第12話 魔王と書いてバカと読む

「何じゃこりゃぁああああ―――――――――――――――――――!」


  少し甲高い絶叫がこだまする。セシリア邸内。ついに去勢されたか。

 絶叫の主は魔王と書いてバカと読む、元魔王グレゴリウスのものだ。


  もはやその声も女そのものである。俺はコーヒーをいれながら、

 やれやれだと思った。あいつはうちの女性陣に覗き、下着泥棒、レイプ

 未遂等をフルコンボで達成した。そしてセシリアによる女体化による

 去勢という制裁が発動したのだ。


  それの被害に遭ったのは奴だけでなくヒロミちゃんや井岡誠もでた

 らめをやったばかりに女体化刑に処せられてしまった。もっとも、

 この二名は女としての人生を楽しんでるので刑になったのかどうだか。


  あいつもそのうち馴染むことだろう。残念ながら。


「セシリアはどこだ――――――――――!」


  声の主がどたとだと足音を立てながらこちらに近づいてくる。俺も

 どこにいるかは知らん。篭もってるときは篭もってるんだが、出かける

 と全く足取りの掴めない神出鬼没さだ。


  どれどれどんな姿になっているのやらと奴が来た瞬間その姿を優雅に

 コーヒーを飲みながら視線を移すと、


「ぶ――――――――――――――――――――――――――――」


  吹いた、思いっきり吹いた。口に含んだコーヒーを全て吹いた。

 唖然とする俺。  


  何つー格好してるんだ! 俺はセシリア達のしでかした処罰方法に

 どん引きする。タオルタオル・・・。セシリアを少し舐めていたかも

 しれない。あいつは相当頭が逝っている女だ。ミレイア様ならブレーキ

 を踏むだろう。しかしあいつはアクセル全開だ。


  グレゴリウスはオープンクロッチでかつ透過している上下下着を

 着せられている上に透過しているシースルーのネグリジェを着せら

 れていた。あんなん大事なところが丸見えじゃねーか!


  確かに、フルヌードより扇情はされるかもしれんが、少しやりすぎ

 だろう。あの女やっていいことと悪いことの判別もつかんのか・・・。


  ただ、グレゴリウスのやったことを考えればこれでもまだ生ぬるい

 のかもしれないが・・・。いやこれはないわ!


「おい! 悟、セシリアを見なかったか?」

「あ・・・いや・・・」

「笑いたきゃ、笑えよ!」


  笑う以上にどん引きするわ!


「あのバカ、何やってんだ」

「くっそー、あいつーこんな格好にしやがってー」

「取りあえず、何か羽織ったらどうだ?」


「!」


  ダメだこいつ! 早く何とかしないと! こいつも相当なバカだ。

 怒りの余りに、服を羽織る事すら頭になかったらしい。ただ、なぜか

 そこを動かず、ずっとこちらを見続けている。主に股間辺りを。


「お前、俺のこんな姿見ても無反応とか枯れてんな~」

「どんびきしてそれどころじゃねぇよ!」

「ふ~ん」


「触ってみる?」

「いらない」


「はーつまんねー奴」


  そう言って自室に戻っていった。


「ただいま~」


  その後少し遅れて、アリシアの声が玄関から聞こえてくる。三人で

 大量に荷物を抱えて。


「お前、何やってんの?」

「うん? ちょっとお買い物~」


「見りゃ分かるよ、グレゴリウスの事だよ」

「万死に値するわ」

「当然」


  とりつく島もねぇ! 被害に遭ったお嬢様方の反応は厳しい。


「でもさ、あれはねーだろ」

「ああ~あれね! ぷっ!」


「あーやっと戻ってきた! どういうことだてめぇ!」

「あら、可愛いじゃない。グレ美ちゃん♪」

「誰が、グレ美だ!」


  はぁ・・・とため息をつくグレゴリウス。


「私の本当の名前はクレアだ」


  唐突なカミングアウトに一同が驚愕する。


「!!」


「あ――――――――――――畜生、思い出したくないことも思い出させ

 やがって。それにこの顔、私のオリジナルの顔と姿じゃない。勝手に

 作ったろ。元の私はもっと美人だった」


「ふ~ん、言うじゃない。ならそのオリジナルの姿形って奴を再現して

 やろうじゃないの」


  そう言ってセシリアはおもむろにクレア(グレゴリウス)の体に触れ

 奇跡を発動させオリジナルと思われる姿形を読み取り変化させる。


  真っ赤な髪に少し巻いた癖毛、緑色の瞳。少女のあどけなさが残り

 つつも整った顔。ややつり上がった瞳。それは女神ではなく妖精を連

 想させるうな美しさだった。


  つい、見とれてしまった。俺の好みドストライクだったからだ。


「ふ~ん、悪くないわね」

「正直ろくな思い出がないから、ミレイアに頼んで男に変えて貰ったんだ。

 悟はこう言うのが好みなんだ? 視線がが釘付けになってる」


  事もあろうにクレアは羽織っていた服を脱ぎ捨てネグリジェ姿に

 なった。まずい・・・おっきしちゃう! おっきしちゃうううううう!


  彼女は妖艶に微笑みかけ、テーブルに腰掛け片膝を立てる。すると

 彼女の大事なところが丸見えになる。目をそらそうとすると両手で俺の

 顔を押さえつける。

 

  俺は目を閉じ抵抗するが、立ててない方の足で俺の股間をぐりぐり

 し始めた。らめぇ! そこはらめぇ!


「ははっ、おっきくなってるじゃん」

「おい! バカ! やめろ!」


「私さ・・・この姿の頃はずっとこういうことばっかしてた」


  俺は、その言葉にはっと息をのむ。つまりは・・・売春してたと

 そう言うことか・・・。だからか・・・。


「あらら、小さくなっちゃった」

「やめれ!」


「父親はどうしようもない奴で、年中ろくに仕事もせずに酒ばっかり

 飲んでいたよ。」

「そうこうしているうちにミレイアに会ったと」


「ああ、こんな私にミレイアだけは優しかった・・・だから憧れてたし

 好きだった」


「だけど受け入れて貰えなかったと」

「メサイアの爺さんに魔王を倒した報酬として、ミレイアと一緒に居たい

 って頼んだんだ」


「そしたら断られたと」

「んで、気づいたら剣を抜いていた」


「ああ・・・お父様は・・・ミレイアを愛人にしてたがってたから・・・」

「おい! お前今とんでもないこといいよったな!」


  メサイアって人は出来た人かと思ったが前言撤回。とんでもねー

 親馬鹿じゃねぇか! だからか! その娘がこうなのは!


「その、メサイアって爺さんをどうこうするなら、俺も手伝うぜ。

 監督責任を問い詰めてやる!」


  主にセシリアの!


「それはそれは聞き捨てならない言葉ですね」

「ミレイア!」


  おおう、ミレイア様の定期巡回きたー! 定期的にこうやって

 邸宅に来て、毎回チクチク冒険に行きなさいと言っては帰る。


「確かに、その親子には私も散々頭を悩まされ続けては居ますが・・・」


  そうだよな!


「メサイア様は慈悲深きお方ですし、セシリアは仮にも大切な親友。私

 としては事を荒立てて欲しくないの」

「ミレイア、どうして受け入れてくれない。私はお前が」


「幾ら見ても、私とあなたは繋がらない。そう言う運命なのです。かならず

 メサイア様に止められてしまう」

「そんな!」


「しかし、同時に私はあなたが幸せそうに暮らす未来も存在していました」   


  おい! まさか! やめろ! それは言ってはいけない! これ以上

 バカを押しつけるな!


「あなたの運命の人は今、目の前に居るのです」

「嘘だ・・・こいつが? まさか・・・」


「いいえ、断固拒否します!」


  俺の拒否の言葉に一瞬空気が止まる。


「それでも、あなたは彼女を受け入れるでしょう」


  拒否権は発動しなかった! いやあああああ! うっそだろ! 


「これが、私の運命の人・・・」

「ええ、あなたを幸せに導いてくれる人です。絶対に手を離してはなり

 ませんよ」


  お前、地雷女を置いていくんじゃねぇ! ちょ! まてお!


「私にも彼女が魔王となり、地上世界を恐怖のどん底に陥れる未来が

 見えていました。それでも、私は、彼女に幸せを掴んで欲しかった。

 どれだけの人々が苦しもうとも。私は・・・酷い女です」


  元を辿ればメサイアの爺さんもどうかしてるんだけど! 魔王になら

 ないルートを構築して欲しかったんですが!


「ミレイア・・・あんたって人は・・・」

「クレア、あなたは私にとって娘のようなものです・・・だから幸せに

 なって欲しい。常にそう言うおもいで接してきました」


  それで魔王が暴れてたら世話無いわ! 誰も納得してくれへんで!


「うう・・・ミレイア・・・私幸せになるよ・・・」

「ええ・・・悟さん・・・彼女の事をお願いします」


「それ持って帰ってくれね?」

「ダメです」


「俺さ、井岡とか、セシリアとか、リザリーとかロザリアとかとにかく

 面倒見ないといけない女の子いっぱいいるんだよ。こいつは手に余るわ」

「悟さんなら大丈夫ですよ」


  こいつ・・・絶対に押しつけて逃げるつもりだな!


「そう・・・私なんか・・・ダメだよね・・・」


  そう、ぽつりと呟いたあと、クレアは台所に向かい包丁を自分の首に

 先端を向ける。おい! バカ! 止めろ!


「おおおおおお、落ち着け! 馬鹿な真似は止めろ!」

「もういい・・・散々みんなに迷惑掛けたし、生きている資格ないよね」


  おいおい!オラつきキャラからヤンデレにクラスチェンシしてんぞ

 こいつ!


「一緒に死の?」

「いえ、まだ死ぬ気はさらさらないんで!」


「私のこと嫌い?」

「まだ、付き合い浅いしそう言うのないんだけど!」


「好きって言ってくれないなら死ぬわ、いえ、あなたを殺して私も死ぬ!」


  おい! ミレイアがいつの間にかいねぇ! それにお前らぼさっと

 みてないで助けろよ!


「あああああ、あのクレアさん、悟さんは女好きだからきっとあなたの

 こと好きになってくれるわ! ねぇ! 悟さん!」

「誰が女好きだ、てめぇ、殺すぞ! じゃなくて。なぁクレアさん。

 一旦包丁を置いてくれないか? 話し合おうじゃ無いか!」 


「私のこと好き?」

「うん。好き」


「愛してる?」

「あああ、あいしてますとも!」

「嬉しい♪」


  そう言って俺に抱きつくクレア。しかしながら手に持っている包丁が

 怖いんで、一旦それ置いてくれませんかねぇ!


  魔王が実は女でヤンデレでしたなんて意味が分からない事

 になっていた。魔王の時より恐怖を感じるのは気のせいか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る