やーいやーい!お前の小説異世界主人公~~!!

ちびまるフォイ

異世界差別が横行しています

「あっ! 異世界主人公だぜ!」


村にやってくると、街の子供が一斉に指さした。


「やーいやーい、異世界主人公~~!」

「ハーレムが好きなスケベ野郎~~!」

「おっぱいもみもみ大魔王だーー! みんな逃げろーー!」


キャーと蜘蛛の子を散らすように子供たちは逃げていく。


「いったいなんなんだ……」


今日の宿を借りようとすると、扉にはでかでかと張り紙がされている。



『異世界 お断り』



かまわず中に入ってみると、ガラガラの宿屋に店主が頬杖をついていた。


「あの、今日の宿を……」


「あ、てめぇ異世界主人公だな! 帰った帰った! こっちは部屋いっぱいだよ!」


「どう見ても空いてるじゃないですか!」


「異世界野郎に貸す部屋は1つもないんだよ!!」


「そんな馬鹿な! ここで俺がいったいなにしたっていうんですか!」


「ふん、異世界主人公なんて、チートだらけで苦労をしらないボンボンなんだろ。

 部屋を貸しても女を連れ込むわ、汚すわ、トラブル持ち込むわで大変に決まってる」


宿屋から追い出された後、別の場所を探したが結果は同じだった。


「異世界主人公に貸す部屋はないよ」

「気にくわない奴は殺すんだろ?」

「他の宿泊客が異世界主人公が嫌いなんだよ、ほかをあたってくれ」


「俺がいったいなにしたっていうんだ!?」


トラックにはねられて、神様の手違いといういつものくだりを経て

意気揚々と異世界にやってくればこのありさま。


この村だけではなかった。

次の村も、別大陸の街も、果てはダンジョンにいる敵ですら。


「おっと、この店は異世界主人公は立ち入り禁止だ。帰りな」


「バカにするな! 異世界主人公に力を借りるほどギルドは落ちぶれていない!」


「ママ、あの人だれーー?」

「しっ、見ちゃダメ。かかわるとろくなことがないわ!」


異世界主人公は迫害と差別のフルコースを味わった。


「くっ、きっと俺の前にきた異世界主人公がろくでもない奴だったんだな。

 それでこの世界の人に悪い印象を与えたに違いない……」


さんざん異世界差別を受けた異世界主人公は根本的な解決を考えた。


「よし、俺がほかの異世界主人公とちがって、

 優しくて、おだやかで、愛と勇気だけが友達のような人間だと伝えよう!」


さすがに選挙活動のように「私はいい人です」などと言うわけにもいかないので、

異世界主人公はせっせとボランティア活動にせいを出した。


この世界ではチートをはじめとする超越的な力を毛嫌いしているので、

楽することなく自力でボランティア活動へいそしんだ。


壊れていた家を直したり、街のごみを拾って歩いたり、

ときに雨に濡れている捨て犬を拾ってみたり。


恋に恋する女子中学生くらいならキュンとするような、地道な努力の結果――。



「見てよ。あそこ、異世界主人公よ」


「ポイント稼ぎにボランティアなんてあざといわ」


「声をかけてきた女の子をてごめにしようと思ってるのよ、汚らわしい」



結果:逆効果でした。


異世界主人公の気の遠くなるような慈善事業は、

悪い先入観を持った人の目に「取り入ろうとしている」と映ってしまった。


印象はますます悪化し、街を歩けば後ろから石を投げつけられた。


「出てけよ、この異世界主人公~~!」


石が後頭部の急所に直撃したとき、

かつてトラックにはねられた時のような体がふわりと浮かぶ感覚になった。


気が付けば、いつぞやの神様の間にいた。


「あれ? あなたは転生させたときの神様!」


「ああ、うん。まぁ、なんていうか君は死んだんだよ」

「はぁ……」


「それも手違いで」


「神様って根本的に手違い多いですよ。なんで学習しないんですか」


「ごめ。全能にあぐらかいてた」


神様は素直に頭をさげて謝った。


「神様、ところで転生先の異世界ですが、アウェー感がすごいんです」


「ああ、見ておったよ。異世界にも差別ってあるんだなぁって思っとったわ」


「見てるなら助けてください! 石ぶつけられて死んじゃったんですよ!」


「うーーん、そうじゃなぁ」


神様はあごひげをなでつけると、杖を振り回して呪文を唱えた。


「エクスペリメントアームス!」


「神様、今の呪文は?」


「今、異世界からお前の差別をなくした」


「そんなことできるんですか!? 洗脳したとか!?」


「そんな恐ろしいことできるかい。いいから転生してきなしゃい」


神様に雲の上からけりだされて再び異世界に転生すると、もう石を投げられることは無かった。


「あ、ああ。部屋ね。空いてるよ」


最初に断られた宿屋も普通に部屋を貸してくれるようになった。

子供たちにもう指さされてバカにされることもない。


「す、すごい! 本当に差別がなくなってる!」


異世界差別があとかたもなくなっていることに感動した主人公は

お礼もかねて再び天界へとやってきた。



「神様、神様――!」


「なんじゃそうぞうしい。おや、お前さん、また戻ってきたのか」


「ええ、どうしてもお礼が言いたくて戻ってきたんです!

 神様のおかげで、差別もいじめもなくなりました! ありがとうございます!」


「そりゃよかったのぅ」


「あの、神様。それで気になったんですが……。

 あれだけ浸透していた差別をどうやって消したんですか?」


「なぁに、簡単なことじゃ」


神様は機嫌よさそうに杖をくるくると回して見せた。



「人口の99%を異世界主人公にして、多数派と少数派を逆転させただけじゃよ」

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