第3話

「この後、どうなるの?」ユーコは知りたがった。

二人はベッドの中にいて、裸だった。私のアーマーは二匹の忠犬といった姿で、足元にうずくまっている。定期的に行う排気がいびきに聞こえた。

とてもリラックスできて、体が軽くなった。ユーコが頭を支えてくれる。

「任務が始まるの?」

いつもなら仕事の質問はさせない。イライラするからだ。今は不思議とそう感じない。時間の流れも多少ゆっくりしている。

「そうだな、俺にも解らない。まあ、まずは朝鮮半島から敵を駆逐するのだろう。あそこは数百万キロ平米に敵しかいない。平均すると五分に一回の戦闘を数日ぶっ続ける。君としばらく会えない」

「怖い」と言ったが、ユーコは敵の詳細を聞こうとはしない。私も軍用ゴキブリ犬の二倍もある敵性生物の説明をしたくない。

だが、「怖くはないんだ」と、私は重い口を開いた。「アイツらは、強くもない」

「見た目は、そうだな。貝殻を伏せたみたいな形で、虹色に光る。遠目だと綺麗だと言うヤツもいる。普段は腹這いなんだが、攻撃になると立ち上がって、走ってくる。老人のヨボヨボの足にそっくりで、堪らなく嫌だ。二本の足でダンダンダンダン。地面を揺らして駆け寄ってくる。上から被さられるとだめだ。消化されちまう。だが、背負ってる貝殻がやたら固いだけで、攻撃力は大したことはない」

最近、心配なのは、幼体が一列に並んで地下を移動できるという研究結果についての噂だ。タブロイド紙が特ダネで報じた。フェイクニュースとも言い切れないのだ。

アーマーは、五人で小隊を編制し、トラックに弾薬を満載して、交替で周辺を駆け回って、敵を蹴散らしながらトラックと連接して前進する戦術兵器だ。主任務は、偵察と奇襲、陽動になる。防御に重きを置いていない。

補給中に地下から攻撃されたくないし、へとへとになって帰陣したらトラックが子牛大のウジ虫どもに占領されていて欲しくない。

ユーコは私の顔を何度も覗き込み、体に触った。少し、しつこい。

「悪かったよ」私は聞こえるように呟いた。「乱暴なところがあった。申し訳ない」

イライラすると私は手を上げた。前なら彼女をはね飛ばしただろう。今は大人しくしている。死の恐怖がそうさせるなら、危険な兆候だ。

ユーコは微笑んだ。そして急に立ち去ると、目を赤くして帰ってきた。

「泣いていいよ。もう怒ったりしないさ」私は左腕を伸ばしてユーコを抱き寄せた。「また二人の写真を飾ってくれ。最初に旅行に行った時の。あの訓練が終わってから、昔の様子をときどき忘れるんだ。困りはしないんだが」

ユーコは「今の二人がいい」と言って、すぐに写真を撮り、寝室に投射した。

「俺って、こんな顔だったか」

「そうよ、変な人」とユーコは笑った。

夜が更けるまで、二人は話を続け、食事をとり、一緒に風呂に入った。ユーコの母親の形見だというピアノが気になって、私がなんとなく弾くと、うまいと褒め、また泣いた。私の目の前で泣くのは何年ぶりだろう。

その夜、疲れはてたユーコが寝込むと、私はアーマーに付属する偵察ドローンを何体も使い、納屋の奥のキャビネットの中から、探したものを見つけた。私が床に叩きつけて額縁を壊した二人の写真だ。

笑顔の二人。ユーコはやはり控えめだ。隣に立つ男は、まだ五体が揃っている。






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