episode1~ビデオテープ

「おい和真、樹海行くぞ」


積み重なった資料のうえに今まさに食べようとしていたカップ麺を置いた途端に、麻生ディレクターから声がかかった。

「樹海ですか?富士の?」

他にどこがあるんだよ、と言いたげにジロッとねめつけられる。

「心霊スポット巡りの特番がな、急遽組まれたんだよ。最近豪雨だのなんだので野球つぶれること多いだろ?

だから、もしもの時の繋ぎだよ」

マジかよ、と俺はため息をついた。この糞暑いなかでのロケ。しかも心霊かよ。

「カメラマンはお前だけ、あとは俺と音声だけの超低予算よ。しかもタレントも無しのただ樹海をうろつくロケ。おどろおどろしいナレで茶を濁すんだろうよ」

俺はカップ麺を啜りながらニヤッとディレクターに笑いかけた。その手の茶番なら慣れたもんだ。

なにもなくても視聴者は何かを見つけようとするし、たかがスナック菓子のゴミでもナレーションが思わせ振りな遺物に仕立てあげてくれる。

「ま、ちょっとした尺稼ぎだ。それで臨時収入になりゃ文句ないだろ」

実際、ロケ続きでへばってはいたがそういうことなら楽な方だろう。

ワガママで演技も下手な三流タレントもいなけりゃスムーズに撮影できる。

「いつ行くんすか」

「今日の深夜だな。ちょうど予定もないんだよ」


まぁ仕方ない。テレビ局の下請け、便利屋カメラマンとしては飛び入りの仕事でもなんでもやれるときゃやる。

社員がたった7人ぽっちの制作会社としたら臨時の依頼でもあるだけましだ。

俺はラーメンを食べ終わると、何も言わずに仮眠体制に入った。


午前1時。


俺達三人は樹海入り口あたりにある駐車場にボロいロケ用ワゴンを止めた。

深夜だというのに微かに蝉の声がする。

初めて樹海まできたが、拍子抜けするほど駐車場は広く綺麗で、トイレまである。

見渡す限り人は見当たらないが、不思議なことに三台程度車が止まっていた。


街灯は煌々と辺りを照らしていて、間抜けなカナブンがぶちあたるカチッカチッという音がやけに響く。

「あらぁー、思ってたよりずいぶんと開けてるね」

暢気な声で音声チェックをしている羽間さんにそうすね、と声をかける。

「僕はまったく霊感なんざないからねぇ~、今日は間違いなく不発だね」

笑う羽間さんに麻生ディレクターがむっとする。

「やる前からそんなんじゃ困るよ!臨時っつってもゴールデンで放送される可能性もあるんだからな」

今回何かが撮れればまた仕事が入る算段をしていても無理はない。零細企業にとってデカい仕事が舞い込むチャンスを逃したくないのは当たり前だ。

が、かくいう俺も霊感などこれっぱかりも持ち合わせちゃいなかった。

むしろ、霊など真剣に考えてみるに値しない馬鹿馬鹿しい存在だと思っていた。


「まぁ、行くしかねえよ。出るにしろなんにしろな。1人2つ懐中電灯持てよ?腐っても樹海だ。迷ったら…」

奥地に入る気は更々なかった俺達だが、僅かばかり緊張感が漂う。

「音声チェック完了、いつでも行けます」






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