第1話 旅立ち

ここはエデンの都市から遥か彼方に広がる砂漠地帯。過去に魔王が現れた際に大地のエネルギーを吸い取ってしまい、世界の一部はこのような砂漠地帯になったとされている。木々も枯れ果て、ただただ灼熱の太陽の光が照りつけるこの砂の世界に、ただ一人街を目指して歩き続ける者がいた。


「…街は、まだまだ遠いのかな…。」


そう呟いて額の汗を拭う、金髪に青い瞳を持った青年の名は『アレン』。彼が18歳の誕生日を迎えた日に故郷の村を悪魔に焼かれ、捨てられていた赤子の彼を本当の親のように愛し育ててくれた老夫婦を殺された。途方に暮れていた彼の元にエデンを治める国王が現れ、彼が勇者であると告げた。彼はその言葉を理解する前に、この国のどこかに何処かに存在する『エデンの園』の入口を目指すよう命令を下され、魔王退治の旅に出されたのだった。


「…そもそも、本当に『エデンの園』なんてあるのかな?勇者の話だって伝説だって言われてたのに…。でも、現に魔王が復活してるから、本当なんだろうけど…。」


そう、遥か昔に現れた魔王も勇者も、最近まではただの伝説としか思われていなかった。しかし数年前に『エデンの園』にある『忘却の塔』に封印されたはずの魔王が突然復活し、世界中に悪魔が現れてから、人々はその伝説が歴史であったことを思い知らされたのだ。


「…でも、何で僕が勇者なんだろう。大して強くもないし、特別な力もある訳じゃない。お婆さんとお爺さんに護身用として貰った剣だって一度も抜けたこともない。悪魔が襲ってきた日だって…何もできなかった。」


村を焼かれた日、彼は老夫婦に頼まれて森の中にある蔵に薪を取りに行っていた。すぐに帰るつもりだったが、棚の上にあったガラクタを落としてしまい、それに埋もれてしまったのだ。何とか自力で抜け出し、片付けている間に日が暮れ始めてしまった。彼は慌てて薪を持って村に帰ったが、既にそこに見慣れた風景は無く、彼の家があった場所にはご馳走の残骸と、血だらけになった老夫婦の体が横たわっていた。


「…ま、王様の間違いだったとしても、僕にはもう一つやらなきゃいけないこともあるし、そのついでに本物の勇者様を見つければいいよね。」


もう一つやらなければならないこと、それは死に際に老夫婦から教えられた真実、この世界の何処かに彼の双子の弟がいるということだった。彼は本当の家族を探すため、勇者という肩書きを背負って旅に出たのだった。


「……でも、そろそろ…。」


彼はくらりと目の前が揺らぎ、熱された砂の上に倒れ込んだ。


「…体力と…暑さの……限、界…ガクッ。」


丸一ヶ月の間砂漠を彷徨い歩いた彼は空腹と喉の渇きによって体力が尽き、元々涼しい気候の村で育った平凡な体は灼熱の太陽と砂から放たれる熱に耐え切れなかった。こうして誰も立ち入らない砂漠地帯に行き倒れた彼、アレンの旅と人生は、ここで終わる…筈だった。

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