、彼に危害を与えることは出来

 ませんが。ま、そんなことしなくても私が直々にお相手してあげます

 がね」


「なんのつもり?」

「どうです? あなたの愛しの峰山悟の姿は? 歯がゆいでしょう?

 早く助けて欲しいでしょう? しかし当面はその願いは叶いそうに

 ありません」


「・・・・・」

「魔王オヴェリス様があそこにはいますからねぇ・・・」

「大人しく私の妻になると言って頂けるなら、あなたにも勿論彼にも

 危害を加えないとお約束しましょう」


  そんな約束果たされるわけがない。なぜならば、彼はもう魔王ヴェル

 ダンテの僕と化したからだ。峰山悟にとって倒さなければいけない相

 手の一人。

 

  エルフォリアを救う前、マクスウェル伯爵は何かとリザリーの力に

 なってくれていた。それが、今はこれだ。リザリーを欲するあまりに

 魔王の手下と化したのだ。恥知らずも甚だしい。


  彼は今は亡きエルフォリアのイスカンダル王国の再興を目論んでいた。

 イスカンダル王国の遺児であり、王女であるリザリーを娶り、自分が

 王になることを望んだのだ。


  しかし、リザリーはそうやって自分が担ぎ出されることを嫌い、

 アレルカンティアへ滞在し続けた。悟達との生活は心地よかった。

 しかし、エルフォリアに戻ることを決めたのは人々を見捨てる事が

 できなかったからだ。


  魔王を倒すために戦ってくれた4人の仲間の内2人は故人だ。ゴン

 ザレスは魔王グレゴリウスに殺され、大賢者アレクセイは魔王討伐後、

 天寿を全うしその命に終止符を打った。残ったのは聖女オーフェリア

 とリザリーのみ。


  オーフェリア一人に全てを押しつけるわけにはいかない。自分は姉

 で彼女は実の妹なのだから。そんな想いが故郷エルフォリアへと帰還

 する動機となった。今オーフェリアがどこで何をしているかは不明だ。

 彼女一人では結局何も出来ないのだから。勇者悟がやってくるまで

 何とか逃げ延びてくれていればいいが。


  マクスウェルはリザリーに拘っていた。しかし、いないとなれば、

 オーフェリアにちょっかいを掛けていたに決まっている。だから、

 自分はオーフェリアを逃がし、敢えて捕まったのだ。どの道、抵抗する

 だけの力などなかったが。


  そして今、勇者悟達の映像が目の前に映し出されている。こんな

 ものを見せられたら、泣いてしまいそうだった。それでも堪える。

 マクスウェル伯爵の前では意地でも泣きたくなかった。


「ふむ・・・いつまでたっても助けに来ない彼の姿は如何ですか? 

 それはそこに置いておきましょう」


  にやりと悪辣な表情を浮かべるマクスウェル。彼はリザリーが悟に

 恋い焦がれているのを知っているからこそ、会いたくても会えない、

 そんな彼女に焦燥感を与えようというのだ。リザリーは嬉しい反面、

 どこまでも見下げ果てた奴だと思っていた。


  そして、マクスウェル伯爵が部屋を出た後、涙を流し静かにすすり

 泣くリザリーの姿がそこにはあった。悔しいがマクスウェルの思惑通り

 になったと言う事だ。


「悟さん・・・会いたいよ・・・」

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