第23話 学校の生活の始まりは
「さぁ、ここですよ」
案内された先は単純な一人部屋。
丸机と椅子が一つ配置され、人一人寝る用の簡素なベッド。
床は肌触りの良い絨毯が敷かれている。高価なものではないだろうが、安いものでもないだろう。
机とベッド、人一人寝れるくらいのスペースだけ空いた縦長な部屋。
教会から場所を移し、町を横断した僕とシルバー。
たわいもない話で盛り上がり、退屈しない時間を送っていたが、街行く人々から向けられる視線は痛い。
大神官の横に見ず知らずの肥満男が歩いているのだ。当たり前だろう。
それにしては、「あれが例の……」「本当にそっくり」なんて事をボソボソと言っていたが、何の話だろうか。
首都ゼオムの中心に来たあたりで、この世界のタクシー的存在、
その魔導車にも揺れ軽減、酔い軽減の魔術術式が組み込まれており、快適なドライブを楽しむことが出来た。
視線も浴びる事は無いし、何より脚が疲れない。
かなり高級車らしいが、大神官たるシルバーはお金を払わずに乗れる。
特権様々だ。
向かう先は広大に聳える城だ。
何でもこのゼオムでは城と英雄育成機関が一つになっているらしく、王を守りながら生徒を鍛えているそうだ。
そしてその中にある男性寮。
確かに大きい城ではあるが生徒数一万を超えるらしいメメントモリ。
一体どの様に収納しているのか。その答えは地下にあった。
地下には地上に見えている城に反して、それよりも大きくゼオムの町先まで広がる勢いで、メメントモリは広がっていた。
まるでアリの巣穴の様である。
一応、簡単な見取り図として教えてもらったのは、
一階と二階と三階に渡り、寮。
四階が先生達の寮。
五階、六階、七階が戦闘場及び教室。
らしい。
つまりは七階下まで地下があると言う。
かなり深いが、町の比重で潰れたりして陥没する事は無いらしい。
魔術により、重力操作がなされ幾らモグラの様に掘り続けても、地盤沈下はしないのだ。
よく前世の創作作品で、地下の秘密基地を作っているものが多かったが、この理由なら納得がいく。
全く魔術は何でもありで困る。
前世の常識が全く通用しないのだから。
さて、そんな部屋に連れてこられ今日の時刻はもう夜中の八時である。
そんな夜中に、取り付けられた
そう、立ち尽くすならぬ、座り尽くしていた。
「どないせいっちゅうねん……」
勿論僕は関西人などでは無い。
バリバリの東京生まれだ。だけど、関西弁というのは使いたくなってしまう底知れぬ魅力があり、特にツッコミを入れる場面ではかなり有効だ。
僕が関西弁を使ってまでツッコミを入れたのにはわけがある。
なぜ、どうしてそうなったのかは知らないが、僕はいつの間にか
メメントモリに入るまではいい。それは治癒魔術師を見つけるのに必要な事で、シルバーには感謝しても仕切れないくらいだ。
だけど、どうして主席にしたの?
バカなの? 死ぬの?
今心の内に眠るありとあらゆる罵詈雑言を、あのイケメン眼鏡にぶつけたい気分なのは察しの通り。
コミュ障で、引きこもっていた僕には主席はあまりに荷が重く、更に入学生代表の言葉なんて何を言ったらいいのか。
不正入学も甚だしい行為で入学した僕の言葉を皆は聞くのか?
勿論、彼らが僕が不正入学をした事を知っているとは限らない。
だとしても僕の心が痛むのだ。
一生懸命頑張ってきた者達を踏み躙って、剰えそれに乗じて、猛々しいにも程がある。
それに文も上手く書けない。
こんなことした事ないし……。
「はぁ……いったいどうしたらいいんだろ」
憂鬱だ。
このまま明日を迎えるのが酷く恐ろしい。
「どうにかして……明日を……乗り切らないと」
淡い光が僕の眠気を誘い、瞼はみるみるその重さを増して視界を闇へと落としていく。
そうしていつか、脳内を支配した深い眠りは朝まで続き、僕は完全にーー寝坊落ちしたのだ。
--
そうしてーー教壇の前に戻る。
再度言おう、何度でも。
ーーなぜ、僕はこんなところに立っているのだろう。
地下四階に作られた、まるで学校の体育館の様な場所。唯一違うといえばその広さだろうか。
二試合バスケットボールができるくらいが普通の広さだと思うが、この広さならば十試合くらいできるのではないだろうか。
その広い体育館に、ずらりと並ぶ人の列。
それはこの学校メメントモリに存在する全ての生徒。七年と長い間をかけて卒業する精鋭達だ。彼ら一人一人が卓越した技術と知識を有しており、騎士科・魔術科と大まかな二つの組み分けがされている。
更にその中で武器などを整備する整備専攻や、魔術を研究するのみの研究専攻など、組み分けがされていく。
こうしてこれ程の大所帯となっているわけだが。
僕はその中の特別枠、逸脱した力を持つもの達が入る特級科と呼ばれるクラス、その末端に席を置く事になるのだ。
特級科に入るものは例え成績がトップでなくても、主席扱いになりスピーチをしなければならない。
なぜなら特級科とは未来を担った一番才能あるもの達の集まりであり、その証拠として今現在特級科にいるもの達は皆全て、
さて、長くなったが、そんな今年入学する生徒の中で、僕はただ一人の特級科。
入学生代表の言葉は必然、僕が言うことになるのだが……。
教壇に立つだけで頭は白くなり何も考えられない。
どんなに皆の顔をじゃがいもに、パイナップルに見立てても、緊張が和らぐことはなく。
そして僕は、
「わ、わわわ若い草の芽も、の伸びィッれ! しゃ、しゃくらの花も咲き始めリュ! 春らんみゃんのきょう!!」
なんて具合の噛み具合で、捻り出した知識からなんとか文章は即興で考えたけれど、それでも途中途切れ途切れの発表は、僕人生中でもトップクラスの辱めであった。
何よりも、下にいた生徒からボソッと聞こえた「ダサい」という一言が、かなり応えたものだ。
--
次の日、僕は特級科クラスのある五階へと向かう。
教室へと向かう方法はエレベーターだ。
エレベーターといっても機械で動いているものではなく、こちらも
廊下は一般生も入り混じり、普通の学校の様な廊下だ。
どちらかといえば西洋の雰囲気が強く、木材で形作られているのは、魔術によるものだからだろうか?
廊下を通りすれ違う度向けられる蔑視と嘲笑。
どうやら昨日の演説で大分有名になってしまった様だ……。
気を取り直してクラスでは頑張らなければ……。
そうして辿り着いた特級科クラスの扉の前。
時間通りにやってきた。
特級科クラスは今年は僕しかいないのだが、元々の人数が少ないため、他学年合同で行われる。
人数も何も知らされてはいないのだが、先生が来るより先に入っていろとのこと。
かなり緊張するが入るしかない。
木の根で出来た扉。
上から何本も下がりカーテンの様になって部屋の扉となっている。
この扉は触れたら開く様に出来ているらしい。
「さて、行くか……」
不安と絶望からスタートするこの学校生活。
一体どの様にして、僕は治癒魔術師を見つけることができるのか。
どちらにしても、学校生活なんて治癒魔術師を見つけ次第すぐに出て行くつもりだ。
それまで皆と仲良く接することができるなら、それに越したことはない。
が、幸先は悪い。
学校に思い出の薄い僕とはいえ新しい人生を送るのだ。
なんとか友達の一つでも作りたいものである。
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