第14話 日本旅行

  先日、ミックこと須藤幹生氏から旅行の提案があった。あれからも

 手が空いているときはちょくちょく書類仕事を手伝っていたのだ。

 正直、それほど多くない取り分を頂くのも気が引けたし、今はもう、

 魔王討伐での多額の報奨金を貰い、一生遊んで暮らせるくらいの金銀

 財宝を手に入れた。主な入手元は魔王城。


  まだまだ、モンスターは跋扈していてこの辺りも日本のように安全

 が確保されたわけではない。森なんか歩いていたらいきなりモンスター

 この辺りで言うならゴブリンに襲われる事もある。ただ、相当数討伐

 してめっきり見なくなったが。


  毎年討伐しても気づくとまた各地からやってくるのだそうだ。


  そう言った事情もあり、どうせならみんなで旅行しようと言う話に

 なった。せっかく知り合った縁だ。行き先は、小さい子供連れでも

 問題ないような治安が良い場所。


  そんなの・・・日本くらいしかない!


  と言う事で、ゲートから日本に向かおうとしていたのだが・・・


「きぃぃぃぃぃぃぃ――――――! もう我慢の限界よ! いつまでも

 いちゃいちゃいちゃいちゃ! 年中パコパコパコパコ! 悟さんは

 あなただけのものじゃないのよ! それは私のよ! 返して!」


  いや・・・いつお前の物になったんだ。初耳だわ。それに女神が

 パコパコとか言うんじゃねぇ! 仕方なくだよ!? 邪険にしたら

 こっちの命が危ういんだからな!


「あら、女神様とあろうものが、たかが人間一人に嫉妬?」


  ちなみに、どんな姿になろうと魔王は魔王だ。相変わらずバカで

 性格が悪い。そして傍若無人でわがままでヤンデレのフルコンボ。

 今は大人しくしているが、いつまた暴れ出すか分からない。


「ふ~ん・・・そう・・・あなた私を誰だと思ってるの? そう言う態

 度なら、また男に戻してやるわ!」


  バカだこいつ! どうして女にしたかそれすらも忘れてやがる!


「落ち着いて下さい! セシリア様! 男になったら今度は我々が被害

 を被ります!」


  一緒に着いてきたロザリアとアンネローゼが暴挙を犯そうとしている

 セシリアを制止に入る。いいところのお嬢さんにそんなことさせるな!?


「くぅぅぅ――――――――! 男でも女でも迷惑な奴! むかつく!

 むかつくのよあんた! だいっきらい!」


「奇遇ね、私もあなたのこと大嫌いよ。メサイアの娘と知って余計嫌いに

 なったわ。それに誰にでも愛されて、崇められて調子に乗ってるのは

 あなたの方じゃない?」


「これこれ! 煽るな! 二人ともやめろよ。これから楽しい旅行なのに

 いきなり喧嘩すんな!」


「悟さん・・・そもそもあなたがいけないのよ、こんな女に優しくするから!

 おっさんに戻りなさい!」


  そう言うと一瞬でおっさんの姿に戻された。うわー、若いって素晴

 らしかったんだなー。すげーだるい。超体が重い・・・。懐かしいわ

 この不健康極まりない体・・・。


「・・・・・・あんまり見た目変わらないわね・・・相変わらず地味な男」

「うっさい! お前が戻したんだろ!」

「何か・・・面白くない。面白くない! 面白くないのよ!」


  そして、なぜか視線が部長や井岡に。


「おい! バカ! やめろ!」


  嫌な予感がする。危険を察知した井岡と部長はセシリアと距離を取るが

 既に遅し、井岡は幼女姿から男の姿に。部長は元のハゲたおっさんの姿に

 戻されてしまった。


「ぎゃあぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――――!」


  なんてことだ幼女服がぱっつんぱっつんになり破け布きれが一部

 残るだけ。極めつけがパンツがこんもりともりあがりパンツ一丁の女

 装した変態姿になってしまった。まずい!ヒロ君にトラウマを与えて

 しまう!


「ああわわわわ・・・・ママ・・・ママァ・・・まーちゃんが・・・

 まーちゃんが!」

「みちゃだめよ! 変態がうつるわ!」


  酷い言われよう。


「井岡バカ、早くテレポートして着替えてこい!」


「ううぅぅ・・・・・理不尽っす! 『テレポート』」


  目に恥辱の涙を浮かべながらテレポートで屋敷に戻る井岡。朝っぱら

 から酷い物を見せつけられた・・・おぇぇ・・・!


  ついでに須藤幹生さんもおっさん姿にされていた。さすがにヒロミ

 ちゃんは女のままだったが・・・。ママが男だったなんてヒロくんが

 知ったら、一生もののトラウマになりかねん! セシリアは頭のネジが

 飛んでいる女だからな。何をするか分からなくて怖すぎる。


「セシリア・・・八つ当たりすんなよ・・・」

「ふん! 私のことみんなしてバカにするからよ!」


  本当に困った奴だなー。部長なんて髪を失ったショックで真っ白に

 なってるじゃねーか! ほんといらんことばっかりしやがる。


  井岡を待つこと数十分。スーツ姿で井岡が戻ってきた。懐かしいな。


「すいません、お待たせしました」

「いいよ、いいよ。しょうがない。たまにはこういうのもいいだろ。

 ただ・・・。お前のその姿見ると、思いだし怒りがこみあげて・・・」


「ちょ! なんすかそれ! 先輩、落ち着いて下さい! それ時効っしょ!」


  俺達は元の姿に戻ったままアレルカンティアのゲートをくぐり抜け、

 日本旅行へと向かうこととなった。相変わらずセシリアは仏頂面で

 ご機嫌斜めで、元に戻してくれそうにはない。まぁ、こっちが元の姿

 なんだけど。


  移動はバスと電車を使う。一週間以上こちらに滞在する予定だ。

 ホテルは既にミックが押さえて居てくれて資金は全てミック持ちだ。

 旅行に来たメンバーは俺、井岡、部長、セシリア、リザリー、ロザリア、

 それとアンネローゼ姫も着いてきた。


  護衛として、バルバトスとアストリアも一緒だ。別に護衛なんぞ

 いらん気もするが。正直姫様にもなると護衛の一つも付けないと出歩

 けないのだろう。ロザリアなんかは特例中の特例だ。


「それにしても、両氏は本当に中年だったんですね」

「まぁな」


  須藤氏と俺と井岡とアストリアで人数分の酒とツマミやドリンクを

 駅の売店で買い込む。ぶっちゃけ、適当だけどな。長時間の移動になる。

 新幹線に揺られて。


  最初、仏頂面で携帯ゲームをしていたセシリアもゲームを止め、

 ビールを飲み始めた。多分、新幹線に乗りながらゲームをすると気持ち

 悪くなるからだろう。俺も酔うので移動中は何もしない派だ。精々携帯

 でニュースをみたりまとめサイトを眺めたりする程度だ。


「いやー、ほんと同じ年代の人間がいて心強いですぞ!」

「セシリア様のお陰で若返っていたからつい年齢のことを忘れてしま

 ってるけどね」

「ふ・・・ふさふさは本当に素晴らしい物だった・・・」


  髪を失って、覇気のない部長の姿がそこにはあった。ハゲて哀愁が

 漂っている。


「いやーでもほんと、ハゲてない部長なんて違和感ありまくりっすよ」

「お前の幼女姿の方が数倍違和感あったが・・・」

「でも、可愛らしかったっしょ」


  行き先は日本らしいところということでまずは、古都京都巡りを

 する事となった。アンネローゼ姫はデジカメを持ち、興味津々に建築物

 を眺め、写真を撮っていた。我々となんら遜色ない。ぱっと見は外国人

 観光客にしか見えないだろう。


「不思議な物だな、我々が住んでいる世界では到底有り得ないことだ。

 最新技術をふんだんに使った建築物があると思えば、こうやって昔

 ながらの建造物が残っているなんて・・・非常に感慨深い物がある」


「アレルカンティアは逆に魔法があるから発展する必要がなかったもかも

 しれませんね」


「確かに、そうなのかもしれないな・・・」


  一通り観光地巡りが終わるとホテルへと直行する。ヒロはもう疲れて

 寝ていてた。幹生さんが幹事なのでヒロの面倒は井岡がみていた。

 怒られるかも知れないが、見た目的には幹生さんがおじいちゃんで、

 ヒロミちゃんと井岡が夫婦のようにも見える。


  夕食は豪華な懐石風の日本料理が出てきた。ホテルの観光客向けの

 アレンジ料理だ。厳密に言うと懐石料理とはまた違う。普段は食べれ

 ないようなご馳走が並んでいた。


  俺達日本人は割とすぐに手を付けたが、アレルカンティア出身の

 面々は見たこともない料理を口にするのは少し抵抗があったらしい。

 そりゃ当然だな。生ものとかが出てくるから。あっちは基本火を通さ

 ないと衛生面の関係で食べれない。


  衛生面がしっかりしているから生でも平気だと伝えると恐る恐る

 食べ始める。ただ、素材の味を生かすために薄味ではある。醤油を

 つけ刺身を食べるが、わさびはどうも苦手らしい。俺もあんまり好き

 ではないな。ちょっとだけ付ける。


  ホテルの大浴場につかり、旅の疲れを癒やす。屋敷の浴場とはまた

 違う趣がある。


「ほんと、日本に帰ってきたって感じがしますね」

「ちょくちょく行ってるじゃん」

「そら、買い物に行くのとこう言うのとでは違いますよ」


「まぁな、京都とか修学旅行で行って以来だぜ」

「最近の学生は京都じゃないらしいっすけどね」


「海外旅行とかだろ、世代の違いつーのを感じる。アストリアは

 どうだった?」


「はぁ・・・姫様が次から次へと男に声を掛けられるので気が気では

 ありませんでしたよ。追い払うのが大変でした」


「すまんな、こっちは先行っちゃってて」

「あなた方はもう何度も来ているようですし、仕方ありません」

「別に何度もってことはないけど、一回は来るもんだし」


「さすがに、歳が歳だ。結構堪えるな」

「まぁ、たまにはいいじゃないか。あっちじゃゴブリン退治か家にいる

 位しかすることが無いだろう?」


「未だにモンスターも多くて旅行って気分にはなれないっすよね」

「そうなんだよな・・・それにヒロと雪緒にはちゃんと日本を見せて

 あげたかったし、今回は海水浴も家族でしたい」


「社員旅行とかではとてもじゃないけどいけないっすよね」

「ところで、墓参りには行ってきたのか?」

「ああ、毎年行ってるよ」


「そうか・・・」


  須藤さんがアレルカンティアへやって来た理由。それはかつて、

 事故で愛妻と息子と娘を失っていたからだ。運良く自分だけが生き

 残ってしまった。まだ二人とも小さく悔やんでも悔やみきれなかった。


  だからだろう、ヒロと雪緒ちゃんにはちゃんと家族で過ごす時間を

 作ってあげたいのだそうな。何もしてやれなかったから。毎日毎日

 仕事に明け暮れて、あまり時間もとってあげられなくて。


  妻と子供を失ってからは再婚する気も起こらなかったようで、ひた

 すら仕事にのめり込んでいたらしい。そして、重役になったはいいものの

 ある日突然。虚しくなったのだそうな。


  そんなときにセシリアに誘われ、アレルカンティアにやってきて、

 ヒロミちゃんや井岡と出会ったのだという。もち、当時は二人とも

 男でやりたい盛りだったそうな。いたずらが過ぎて女にされてしまった

 のだが。


  寝間は大人数での雑魚寝だ。男女別にはなっていない。別々に部屋を

 とることも考えたらしいが、せっかくだから雑魚寝しようと言う話になった。


  俺の隣にはクレアとセシリアが陣取っていてその隣にリザリー、ロザリア

 アンネローゼ様はバルバトスとアストリアに挟まれる形だ。相変わらず、

 セシリアの機嫌はすこぶる悪い。


  ただ、気づいたらクレアとセシリアは俺の布団の中に潜り込んで

 寝息を立てていた。大人数で寝ているし、子供がいる手前妙なことも

 できないだろう。しょうがない、このまま寝るか・・・。


  明日は海水浴場だ。       

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