第10話 ゴリアード洞穴の死闘

  なし崩し的にゴブリンキング討伐戦に参加する事となってしまった

 俺達。井岡も露骨に嫌な顔をするが部長に言われると逆らえない。

 未だ会社員時代にやらかしをして烈火のごとく説教をされた事を細胞

 に刻み込まれているのだ。自分がそれだけいい加減だったと言えばそれ

 までなのだが。


  要するに、部長を怒らせると怖いので言う事を聞いておいた方が物

 事穏便に済むという、社会で生きていく為の知恵だ。卑屈だと言われ

 ようが強者に逆らうことなどできないのである。


  とは言うものの討伐隊の第一陣二陣が打ち漏らし外へ逃げ出してき

 たゴブリンを倒す簡単なお仕事。命からがら逃げてきたゴブリンをい

 きなりバッサリ。悪く思うな、これも経験値のためだ。それにお前ら

 のしてることは到底許せないし、相容れるわけが無い。


  そして第三陣が洞穴内に侵入した時点で異変が起きる。


『まずい、洞穴内で土砂崩れがあった。一陣と二陣の姫様が危険だ!』


  先発隊と後続部隊が完全に分断されてしまったようだ。大丈夫なのか?


『姫様、危険ですテレポートでお戻り下さい』

『大丈夫だ、それに第一陣にはテセウスが参加している、いざという時は

 奴が何とかしてくれる』


  バルバトス老将軍の意見も聞かず奥に進もうとするロザリア姫。

 テセウスと言うのはローラン王国きっての英雄で、第二王子ゲルハル

 ト王子の親友だ。常に先陣を切って幾多のモンスターを切り倒してき

 た。前回は不参加だったが、今回はゲルハルト殿下の肝いりで参加

 することとなった。

 

  軍を総括するゲルハルト殿下にとっても二度の失敗は許されないとの

 思いだろう。


『どうだ? アレキウスどこか進めそうに無いか』

『完全に分断されているようで。姫様側の出口は恐らく奥に進んだ先かと』

『馬鹿な! 奥に進んだところであそこは崖だぞ!』 


  侵入するに当たって崖側は大人数で入り込めるような場所では無

 かった。だから森林地帯があるこちら側から侵入しているのだ。


  バルバトス将軍は気が気ではないだろう。例えゴブリンキング討伐に

 成功したとして、土砂崩れがあった箇所を除けば出口は崖側しかないの

 である。現状出ることも、入ることも困難を極める。


『せめて高位のアークウィザードがいれば』


「そういや何でアークウィザードがいないんだ?」

「狭いところで戦うのに適してないからっす。それにゴブリンはどこから

 襲ってくるか分からないし、守るのも難しいので。それで弓兵やウィザード

 は連れて行かなかったんでしょ。プリーストは命綱なので必要ですが」


  リスクを軽減するために連れて行かなかった訳か。そして今土砂崩れ

 を何とかするためにアークウィザードが必要とされている。


「自分じゃ無理っすよ。土砂崩れした箇所を吹っ飛ばすなら『ライトニ

 ングブラスト』が必要ですし、さらに崩れないようにその場の補強

 には『アースシールド』や『フリージングコフィン』が必要っす。

 両方共レベル99近いアークウィザードじゃないと使えません」


「てことは・・・おい・・・」

「相当危険な状況っすね。諦めてとっととテレポートで逃げ帰ってくれば

 いいものを・・・」


「将軍、何とかできないものなのですか?」

「リリア様。もはやどうすることもできません・・・土砂崩れがあった

 時点で逃げて頂ければ御身の安全は保証されたものを・・・」

      

『おねぇ様、もうおやめ下さい。このままではおねぇ様も危険です』

『どうやら・・・もう遅いらしい。魔道士のウェスカーがやられテレ

 ポートもできない。それに・・・第一陣は全滅したようだ』


  衝撃の発言に一同が戦慄する。現在ロザリア姫はテレポートで

 逃げる事もままならない上、ローラン王国一の英雄テセウスまでもが

 殺されたのだ。


「いやぁあああぁぁ――――――――――――おねぇ様!」


  冷たく行ってしまえば完全な姫様の判断ミスだ。そして、多くの冒

 険者や兵士を巻き込んでしまった。俺は己の無力さが歯がゆかった。


「皆様ここにおりましたか・・・」

「お前は占い師のサリアか・・・一体何のようだ」


  どこか投げやりに言い放つバルバトス。


「ゴリアード洞穴の奥に何かとてつもなく邪悪な存在を感知しました」

「ゴブリンキングではなくてか?」


『残念だが、そのゴブリンキングは今目の前に居る交戦中だ。この人数で

 どれだけ持ちこたえられるか・・・』

『姫様! お気を確かに! 今助けに参りますぞ!』


『もういい・・・どの道無理だ・・・。お前の忠告も聞かず突っ走った

 私の失態だ・・・バルバトス将軍。リリアのことは頼んだぞ・・・』


「何という事だ! ゴブリンキングがあんなところまで上がってきている

 とは、更に奥に別の何者かがいると!」


(セシリア、よくお聞きなさい。メサイア様から制限解除のお許しを頂

 きました。女神の聖域を発動させなさい)


「火急の事態なのは飲み込めました、今から私が女神の力『女神の聖域』

 を発動させます。それで多少は持ちこたえられるでしょう」

「おお・・・セシリア様」


「この奇跡は一時的に全員のレベルを99まで引き上げ尚且つ強力な

 ステータスブーストを付与します」

「一応、聞いておくがどんな副作用があるんだ?」


「発動時間は余り長くないわ、私の力が続く限りだから。それと被術者は

 レベル1つ分の経験値が飛びます」


  おい! それって今日俺達がやってきたこと全部無駄になるって事

 じゃん! くっそー! 選択の余地なしかよ!


「更にもう一つ秘奥義中の秘奥義があって、それは『女神の聖域』の

 上位バージョンで被術者は今まで得た経験値を全てロストします」


  さすがに、辺りの兵士や冒険者も凍りつく。さすがにそれを使う

 のだけはお止め頂きたい!  


「セシリア様、時間がありません」

「それでは、祈りなさい! 『女神の聖域』! 発動!」


  一瞬で神々しい力が辺りを優しく包む。一気に俺もレベル99に到達

 する。


「おお! これが女神の聖域」


『姫様! 聞こえておりますか! ただいまセシリア様が力を発動され

 ました』  

『ああ、届いている。有り難い。しばらくは何とか持ちこたえられそうだ』


「ふむ、私はクラスチェンジが可能なようだ」


  部長は固有職『キング』にクラスチェンジした!


「おお! 王の資格があるものにしか成れないという『キング』ですか!

 桂山殿! やはりあなたはただ者では無い!」


   バルバトス将軍は驚嘆する。そしてすぐ洞穴へ向かおうとする俺達を

 呼び止めた。


「お待ちなさい。二人とも、そんななまくらではゴブリンキングは倒す

 ことはできません。どうかこれを。片方は私が予備に使っていた剣

 『プラチナソード』です。もう片方は姫様ご愛用の剣『カラドボルグ』」


  部長がプラチナブレードを俺がカラドボルグを手に取る。


「済まない」

「頼みますぞ、息子のアストリアも一緒に向かわせます」


(悟さん、勇者のスキルに『勝利の雄叫び』と言うスキルがあります。

 それは『女神の聖域』と同様に複数の味方に対して能力を高める効果が

 あり、聖域と効果を重ねることが可能です)


「行くぞ! 我らに勝利を!」


  剣を抜き掲げ俺はスキル『勝利の雄叫び』発動させた。


「力が漲ってくる!」

「これならいけそうだ!」


「私も行きましょう」

「大丈夫なのか?」

「今セシリア様は『女神の聖域』を発動させて居るお陰で身動きがとれ

 ません。彼女の代わりに占い師の私がヒーラーをしましょう」


「すまん、助かるよ」   

「急ごう」


  四、五、六陣の面子+αで洞穴へと突入する俺達、途中何体かのゴ

 ブリンと遭遇したが一瞬で薙ぎ倒す。はぁ・・・この強さも今だけか。

 せつねぇなぁ・・・。


  三陣の面子が留まる崖崩れの前にやってきた。それを井岡の『ライ

 トニングブラスト』で瞬時に破壊し、『アースシールド』で辺りを固

 定。安全を確保する。


『姫様! ロザリア姫様はまだ生きているか!』

『ああ、残念ながら私はまだ健在だ。しかし他のみんなが・・・』


  初の大規模戦闘で大量の死人を目にする事になるとは、やるせない。


『土砂崩れがあった場所はもう開いた、こちらに逃げてこい』

『しかし、みんなの遺体が・・・』

『気持ちは分かるが君の命が優先だ! 早く!』


『分かった。すぐ向かう』

『ああ、こちらも今向かっている!』

  

  俺達はtellイヤリングと言う魔法具で連絡を取り合っている。

 バルバトス将軍から受け取った物だ。これがあれば遠く離れた連中

 とも連絡を取り合えるという寸法だ。


「見つけた! ボロボロじゃないか! 大丈夫か!」


  すぐサリアにロザリアの治療をさせる。


「すまない・・・」


  少し遅れてゴブリンキングが現れる。金で出来た王冠にも仮面にも

 思えるような兜のようなものを被っている。そして、なによりもでかい。

 他のゴブリンの数倍はある。


「こいつが、ゴブリンキング・・・」


  現状、第3隊~6隊の半数以上の戦力が集結している。井岡が『ラ

 イトニングブラスト』を放った時点で戦闘の火蓋が切って落とされた。

 

  キングとなった部長がゴブリンキングの攻撃をスキルで惹きつける。

 防御系スキルを発動させ、奴の攻撃を一身に受け止めながらいなす。

 さすがに部長の顔にも焦りが見える。


  タンク職業は部長以外にも複数人いるが固有職のキングはその中でも

 最強の職業だ。だから装備を借り、部長がメインタンクを他がサブタンク

 の役割を担っている。


  タンクがゴブリンキングの攻撃を受け続けている間はアタッカー陣

 の出番だ。必殺スキルを次々と叩き込む。幾らゴブリンキングが強い

 とはいえ、『女神の聖域』と『勝利の雄叫び』の二重掛けは強力だった。


  ゴブリンキングを圧倒していた。次々と切り刻まれていくゴブリン

 キングの体。次第に腕を、足をやられどんどん動きが鈍くなっていく。

 それでもこちらの攻撃は止まることがない。


  巨大な斧を振り回し、誰と構わず襲い掛かるが寸出の所で躱し、

 剣で切りつける冒険者達。伊達に死線をくぐってきたわけでは無い。

 俺は一瞬の隙を狙い、ゴブリンキングの首をたたき落とした。


  鮮血が吹き出し、その黄金の兜の中から醜悪な顔が飛び出す。一瞬

 たじろいだが、すぐに気を取り直す。俺達はゴブリンキングの討伐に

 成功したのだ。


「まだ、終わりではありません。どうやら来たようです」


  信じられない事に、人間が奥からゆっくり歩いて来たのだ。しかし、

 彼からは友好的な雰囲気を微塵も感じさせないほど殺気と禍々しさで

 満ちていた。


「ようこそ皆様。お初にお目に掛かる。私の名は魔王グレゴリウス」

  

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