第3話 異世界へGo
最近俺の退社時刻が早まったお陰で変な噂が社内で広まった。
MMORPGにはまっていた時代は割と早く帰っていた。だから退社
時刻が早くなることは何ら珍しいことでは無かったはずなのだが。
私め、峰山悟にどうやら女性の影が見え隠れしているとの噂だ。
噂元は後輩社員で既婚子持ちの38歳の女子社員やその他おばはん一同。
確かに今、ラピスと同居中で主婦のごとく朝晩の食事の用意や、
お弁当を用意してくれている。昔自分で弁当箱におかずやらご飯を
詰めて持ってきてはいたが、面倒になってやめた経緯がある。
今日もラピスの手作り弁当を持参して来ていた。こう言うのをめざ
とく見られていたのかもしれないな。別に俺に彼女ができようができ
まいが関係無いじゃん、と思いつつも女性はこう言うのが好きらしい。
それに、ラピスには俺をアレルカンティアに連れて行くという下心
有りきなのだ。無償奉仕というわけでは無い。正直な話、本気で追い出
そうと思えば追い出せたのだ。だけど俺にはできなかった。
今日も頑張って仕事を終わらせ、早々に退社しようとしたとき、部長
に声を掛けられた。
「最近、張り切ってるようじゃないか。うん、私は信じていたよ!」
何を信じていたのだか・・・。嫌な予感がする。早く話を切り上げて
帰ろう。
「最近女子社員の中で噂になっているんだが・・・。どうやら峰山君に
交際相手ができたとかできてないとか・・・」
「いや、そんなんじゃないっす。帰ります! お疲れ様でした!」
俺は猛ダッシュでその場から逃げ出した。外国人美女が家に寝泊まり
しているなんてバレたら何をされるか分からない。離婚が成立したばかり
の部長には特に知られたくはない。
そんなことも知ってか知らでか、タイミングの悪いことにラピスが
ビル前で待っていた。うちの会社の人間に見られたらどーすんだっての!
「あー待ってたんだよ~。アパートにいても退屈だし、その辺を歩き
回ってたんだ~」
「お前、わざとやってね?」
「別に良いじゃない。どうせ異世界に行くんだから♪」
「はぁ・・・もういいや、帰ろう・・・」
「うん、帰りましょ♪」
まさか・・・まさかだとは思うが・・・部長に見られてないだろうな。
俺は恐る恐る我が社が存在するビルの窓を見るとそこに輝く物体Xが・・・。
「ひぃぃぃいいいいいいいい」
「どうしたの?」
まずい、どうしよう! あれは部長だ。部長に見られていた!
さすがにいい歳扱いたおっさんが部下に嫌がらせとかしないよね!?
ないよね!
翌日、本日中に終わるわけが無い書類の山が俺の机に上に山積して
いた。犯人は分かる。部長だ。
「峰山、昨日若い女の子と歩いていたな。女と乳繰り合ってる暇があったら
私を助けてくれ。まじで。このままだと死んぢゃう。職場で」
俺はやむえず、他の後輩社員へ視線を移すが全員無視! いや、
分かってたけど! 確かに部長の次に社歴長いけどさ! ちょっと
位手伝おうって気はないのかよ!
触らぬ神にたたりなしと言う奴か。俺のとばっちりはごめんだと
ばかりに何事も無かったかのような態度だ。井岡の奴さえいれば全部
とは行かなくても半分かもしくは1/3は押しつけれたのに!
俺と部長以外が帰った後、俺はラピスに謝罪の電話を入れる羽目に
なった。どうやら終電間際まで働くことになりそうだと。
「最近、彼女ができて潤いができたみたいじゃないか。峰山がやる気を
出してくれて、私は嬉しいよ」
有無を言わさずに俺に仕事押しつけたんじゃねぇかこのハゲ!
くっそー! こんなブラック辞めてやる! 等と思ったものの、
肉体労働はもはや無理で、なおかつまっとうなスキルも無い、40歳
の俺を雇ってくれる会社なんて存在するわけが無い。
泣き寝入りするしかなかったのである。社歴も無駄に長くなって
しまったから余計に愛着も湧く。俺は殺意を抱きながらも終電間近迄
働き続けるしかなかった・・・。
部長に押しつけられた書類の山のお陰で精も根も尽き果てた俺。
終電に揺られながら、帰路につく。
「おそーい! いつまで仕事やってたの~!」
お前のせいだと言ってやりたいが、結局社内の誰かがやらなければ
いけなかった事だ。事実部長を無理させすぎていたのは俺にも責任は
ある。ただ、俺一人に押しつけるんじゃねぇとも思ったが。八つ当たり
も込みなので更に怒りはこみあげるが、飲み込む。ハゲる。このまま
では部長のように頭頂部が禿げ上がってしまう。
「伊達にブラック社員やってねぇよ・・・へっ」
「なにやさぐれてんのよ~」
いや、こんな言い方は悪いな。せっかく俺のことを待ってくれてた
んだ。謝罪の言葉を紡ぎかけたとき、とある物体が視界に入る。
「ゲームやってたんかい!」
「えへへ~やってみると案外楽しいものね~」
訂正、こいつはこいつでこっちの世界を満喫してるようだ。一々
謝る必要もなさげ!
「それより、ご飯、どうするの? お風呂も沸いてるよ」
「すまん、食べる。ありがとう」
「えへへ~どういたしまして。すぐ温め直すね」
本当に、無邪気に笑いやがる。俺の気持ちなんて知らないで。
「なぁ、どうして俺じゃ無きゃダメなんだ?一億人に一人って事は、地球
上には、あと数十人候補は存在してるはずだろ?」
「数十人居るって言っても案外条件が揃わないものなのよ」
「例えば?」
「もう、家庭を持って生活していたり、こちらの生活を満喫していて
異世界に行きましょうなんて言い出せないような。リア充って言うの?
候補者の殆どがそんな感じよ。それにみんながみんな日本人のように
恵まれた環境で生活できてる訳じゃ無いしね~」
「40歳社畜。絶望に塗れてもう死にたいとか思ってる俺はうってつけ
ってことか・・・」
「簡単に言うとそうね」
嫌なことはっきり言うなぁ! 相変わらずこいつはもう!
「なぁ、でもお前いつまでもこんな生活続けててもいいのか?」
「よくはないけど、来て貰う為だものこれくらい何でも無いわ」
やっぱ行かないわって言って、追い払うのは良心が痛むな。
そう言った弱みを握って俺を是が非でも連れて行こうって魂胆か。
ただまぁ・・・すぐにでも日本から逃げ出したい気持ちは在り在り
なんですけど!
「そもそもさ、こんなおっさん連れて行って大丈夫なのか?」
「平気よ~女神様の力で若返らせちゃうから~。何なら死んだっていいの」
「死んだっていいって、それは・・・」
「もし、今世をここで過ごしたいって言うのならここで過ごせば良いわ、
あなた自身の了承が取れさえすれば、死後、魂になってから連れて
行くのでも構わない」
「てことはなんですかい? 俺が爺になってぽっくりいくまで看取って
くれるってことか?」
「お望みならば」
「例えば、お前との子供が欲しい、まぁ、別に誰とでもいいんだけどさ
子供が欲しいって願いは聞き届けられるのか?」
「それは、あなた自身の問題だし、私にどうすることもできないわ。
私があなたの子供をここで産むのは論外ね」
「そうか・・・そらそうだ・・・。ここでは?」
「あなたがもし、アレルカンティアへ行って魔王を倒してくれるなら
構わないって事」
つまり、ラピスを本当の恋人にしたければ、魔王を倒してくれって
事か。それも相当な難題だが・・・。それにしても爺さんになって死ぬ
まで面倒見てくれるとか・・・。孤独に死ぬよりは全然良い条件だが、
さすがに夫婦や親子でも無いのにそこまでさせるのはなぁ・・・。
「まだ、行く覚悟はできないな、でも可能なら恋人気分を満喫させて
くれよ」
「いいわよ~。セックスはさせないけど、手くらいは繋いであげる。
それに、そんなことしたら私から離れられなくなるわよ♪」
それじゃますます彼女の思うつぼだな。神の使いとか名乗ってるけど
俺の弱みにつけ込んだ悪魔じゃねぇか・・・。悪魔なんて立派なもの
とは違うな。強いて言うなら小悪魔か。
実際若返って人生やり直すのも悪い選択しではない。そして魔王を
倒せば、こいつもついてくる。いやついてくるとは限らないが。絶望
塗れの今の生活を続けるよりかは実際ましなのかもしれない。
こいつに異世界に連れて行かれた人間は何を考えてあちらに行った
のだろうか。退屈だったからか? 人生をやり直したかった? 英雄
になりたかった?
それでも俺を勧誘しに来ている時点で答えは出ている。魔王は倒せて
無い上に英雄にも成れていない。彼らもあちらで燻っているに違いない。
いや、中には成功を掴んで異世界生活を満喫してる奴もいるみたいだが。
「どうやら、おれもやきがまわったようだ。しばらくこうさせてくれ」
「いいよん~」
そう言って、俺はラピスを背中越しに抱きしめた。ここでの生活
一ヶ月弱の間に、どうやら俺はメロメロにされていたみたいだ。まんま
とこいつの策略にはまってしまったな。
そんな中俺は激情を抱いてしまう。仕方が無い。この感情に逆らう
事などできない! 俺は、俺は、ラピスのおっぱいがもみたい!
揉みたくてしょうがないんじゃあああああああ!
「ラピス、おっぱいもませて」
「揉ませたらアレルカンティアに来てくれる?」
この期に及んでこの女は。いや、しかし・・・答えはとうに出ている。
ラピスが欲しい。そしてラピスのそのたわわなおっぱいを揉みしだきたい!
そう、この心の底から湧き出る感情を否定することなど誰にもできやしない!
「ああ、揉めるなら行ってやろうじゃ無いか!」
そう言い放ち、俺は間髪入れずにラピスのおぱぁ~いを揉みしだいた。
「じゃあ、アレルカンティアへ行くね~そ~れ~」
目の前の世界が一瞬で切り替わる。バカだ俺は。おっぱいもみたいが故に
俺は異世界アレルカンティアへと誘われたのだった。もはや、後悔しても遅い。
何血迷ってんだ俺!
「着いたよ~まずは冒険者ギルドへゴー♪」
茫然自失となった俺は、ラピスに手を引かれるがままに冒険者ギルドへ
赴くのであった。
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