第20話 さゆり

「緊急会議を今から開始します」


  議題は勿論、6歳児となったマリカ嬢の事だ。一度アストリアに預

 けたところ『次はもう勘弁して欲しい』との返答があった。何をしで

 かしたかは大体は想像がつくが。


「うーん、狩りに行くとき困るよな、アストリアはもう嫌だって言って

 るわけだし」

「別にマリカ一人でお留守番できるよ~」


「とはいってもな、中身25歳でも体は6歳児のまんまだからな」

「じゃあ25歳に戻してよ~」

「ダメよ。戻ったら悟さんにちょっかい出すでしょ!」


  今でも充分被害に遭ってますがね!


「とは言ってもなー部長を置いていくのも・・・」


  現在勇者が3名。プリンセス、プリースト、女神、キング、アーク

 メイジの8名PTだ。キングの防御力は惜しいが、別に勇者でもタンク

 できるよな。部長を置いていっても問題なくね!?


「レベルがある程度追いつくまで部長を置いていくか・・・」

「はぁ? ふざけんなよ! このハゲと一緒にいるくらいなら一人の方

 がましだよ!」


  あんまり邪険に扱うとパパ泣いちゃうよ!? 部長は目に薄らと涙

 を貯め堪えている。目をうるうるさせながら。


「うーん、例えば・・・お母さんを呼んでみるとかはどうなんでしょーか?」


  無邪気なセリスティアがそう言い放つと、


「むりむりむりむりむりむり!」

「それは困る! 困るんだよ!」


  反応が一緒。さすが親子。ままんが苦手なようで。


  翌日、セシリアがままんを連れてきた!


「さゆり・・・どうしてここに・・・」

「お久しぶりね、敬吾くん。若いお嬢さんに囲まれて随分羽を伸ばして

 るそうね。ついでに鼻の下も」


「あわわわわわ・・・」

「はぁ・・・マリカも随分とちっちゃくなっちゃって・・・」


  逃げようとするマリカをがっちりホールドするさゆりさん。


「何逃げようとしてんの!?」

「お母さんーロープ! ロープ! 苦しいよ!」

「あんたはもう! 25歳にもなって何人様に迷惑掛けてるの!」


  おおう、バッチリちくられてら! リビングで正座させられる二人。


「あなたたち、一体ここで何をしてるのかしら?」

「仲間と共同生活をだな・・・」

「ふーん、若い女の子に囲まれて随分楽しそうなことね・・・」


「お母さん、皆、悟さんのコレだよ!」


  余計なこと言うんじゃありません!


「そうなの? まぁ・・・敬吾くんが若いお嬢さんにもてるわけ無いわ

 よね」

「はい・・・何というか・・・まぁ・・・」


「アンネローゼ第二王女殿下に色目を使われてデレデレしてます!」

「峰山! きさまぁあああああああああああ~~~~~~~~~~~」

「・・・・・・」


  じろりとさゆりさんは部長を見据える。


「それで、私がここに何をしに来たか分かるわよね?」

「はい・・・マリカの事ですよね・・・」

「あなたという人が居ながら随分とやりたい放題らしいわね」


「あい、お母さんごめんなさい」

「私に謝ってもしょうがないわよ。それでね私も少し考えたの」

「うう・・・日本へ連れてかれるの?」


「それも考えたけど、二人ともここを気に入ってるようだし」


  ゴクリと息をのむ部長。


「これ、書いて」


  一枚の書類。それは婚姻届だった。


「一人で暮らして、働いても張り合い無いわ・・・」

「私のことを・・・許してくれるのか?」

「まさか?」


「う・・・ぐ・・・」

「その代わり、一生掛けて償って貰うつもりよ」

「ああ・・・分かった・・・」


「うそ! まじで!」

「マリカ・・・何か不満でも?」

「いえ! 何でもありません! お母様!」


「それと、家事洗濯炊事全部お父さん達に任せて全くしないとか?」

「あい・・・」


「その根性たたき直してあげるわ。家に居たときはやってたわよね?」

「あい・・・」


  うわ! こいつ何も出来ないって嘘ついてたんかい!


「この子ったら、働き出した途端家事を全然手伝わなくなって・・・」

「だってぇ・・・仕事きつかったんだもん~」

「つまりは・・・お母様もここに住むってことでしょうか?」


「そうね。しばらくはお世話になります。それとここの敷地内に別邸を

 建てて住ませて貰うから」

「セシリアですか・・・」


「ええ、彼女の承諾は済んでるわ」

「どうしてまた、よりを戻す気に?」

「一度離れてみるとこんな、ハゲでもいないと寂しいものよ」


「いいんですか?」 

「正直もう、働くより専業主婦したいのもあるけどね」


  親子だ! 反応が娘とまんま一緒!


「良かったわね、これは私からのプレゼントよ」

「ちょっと! セシリア様!」


  部長は待てと言わんばかりの表情だったが既に遅し、さゆりさんも

 若返ってしまった。部長と同じ20歳に。これで50年以上また一緒に

 いられて良かったね! うぇぇ・・・。 ちと気の毒な気もする。


「うっそだろ・・・」


  娘のマリカの反応にしてもこれである!


「これでよかったんっすかねぇ・・・」

「お前何か知ってんの?」


  ギロリ、部長の視線が井岡へと向かう。余計なことを言うなと言わん

 ばかりに。


「夫婦の事だからまぁ、人がどうのこうのいうこっちゃないんでしょうが」

「何か知ってるの? マリカ知りたい!」

「知らない方が良いと思いますぜ、お嬢さん・・・」


「・・・まさか・・・」

「おい・・・嘘だと言ってくれよ!」


「自分・・・部長の子孕んじゃったっす!」

「嘘つけ!」


「と言うのは冗談で、まー言わなくても察し着くんじゃ無いですか?

 特に先輩なら・・・」

「おいおい・・・あれって・・・あちゃー・・・」


「そうよ、敬吾くん、浮気してたの」

「うっそだろ、ハゲェエエエエエエエエ!」

「面目次第もございません!」


  相手は・・・多分既婚子もち38歳の例の女子社員だな。何度か

 一緒に居ることを見たことがある。たまに早く帰るときがあるなって

 思ってたら不倫かよ!


  通りで・・・退職金を慰謝料としてガッツリ持って行かれてる訳だ。


「パパ・・・不潔。最低、ハゲ!」

「ぐっ・・・」


「もう、過ぎた事よ・・・」

「さゆり・・・」

「その代わり、これからはちゃんと私の言う事を聞くのよ! 分かった!?」


「はい! さゆりちゃん! もう浮気はしません! ごめんなさい!」


  まぁ・・・これはこれで良かったのかもしれんが、セシリアは相変

 わらず余計なことしかしねぇな!

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