第16話 シスターセリスティア

「段々やることも無くなってきたっすね、先輩」


  そう言いながらリビングでテレビゲームに勤しむ俺の膝の上にちょ

 こんと腰掛ける井岡幼女バージョン。何とかセシリアを宥め元の姿に

 戻して貰った。


  ファッション誌を読んでいるのはロザリア。リザリーは雑貨用品の

 パンフレットを見ていた。良い物があれば、取り寄せ、もしくは購入

 しに行くのだそうな。


  魔王が倒されてからは少しずつではあるがアレルカンティアと日本で

 の間で企業案件の輸出入が認可されるようになった。為替レートが設

 定されていないので相変わらずの金本位制の貨幣交換になっているが。


  アメリカ合衆国や欧州各国等も近代に至るまでは金本位制を採用して

 いたのだ。しかしそれでは貨幣の意味がない。為替はいきなり変動相場

 制を敷くのではなく固定相場でとの話も出ているのだが、金本位制は実

 質変動制のようなもので金の時価によって貨幣交換率が変化する。


  それはさておき、みんな退屈を持て余してるのは確かだ。家事はもう

 一通り済ませて、買い出しはまとめ買いして食材は冷蔵庫に。日本で購

 入してきた加工食品は纏めて倉庫に保管してある。


  大量に買い付け、ゲートまで運んで貰い、アレルカンティア側に

 着いてから井岡がテレポートを使い直接倉庫に移動させたのだ。

 少しの衣料品やら各自の個人的な買い物は基本手持ちだ。


  井岡にとって元々女遊びが趣味だったので自身が幼女化してしまう

 とやることが無くなってしまった。自身を着飾るのにも限界がある。

 いっその事15~16の少女にして貰えば良いのにとも思ったが。


  ただ井岡的には自身のキャラが没個性的になるので嫌なのだそうだ。

 幼女だから居場所があるのであって歳食ったら単なる魔女っ子でしか

 ない。


  部長とバルバトスは将棋をしている。なぜ将棋なのかは突っ込まないぞ。

 アレルカンティアにもチェスや将棋のようなものアレルカンティア式

 チェスがあるが、部長は将棋しか指さない人なのでバルバトスが合わせた

 格好だ。


  麻雀は須藤幹生氏がいないとできない。俺も麻雀のルール位は分かる

 が社会人時代に散々カモられてしまったのでもうやらないと決めた。


「先輩、先輩、そろそろセリスティアへ行きませんか?」

「セリスティア? ああ、ミレイア様が行けっつってたところか。もう

 魔王倒しちゃったし用無しじゃね?」


「まぁ・・・そうなんですけど、たまにはお出かけしません?先輩も

 もうレベル10になってるじゃないですか」

「確かに、そろそろゴブリン以外の獲物も狩りたいな。何万体始末した

 ことやら」


  最近では俺達を見ると『助けて! 悪いゴブリンじゃないよ!』と

 看板を掲げて命乞いするようになった。俺達は関係無く始末するが。


「ゴブリンもあの手この手で命乞いするのでバリエーションがあって

 ネタ的に面白かったりもしますが、もう見たくないわー」

「うむ」


  当日の夕食時、皆と話し合って翌日準備してセリスティアへ向かう

 事となった。クレアが俺を独占していた事にクレームが入り、一緒に

 寝る女の子が日替わりとなった。今日はリザリーだ。彼女には指一本

 触れてないわけだが。


「こういう風に一緒に寝るのってまるで夫婦みたいですね」

「そういや、リザリーとはあんまり話したことないよなぁ・・・」


  グレゴリウスに殺された戦士ゴンザレスはミレイアの使いになった

 と言う。神界も少子高齢化が進み色々と大変なのだそうな。セシリアと

 ミレイアは神界では一番若く、神様見習いが不足しているのだと。


  ミレイアの経営するサリアの占いの館にはたまにいるのだ。殺され

 た側でありながらグレゴリウスのことはもう恨んでいないのと言う。

 ぐう聖過ぎるだろゴンザレス。      

 

  整備された街道をまっすぐ進みセリスティアの街へと歩いた。すぐ

 到達すると思ったら、三日程歩かされた。今度から長距離移動する

 ときは馬車を用意しようと思う。何なら自動車を持ってくるのもあり

 だろう。持って来れるわけねーな。


  セリスティアの街は小高い外壁に囲まれており、それがモンスター

 の来襲を阻んでいるのだろう。上には兵隊さん達が数人で見張りをして

 いるのが外からでも確認できた。壁で囲われているので入り口も制限

 されている。


  俺達は冒険者証を提示し、街へと入った。


  かつては衛星都市のような存在だった街も遷都後寂れ、辺りを見渡

 しても殆ど人の気配がない。そして歩いている人々も老人だらけだ。

 

  若者は古都アスティアや王都ローランへと出稼ぎが大半なのだそうな。

 若い人手は駐留している兵隊が大半だった。兵隊の中には地元出身の者も

 多少いる。


  無機質でかつ立派な建物が建ち並ぶ。それが侘しさを一層際立たせ

 ている。


「久々に来たが・・・更に人が減っているようだな」

「ええ、死んでいく街といいましょうか・・・」


  受け答えしてるのは地元出身の衛士ダリルだ。ロザリアに気を遣って

 呼び出され案内役として抜擢された。別にそんな気遣いいらんのだが。


「シスターは元気か?彼女も相当お歳を召していたはずだが・・・」

「いいえ、それが・・・シスターロアはつい先日お亡くなりになられま

 した・・・」

「そうか・・・惜しい人無くしたな」


  そうやって人がひとり、また一人老いて死んでいくんだな。

 まるで、日本の末路を見せつけられているようでもあった。


  セリスティア教会へ向かう。シスターロアの墓に花を添える為だ。

 ロザリアは幼い頃セリスティア教会に行儀見習いとしてやってきていた。

 シスターロアは非常に厳しく、優しい人だったという。


「これはこれは、ロザリア様。ようこそおいでくださいました。今は亡き

 シスターロアも大層喜んでおられるでしょう」

「シスターミザリア、お元気そうで何より」


「あなたにはなかなか手を焼かされたものですが・・・ご立派になられて」


  ああ、ロザリアって跳ねっ返りぽいもんな。落ち着いているようで

 割と気が短いし。堂々としていておっちょこちょいだ。


「紹介しよう、彼が勇者悟。魔王を倒した大事な私の仲間だ」

「お噂はかねがねお聞きしておりますわ。ようこそセリスティアへ」


「セリスティア、セリスティアはいますか?」

「はい、シスターミザリア。何用でございましょう」


「アスティアからロザリア様と勇者様達がいらっしゃいました。

 長旅でお疲れのようですし、お部屋に案内を」

「はい、シスターミザリア」


「セリスティア。久しぶりだな」

「ロザリア様。お久しゅうございます」


「彼が、勇者悟様・・・ですか・・・」

「どうした?」


「あまり、良くない噂を聞き及んでおりますが・・・」

「魔王を倒した後その魔王を手込めにした挙げ句、毎日仲間の女の子を

 とっかえひっかえして酒池肉林の生活をしていることか?」


  なんだそれは!?


「姫様もご存じなので?」

「大体あってるような合ってないようなそんな感じだ。実際手を出した

 のはクレアだけで他は何もされてないのが現状だ」


「魔王を手込めにしているのは本当なんですか!?」

「ちげーよ! 女神ミレイアの未来視で運命の人だって断定されて以来

 むしろこっちが被害受けてるんだっつーの!」


「よくもまあ・・・女性と肉体関係をもってヌケヌケとそう言うことが

 言えるのですね、汚らわしい」


  シスターセリスティア・・・俺をそんな汚物を見るような目でみない

 でくれませんかね!


「セリスティア、お止めなさい。勇者様シスターセリスティアが失礼を」

「いえ、お気になさらずに自分の優柔不断さが招いた結果です」


「あら、優柔不断なのは自覚してたのね」

「とりあえず、セシリアは黙っておいてくれる?」


  ちなみにこの教会にあるのはミレイア像だ。


「我が家と思っておくつろぎ下さい」

「ありがとう、シスターミザリア」

「こちらへどうぞ」


「ありがとう、シスターセリスティア」


  シスターセリスティアに教会の中の部屋に案内される。旅人を泊め

 たりするために用意されているという。だから中は質素で風呂などは

 当然無い。


  最初から期待はしてなかったが。


「お食事の時間になったら、またお呼びします」

「よろしく頼む」


「普段豪奢な生活をしていると、たまに自分を見失うことがある」

「それで、たまにここに来たりするんだ?」

「ああ。自分が何のために生まれ生きているのかを再確認するために」


  確かに、魔王を倒してからというものの贅沢極まりない生活してる

 な。とは言っても、日本人レベルなら普通よりちょっといいか程度の

 生活で贅沢と言うほど贅沢はしてないが。働かずに毎日だらだら暮ら

 せるのは何よりもの贅沢だと思う。


  食事中にシスターミザリアから提案があった。親なし子のシスター

 セリスティアを連れていって欲しいと。


「シスターミザリア様、私に至らない所がありましたでしょうか?」

「違うのです、シスターセリスティア。あなたはまだ若くこれから明るい

 未来が待っているかもしれません。それに、ロア様からの遺言です。

 何も若いあなたが我々の犠牲になることはありません」


「犠牲だなんて・・・そんな・・・」

「いいのですか?シスターミザリア」

「いいのです、我々は我々で自分のことはできます。しかし彼女には

 未来があります。それをロア様は大層悩んでおられました」


「シスターミザリア、お願いです。どうかここにいさせてください。

 勇者悟と言うケダモノに孕まされてしまいます!」

「いいではありませんか、勇者悟さんは大層お金持ちだとか。もし、

 よろしければ、寄付を頂けると・・・助かるのですが・・・」


  売った!売りやがった! 金の為にうら若きシスターを売りおったぞ!


「わかりました、シスターセリスティアは確かにこちらでお預かりしま

 しょう。それで、寄付はお幾ら万円必要ですか?」


「悟さん!」


  こうして、シスターセリスティアは金貨1000枚で俺達に売り

 払われる事となった。


「なんですか・・・この紐は・・・」

「お前が逃げないように。そもそも俺達はテレポートで帰れるのにお前が

 アスティアに来たこと無いって言うから帰りも歩きなんだぜ?」


「まるで、これでは奴隷売買ではありませんか!」

「実質売られたんだからしょうが無い」

「!!!?」


「ロザリア様! お助け下さい!」

「心配するな。悪乗りしているだけで別にどうこうしようって気は無い」

「それにお前金貨1000枚の価値があるのか?」


「う・・・それは・・・働いてお返し」

「無理だ。」

「うう・・・神よ・・・お救い下さい」


「女神セシリア様なら目の前に居るぜ」

「・・・」

  

  こうしてシスターセリスティアが仲間に加わるのだった。雑用押し

 付けられる奴が増えて助かるわ~。

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