第11話 魔王グレゴリウス

「ゴブリンどもにいい女は勿体ないのでな。今年はロザリア姫が来ると

 言うので待っていたのだが・・・」


  ゴブリンキングの死体に侮蔑の視線を送る魔王グレゴリウス。


「どこまで行っても雑魚は雑魚という事か・・・」


  こんな時に魔王がやって来るなんて・・・『女神の聖域』の更に上

 位の能力を発動して貰うべきか? いや、しかしそれはあまりにも

 失う物が大きすぎる。さすがに、経験値全ロストは躊躇する。


  魔王との睨み合いが続く。こいつと戦うにはまだ準備が整っていない

 時期的に早すぎる。それは他の冒険者としても同じだろう。


「アンネローゼはいい女だった。しかしもう精神は壊れて単なるダッチ

 ワイフと化した。人形を抱いてもつまらんのだ」

「貴様ぁぁああああ――――――――――――――――――――――」


  激高するロザリア姫、今にも魔王に襲い掛かりそうな雰囲気だ。


「アストリア! 姫様を押さえておいてくれ!」

「姫様、挑発に乗ってはなりません! 今は何としてでも生き延びる事

 が優先です。これ以上犠牲を増やす訳には!」


「貴様が新しく召喚された勇者か・・・」


  一発で俺を勇者だと見抜いた魔王。事前情報は何も無かったはずだ。


「なぜ分かるかと言いたげの表情だな。分かるさ。なぜならば、俺が

 以前ここの魔王を倒した勇者だからだ」


  動揺する冒険者一同。かつての英雄の堕落。それは我々に衝撃を

 与えるのには充分な事実だった。


「会いたかったぞ、女神ミレイア、お前がいないからわざわざエルフォリア

 へと向かったというのに・・・」

「グレゴリウス・・・もはや会話は無意味なようですね。あの優しく

 強かったあなたはもういない」


「お前がこちらに来てくれるなら優しくしてやるぞ?」

「それはありえません、あなたがメサイア様に刃を向けた時点で」

「あの小うるさい爺のことか!? いずれ奴もこの俺が始末してくれる」


  女神ミレイアとグレゴリウスの間で何があったのかは不明だが、

 ここはまず生き延びる事を考えないと。


「悟さん、あなた方はお逃げなさい。ここは私が何とかします」

「どうするつもりだ?」

「エルフォリアから勇者を召喚します。さぁ、お行きなさい」


  そう言って、異世界ゲートを発現させる女神ミレイア。他の冒険者

 は何が何だか訳が分からないと言う表情だ。説明している暇は無い。

 ゲートからフル装備の女勇者が現れる。


「ミレイア、非常事態のようね」

「あなたを召喚するのは心苦しいのですが・・・」

「構わない、あいつは私の大切な友人を殺した男!」


「お前はエルフォリアの勇者か、ミレイアさえ手に入れば貴様などには

 用はない」

「そういうわけにはいかないわ、よくもゴンザレスを!」


「あの気持ち悪いオカマ戦士のことか・・・」

「それでも私の大切な仲間だった・・・」

「いいだろう、少し遊んでやる」


「悟さん、いきなさい。それにそろそろセシリアの『女神の聖域』も限

 界でしょう」

「分かった、みんなここは彼女達に任せて後退だ!」


  まだ、魔王と戦うには経験も力も装備も不足している。今の俺達では

 足手まといになるだけだ。俺達は言われたとおり撤退する。


「いいのか? 彼女達に任せて?」

「ミレイアもまた女神の一人だ。何とかしてくれるだろう」


  例え何とかならないとしても俺はそう言う他なかった。それにみんな

 ゴブリンキングとの戦いで死力を尽くしてそれどころではないはずだ。

 一様に目的は達成した。


  しかし、逆にこうも思う。チャンスだと。


「なぁ・・・魔王がのこのこ一人で、こんなところにやってきた。

 絶好の機会だとは思わないか?」

「いや・・・だからといって経験値全ロストは我々としても失う物が

 大きい」


「ほう・・・私とやろうというのか?せっかく拾った命が無駄になる

 かもしれんぞ?」


  魔王との睨み合いが続く。


「エルフォリアの勇者様ってのがいて、『女神の聖域』と『勝利の雄叫び』

 が現在進行形で発動中だ。そしてゴブリンキングを倒すために選りす

 ぐられた精鋭が数多く居る」

「そりゃ先輩はまだレベル3ですし、失う物は少ないでしょーよ」


「なるほど・・・レベル1になるのと引き換えに魔王を倒すことができ

 たなら大金星という事か・・・」

「考えてみろ、俺達英雄になれるぞ?」  


  頷く一同。


『セシリア聞こえているか?更に上位の奇跡ってのを頼む』

『そう・・・覚悟は出来たのね』

『魔王が一人でこんなところに居やがった、こんな機会滅多に無い』


「おねぇ様・・・ご武運を・・・」

「それならば、我々も向かう」


「そうしてあげて、今から発動する『神秘の世界』は多分ここにいる

 全員問答無用で巻き込むから」

「・・・・・・」


「者ども! 私に続けええ!!!!」

『おおおおおおおおお!』


  やけくそである。


  リリア姫の護衛を数名残してバルバトス将軍と兵士達は洞穴へと

 突入する。


「もう、後には引けないな」

「悟さん・・・それならば私も力をお貸ししましょう」


『アンチディメンションフィールド』

『マスリザレクション』


  死んだとされる第一陣と二陣の面子が蘇り、集結する。


「一体何が・・・」

「テセウス!」

「姫様!」


「これで魔王グレゴリウスはテレポートで逃げることも出来ません。

 召喚魔法の行使も完全に封じました」


「ミレイア・・・貴様・・・そこまで私のことを嫌うか!」

「嫌ってはおりません。ただ、心変わりしたあなたが悲しいだけなのです」


「貴様ら! 後で後悔させてやる!」

「後悔なら死ぬほどしたさ、どうしてあのときもっと真剣にやらなかった

 かって! 何度も何度も! 今度こそは後悔したくない! その為に

 俺は戦う!」


『勇敢なる勇者達に捧げましょう! この『神秘の世界』を!』


  セシリアによるチート中のチートが発動する。勝てないかもしれない

 それでも俺は選ばれた勇者だ! 負けるわけにはいかない!



「ごべんなざい・・・もう魔王辞めます・・・許して下さい」


  当然、数が数だけにフルボッコである。殺すのだけは止めて欲しい

 との懇願に俺達も剣を収めたが。女神ミレイアに感謝するんだな! 



  かくして魔王は討伐されこの世界にも平和が・・・・・・・・・・

 訪れるわけがなかった。

 

  統率を失った魔王軍は相変わらず、好き放題に暴れているのである。


  そして俺達は振り出し(レベル1)に戻る。当然そこにいた兵士、

 異世界の女勇者、将軍達、もろともである。


「勇者悟よ、いつまでもゴロゴロしていないでレベル上げに行くぞ!」

「それより、なんでこれが家にいんの」


「仕方が無いだろう、元魔王を置いておける場所が思いつかない。それ

 なら、セシリア様やミレイア様の目が届く範囲内に置いて置いた方が

 いいだろう」


  居候が増えた。元勇者で元魔王のグレゴリウスだ。それと女勇者の

 リザリー、ローラン王国の姫ロザリアが勝手に住み着いてしまった。

 レベル1になった責任をとれと。


「人をコレ呼ばわりすんな」

「ほう、俺とやりあおうってのか?」

「止めなさい!」


「ケッ」×2


  相変わらず、狩りの相手はゴブリン族だ。しかし、俺達の顔をみる

 と一目散に逃げていく。そりゃそうだ、元魔王とゴブリン族を虐殺

 しまくった俺達がいるのだ。


  とにかく逃がさないように毎日毎日追い回す日々が続く。  


「女神セシリアの加護により、ゴブリンキングを倒した勇者達。しかし

 その後とんでもない試練が待ち受けていた! 魔王が現れたのだ! 

 しかし勇者さとるは怯まない。逆にチャンスだと言い出した。

 

 そして覚悟を決め魔王に挑む勇士達。そんな彼らに魔王はこう言い放った

『後悔しても知らんぞ!』ってね。しかし勇者も負けていない。


『後悔なら死ぬほどしてきたさ、どうしてもっとあのとき真剣にやらなかった

 かって! 何度も! 何度も! 今度は後悔したくない! その為に戦う! 

 我らに勝利を! 』 


 こうして長い激闘が続き、我らが勇者が魔王を打ち倒したのだ!」


「お――――――――――――――――――――――――――――!」


  俺の英雄譚で盛り上がるギルドの酒場。

 

  はずかしいからやめて!

 

  死にたい! 

  

  と言うか、お前らレベル1にされた意趣返しだろ! 俺、何で

 あんな厨二臭い事言っちゃったんだろう。黒歴史過ぎる!


「いいではありませんか。そう言った英雄譚もまた我々にとっては数

 少ない娯楽なのです」


  今アスティアのギルド兼酒場は賑わっている。と言うのもあの駄女神

 の行使した奇跡で大多数の兵士や冒険者が巻き沿いを食らいレベル1に

 なってしまった。


  だから、またアスティアからスタートしてレベル上げに勤しんでいる

 のだ。魔王さえ倒せば平和が訪れると考えていた俺は浅はかだったと

 言える。結局残ってる奴が暴れるだけでしたー。


  「どうして俺まで巻き添えで1に・・・」


  文句を垂れながら酒を煽るグレゴリウス。知らんよ。何でだか!

 元々ミレイアはここでも崇め立てられている女神だ。ミレイア像が

 存在するところもある。


  ただ、グレゴリウスの不始末で担当を外されセシリアが代わりに

 やってきたと言うわけだ。しかし、セシリアが結局の所成果をあげ

 ることができず、またミレイアが派遣されてきた。


「悟さん、あのときとても頼もしかったですよ」


  どうやらこのリザリーとか言う小娘は俺に惚れているらしい。

 そうでなければとっくにエルフォリアに帰っているはずだ。


  魔王城討伐隊が組まれ、アンネローゼ第二王女を救出する事が

 できた。しかし、グレゴリウスの度重なる陵辱により精神に支障

 をきたしていた。やった当の本人は知らん顔してるが。


  それでも、かつてはこの世界を救った勇者だった。そんな中、人

 間の嫌な部分を見せつけられ、当時本気で惚れていたミレイアにも

 拒絶されやけになり魔王と化した。良い意味でも悪い意味でもバカだ。

 こいつは。


  それにこんなバカな魔王は前代未聞だ。一人でのこのこ自身満々で

 やってきたにも関わらず逆に返り討ちに。さらにごめんなさいと言わ

 されるとか。プ――――――――――――!


 そんなこんなでまだまだ俺達の冒険は終わりそうに無い。

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