第24話 特級科 天災の集まり

 


 木の根が開き、教室が現れる。

 質の良い木を使用しているのだろう。生き生きと黄色がかった、綺麗な色をした木質の机がずらりと並んでいる。

 その机に座る生徒、その数六人。

 仲が良くないのか、皆バラバラに座っている。

 もしくはそこが、彼らの席なのかもしれないが。


「はいはーい。皆さん元気ですかねー? 元気なら元気といってくださーい。せーの!」


「「「…………」」」


「なるほど! 元気モリモリですね! じゃあホームルーム始めますよー」


 そんな挨拶をしながらふくよかな身体を、気怠そうに歩かせる女性。

 このクラスの先生、パートリー先生である。

 先生は情緒豊かな先生であり、難儀な生徒を集めた特級科を、唯一纏め上げることができる先生だとか。

 そのぶん逆に一人で突っ走る傾向があるようで、誰もついて行けないからこのクラスに配置されたという噂も、なぜかシルバーから貰った資料に書いてあった。

 入学資料にそんなこと書いていいのか……?


「ではみなさん、今日は報告があります! もう一番席の前についていらっしゃる! 偉い! よくやった! そんな素晴らしい生徒が今日からお仲間に加わります! 嬉しいですねぇ。喜ばしいことです。なので皆さん自己紹介をしましょう! 最上級生のモルテさんからどうぞ!」


 一人で緩急をつけた聞き取りやすい喋りを続け、一人で楽しそうに、一人で騒いで完結した女性。

 なるほど、突っ走る。

 的を得ている。


「カカカッ。俺からやるには随分、荷が重いと思うのだガ。本当に俺でいいの、カ?」

「ええ、ええ! お願いいたします!」


 そう言ってやや溜息を吐き、靴音を鳴らし現れる黒いボロマントの男。

 何より気になるのは、髑髏を象ったヘルメットだ。

 全身黒ずくめに、加え髑髏型のヘルムなどホラー以外の何物でもない。


 思わず背筋が凍りつく。

 それはつまり、彼から滲み出る強者の風格が、僕の神経を極限にまで高めさせているのだ。


「ーーカカ、そう身構えるな」


 と、横を通り過ぎると同時に言われた。

 まるで僕の心中を察したかのように。


「モルテ・オビディエント。人からは“天喰てんくい幽冥ゆうめい”などと、呼ばれていたりするガ、まぁ大した者じゃない。四年生、使う魔術は闇属性のみだ。何かあればよろしく頼む」


 そう告げてまたも喉を鳴らし、渇いたような「カカカ」という笑いを見せ、後ろの席へと戻って言った。


 そういえば、僕の解析アナライズは人間にも通用するんだろうか。もし通用するなら試して見る価値はある。

 モルテでは出来なかったが、次の人から使ってみよう。


「次はギルティシュー君です!」

「はい」


 次は先程のモルテとは違い、誠実で声も透き通った、勝手な偏見だが優等生そうな声をしていた。

 それは声だけでなく容姿も完璧であり、蒼い双眸に金の髪をした青少年という印象が強い。

 ただの青い生徒服が如何にも彼の正装と言った雰囲気を出していて、高級ブランドを着せてしまったら一体どうなるのか、気になるところ。

 きっと俳優並みの着こなしを見せてくれるだろう。


「“無動むどう殲帝せんてい”ギルティシュー・アーススターライト。四年生、使える魔術は四属性。光と闇以外の全て。よろしく」

「はい! 素晴らしい紹介ですねえ。偉いです!」

「カカカッ。俺と特に変わらないと思う、ガ?」


 後ろで笑いながら反応を示すモルテ。

 彼の話す一言一句が恐ろしく感じられるため、なるべく喋って欲しくないと思うのは僕だけなのだろうか。

 単純に慣れの問題もあるかもしれない。


 それよりも気になるのはギルティシューの畏名かしかなだ。

 畏名かしかな。ワイズに町に行く前に教えて貰った注意事項の一つ。

 畏名かしかなを持つものは大抵が常軌を逸した強さを持つと言われている。強さでなくても、知識や技術、実績や逸話を残したものには世界からの祝福として何処からともなくいつの間にかつく二つ名。

 それが畏名かしかな

 では、ならば。

 ギルティシューについているおっかない畏名かしかなは一体何なのだろうか。

 人は見た目によらないとはいうけれど、温厚そうな見た目をしている彼が、無動の殲帝とは、あまりに不釣り合いな二つ名では無いのか。

 もしくは、それに見合う何かをしたと、言うことなのだろうかーー。


 とりあえず、解析アナライズをこっそり使って見る。

 すると、


【名前:ギルティシュー・アーススターライト

 畏名:無動の殲帝

 魔術属性:炎、水、風、土

 魔術系統:放射

 固有魔術:無敗王アロンレクス

 説明: その爽やかな笑顔で落とした人間の数は数しれない。だが、彼が信用し近くに置いている人間はただ一人という慎重な一面を見せる。それは彼が最強の力を持っていると自負している故の一面なのかもしれない。好きな物は鳥】


 !!?


 な、なんだなんだ。

 魔物段階と種族段階が消えた代わりに、畏名かしかなと固有魔術が増えた。

 固有魔術ってなんだ。そんな話聞いてないぞ。

 これは、また新たな図鑑の機能を発見してしまった。

 学校でも学べるかもしれない。

 固有魔術か、覚えておこう。


 そんな事を考えている内に、人は代わり次の生徒が来ていた。


「俺の名前は“千火天輪せんかてんりん”シシハクト! 誰よりも強い武闘家を目指してここ、メメントモリに入ったんだぜ!! よろしくな! 因みに使える魔術は火だけで、三年生だ!」


【名前:シシハクト

 畏名:千火天輪

 魔術属性:火のみ

 魔術系統:付与、変幻

 固有魔術:なし

 説明: キマラード大陸で生まれたガリ族の男。その暑苦しいまでの性格は、砂漠の厳しい環境で生き抜いた証であり、彼が使う二本の槍はその誇りである。好きな物は魂と熱いものと辛いもの】


 なんて、暑苦しいまでの熱気を放つ半裸の男シシハクト。

 上半身裸、腰に大きな布を巻きブカブカのズボンを履いた様は、まさに武闘家のそれだ。

 頭は炎のような赤みを持つ毛先の黒髪。

 その髪が後ろで湾曲を描いて上を向いているから、何だかクワガタというか、牛というか、そんな印象を覚える。


「俺だけは唯一、実績が認められてこの特級科に進級したんだぜ! 何をしたかといえば、槍二つで魔物の軍勢を千体ほど倒したんだぜ! 全員微害級ワーヌだったけどな!」


 微害級ワーヌ

 確かZ.S.A.B.C.Dとある中で、C級に位置するのが微害級。

 人一人に対しての殺傷性が見られるとか何とか。

 というか確か僕が、その位置にいた気がする。マイナスが付いていたけれど。

 それが千体ともなれば、或いは、総合的に見れば、A級相当の魔物を倒したと言っても過言ないのでは無いだろうか。

 それを相手にして勝ったこの男は、そのくらい強い実力者ということだ。


「私は……“襲雷狼牙しゅうらいろうが”アイリ・ゲイル・ハッシュランド。二年生、使う属性は風と水の混合魔術、雷」


【名前:アイリ・ゲイル・ハッシュランド

 畏名:襲雷狼牙

 魔術属性:水、風

 魔術系統:付与、変幻

 固有魔術:無し

 説明: ゲイル族、五大英雄の孫娘。深い森の奥地で鍛え上げられたその身体は成人男性と張り合っても負けることはない。森の豊かな栄養を取り込んだ彼女の姿はあらゆる男性を虜にしてしまった。そのため少々の男性嫌いを引き起こす。好きな物はゴツゴツとした武器になりそうなもの。もしくは強そうな獣】


 暑苦しい男の次は驚く程素っ気ない女。

 だが、その容姿は凄い。

 はっきり言って、凄い。

 黒髪の黒眼。

 体型はグラマラスでボンキュッボンという言葉がよく似合う。

 制服は溢れんばかりの胸で弾けそうだ。

 なんども胸を腕で持ち上げて苦しそうにしているところを見るに、本当に弾けるのでは無いだろうか。


 だが、僕らの着ている制服は、この格好でも戦闘ができるようになっているのか、伸縮自在の素材で出来ている。

 青が基調となっており、女性の服はセーラー服を思わせる作りになっている。

 僕もパツンパツンではあるのだが、生前よりは不自由なく着れている。

 女性服も例外では無いのであれば、胸部分も伸縮自在なはずなのだが、その性能を凌駕する機能をあの胸は持ち合わせているのか。

 バスケットボールが二つくっついた様な、あの二つの双丘。


 手で鷲掴みしてみたい。

 いや、純粋な欲望だ。

 男なら誰もが憧れる超巨乳。僕はちっさいのもおっきいのも好きではあるが、目の前にこれほどの巨乳を見せられれば、興味は尽きない。


 前世では触れることもできず終わった人生。

 一度、一度、だけ。


「…………」

「ーー!?」


 と、思っていると、大層人を蔑む目で見つめられていた。

 これはマズイ。目線が如実に出てしまっていたらしい。


「あ、あの! ごめんなさい! 特に悪気があったわけじゃ……!」

「……汚らわしい」

「けっ!?」


 これは最初からかなり心証が悪い。

 僕が全面的に悪いのだけれど……、前世でも人付き合いが悪いのに、こんな事ばっかりだからキモいと言われていたのかもしれない。

 それに彼女は男嫌いと解析には出ていた。加速度的に好感度は下がったのだろう。

 失敗してしまった。


 そんな自虐に浸っていれば次の生徒。

 甲冑を身にも纏い、その姿は例えるなら洋風の剣士だ。

 カシャンカシャンと音を立てながら歩く様など、西洋ヨーロッパの鎧騎士を見ている様。

 腰に下げる剣もその存在を強めている。


「“盤上ばんじょう氷忠ひょうちゅう”オネット・シュヴァリエ。使える魔術は水のみ。すまない。少しぼうっとしていた。アイリに先を越されたが、三年だ。よろしく頼む」


【名前:オネット・シュヴァリエ

 畏名:盤上の氷忠

 魔術属性:水

 魔術系統:放射、使役、変幻

 固有魔術:無し

 説明: 昔から森で王族を守護してきた一族の末裔。種族的には滅びてしまったとされているが、少ない人口ながらも何とか生き延びている。そんな彼が恋慕するのも、未だ守っている王の末裔だ。好きな物はその末裔全て】


 お辞儀をすると彼はカシャンカシャンと音を立てながら、元の席へと戻っていく。

 一つ一つの動作が、整然としており騎士というイメージがかなり強い。それもそのはず。解析アナライズでは王族を守護してきた一族の末裔であり、今でも守っていると言っているのだ。

 ならば動作一つ一つに気品を感じても、おかしくない。


 にしても、肝心な情報は出てこないところを見ると、これは欠陥品なのだろうか?

 どこの王族を守っていて、誰が好きなのかという情報は出てこない

 もしかすると、本人が本気で教えたくない事項は出てこない可能性がある。

 それに、ここまで固有魔術を持つ者がいないのも気になる。

 固有というぐらいであるから、勿論、その者が唯一保有する魔術なのだろうが、ひょっとするとレア度も相当に高いのかもしれない。


「こいつは魔術もすげぇけど、剣術も凄いんだぜ! 俺を抜いて剣術でのランキング序列一位取ってるんだかんなぁ!!」


 と、後ろの席で腹を抱えながら軽快に笑うシシハクト。

 それが本当なら彼も相当な実力者だ。畏名かしかながある時点でそれは当たり前なのだが、なにぶん実感がない。

 未だ、畏名かしかな持ちとの戦闘をした事がない僕にとって、畏名かしかな持ちは未知数だ。

 いつか来る戦いの時に備えて情報は必要だろう。


 そして、待ち遠しかったのか、ドタドタと走りながらジャンプして教壇の上に登場する一人の少年。

 最後の生徒が、騒然とやって来た


「やっと余の番だな! 余の名前は、レスツィオーネ王国第三王子、レオーネ・ヴァルテ・アドベントマン! 使える魔術は六属性全てだ! 故に畏名かしかなは“六芒星ペンタグラム”! 才能と未来に恵まれた余を慕い、余に尽くす事を許す! 存分に励めよっ、民達よ! ぬーはっはっはっ!!」


【名前:レオーネ・ヴァルテ・アドベントマン

 畏名:六芒星ペンタグラム

 魔術属性:全て

 魔術系統:全て

 固有魔術:無し

 説明: 王族の中でも才子と呼ばれた才能の持ち主。兄弟の中でも比類なき力を持ち、故に兄弟に忌み嫌われ憚られたが、持ち前のポジティブさで乗り切る。だが、実は深い傷を持っており夜な夜な泣いていることもしばしば。友達が一人もおらず、親友を欲している。好きな物は父親と妹】


 だいぶ態度のデカイレオーネ。

 態度に見合わない矮躯であり、身長は一五〇センチ行っているのか、行ってないのか分からないが、それほどに小さい。

 王族故か他の者とも、服装が違い、頭には三十センチは優に超えた黒の獣の刺繍が入った長帽子を被り、胴体にも獣がデカデカと描かれている為、国の象徴なのだろう。

 容姿は子供と大して変わらない所からするに、飛び級なのだろうか。

 友達が欲しいというありきたりな願いも、強がっている所のギャップを感じさせて、可愛く見えてくる。

 が、王族故仕方ないが、強がりの所為で友達が出来ないのは、彼は分からないのだ。

 まぁ、僕も人の事は言えないが。


「はーい! 今日も! これで今いる皆の自己紹介は終わりましたねぇ? お疲れ様です! 見事である! 彼の紹介は入学式でやったから無し! という事で授業に移りたいと思います! ホームルーム終わり!!」


「え?」


 先生が手を叩きながらそういうと皆はゾロゾロと教室から出ていく。

僕の自己紹介無しなのか?

ーーいや、問題はそんなことより、


「ま、待って!」

「……」


 そう呼び止めることが出来たのはアイリだ。

 相変わらずジト目、というよりも見下した感じの目付きで僕を見ている。

 どうやらかなり嫌われた様だ。


「じ、授業って移動授業なの?」

「……資料、見てないの?」

「え、あ、うん見たんですけど、選択性としか書いてなくて、これはつまりどれか選んでそれにずっと行くってことなん……ですよね?」


 その眼光は蛙を睨む蛇のよう。

 ビクビクしながら答えては見るが、彼女の目付きが変わる事はなく、寧ろその鋭さを増して僕を襲う。

「ひ」なんて声を出して女子相手に怯えている様はなんとも格好悪いことか。


「違うわ……、私達特級科は、好きな授業をどれでも受ける事が出来る。……カリキュラムなんて無いの。自分で一番最適な授業を選んで高めて行く事が出来る学科。……それが、特級科」


 少し面倒くさそうながらも、そう言うと彼女は行ってしまった。

 怖い人なのかと思ったけれど、しっかりと教えてくれる辺り悪い人では無いのかもしれない。

 厳格な女性であることに違いはないのだが。


 ともあれ、僕はどんな授業も受ける事が出来る。

 ならば、やはり先ずは魔術の知識と、主戦法である剣術を学ぶべきなのではないだろうか。


 ーーーーーーーーーハッッッ!?


 マズイマズイ。

 学ぶのはいいが、ちゃんと目的の治癒魔術師も探さなくては。

 暇な時間に教員室にでも尋ねて見ることにしよう。

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