第2話 神様はいました
黒い空間に、ただ何の理由もなく漂う一人の男。
彼はつい先程まで、脚で歩き、会話をして、生きていた少年だ。
親の脛を齧り、惰眠を貪っていたとはいえ、しっかりと生きていた人間だった。
だが、その命はもう潰えている。
ここは生と死の境目であり、世界の境界。
生物も物も分子も原子も宇宙でさえもが行き来する乖離空間。
時間の概念から解き放たれ、ただ意識なく漂流者を歓迎する無辜の道。
本来であれば、一本道の終着点は変わらず同じ。誰かの差し伸べる手も道も、介入は許されない。
行く末を変える事即ち罪であり、等しく罰が下される。
人であれ、何であれ。
ーーだがそれも、造った者以外の話だが。
浮かぶ男は分かれ道に差し掛かる。
両方、共に光り輝く魅力溢れる道だ。
片方は淡い光が付いては消えてを繰り返し、一つの川のような形を作りながら先も見えない終着へと流れている。
方やもう一方。太陽を見つめているかのような注目することすら許されない絶対的光。
そこには立ち入る事さえ烏滸がましい。自身のような矮小な存在が辿り着いても許されるのか、そう思わせる神聖な光。
だが、浮かぶ者に道を選ぶ権利などなく、片方の道に吸い込まれ、まるで
ゆら、ゆら。
ゆら、ゆら、ゆら、と。
--
“ここはどこだろうか”と男が気付いた時、元いた場所ではない事がはっきりと理解できる程度には、頭は冴えていた。
ふわふわと身体は浮かび、いつも付きまとってきた体重による気怠さが一切感じられない。
つまりは無重力空間で在る事も、何となくではあるが僕にも理解できた。
辺りは白一面に染まり、何も無く、ただ永遠と白が続くのみ。
夢か何かと考えてみれば、自身が鉄骨に潰された事も覚えていた。
であればここは天国なのだろうか?
いや、天国にしては、自分の罪はデカすぎる。
もし行くのであれば地獄が妥当というものだろう。
在るかは知らないが。
と、物思いに耽っていれば、
「まぁ、そりゃあ謁見の間ですからねー。
例え下界の人間が来るとはいえ汚くしたらお客様に失礼ですからね」
突然、辺り一帯に声が響く。
少し軽快に語りかける女性の声。
まるで四方から喋りかけられたかのような、そんな感覚。
驚きを声に出した訳では無かったが、その様子を勘繰られたようで、その声は続いて語りかけてきた。
「やっぱりびっくりしますよねー。ほら、こっちこっち、後ろだって。君の後ろ」
後ろ、とは。
回れ右の要領で向こうとしても脚は無重力で、空回り。
体を捻ろうとしても、動く事はない。
「後ろを向きたいって思えば向けるよ」
つまりは念じろ、と、そういう事である。
そんな超能力者紛いの事を突然やれと言われても、出来る訳がない、と鼻で笑いながら念じてみれば、身体はゆっくりと回り出す。
その不可思議な現象に、戸惑いをさすがに隠せずにいれば、
「ごめんねー。ここ来るの久しぶりだからさぁ、そう言うの言うの忘れちゃうんだよ」
ゆっくり回った先に、
ーー美少女がいた。
「そんな! 美少女だなんて照れちゃうよぉ〜」
ピンクのカールがかった髪に黄金比とも取れる完璧な顔。
その飲み込まれてしまいそうな程に大きく見開いた瞳。
Eカップか、Fカップは有るのではと思えるほどの双丘。
体型はスレンダーとは言えずとも、くびれはハッキリ主張されており、出るとこは出てるイメージだ。
ボンキュボンと、その言葉がよく似合う。
「喜んでいいのかな……それ。でもこう好意が伝わるといいもんだねぇ! うん!」
それより何より、気になるものが一つ。
羽が生えている。
背中からかなり大きめの純白の羽が生えているのだ。
広げたら、横に人を四人は詰め込めそうな程の巨羽。
だが大きさよりも、その美しさに目が奪われ、天使など見た事が無かったが、もし天使が居るならきっとこのように美しいのかもしれない、と、死んだ見ながらも感動していた。
「うーん、確かに、羽は大きいけど……、そんなに入るかなぁ」
バサバサと美少女は羽を羽ばたかせ、その大きな目をクリクリ動かしながら、大きさを確かめている。
(可愛い……)
と、心の中で呟いてみれば、
「もぅー! 褒め上手なんだからぁ! 惚れても知らないゾ♡」
身体をくねくね湾曲させながら、その小枝のように細い人差し指で鼻を突かれてしまう。
その所為で、美少女免疫を持たない僕の鼓動は、お祭り騒ぎ。
鼓動のスピードは、死んでいるにも関わらず、その速さを加速度的に上げていた。
(あれ……ていうか、俺の考えている事、分かるんですか?)
「うん、ここはそういうとこだから」
(凄い便利空間ですね。死後の世界……何ですかね。ここ。なら貴方は閻魔様?)
「身体が小さくなっちゃった名探偵ばりに推理してくれたとこ悪いけど閻魔様じゃぁないんだなぁ。それにぃ。君が心の中で色々褒めてくれてる事、ぜーんぶ聞こえちゃってるんだからぁ!」
嫌だなぁ、もう! とその細い腕で肩を叩く。
(な、何の話ですかね)
「例えばぁ、おっぱい大きくてこんな身体が大きい僕でも包み込めそうとかぁ、すっごい良い身体つきだから抱き心地良さそうとかぁ、優しそうとかぁーー」
(いやぁぁぁぁめぇぇぇぇてぇぇぇ!!!?)
心の中で考えた、一から百までの心情がリークされるのを、心の声にてかき乱す。
このままでは僕が変態という位置づけになってしまうところであった。
危ないところである。
「ふふふ、面白い子。君の方が抱き心地良さそうなんだからぁ」
(勘弁してくださいィ)
「顔伏せちゃってぇ。女の子免疫なさすぎじゃないノォ? 可愛いなぁ」
側に寄って、またも細い指で不貞腐れる頬を突くものだから、顔から蒸気を上げて赤くなる。
きっと今はトマトの様に赤い筈だ。
そしてそれを面白がって突くループ。
いつの間にか、僕はイザナミの世界に迷い込んでしまったのだ。
(んもぅ! 何なんですか! 結局、閻魔様じゃないなら、貴方は一体誰なんですか!! ここはどこなんですか!)
あまりの恥辱に、流石に痺れを切らし女の手を払って訊いてみれば、彼女は頬を膨らまし、答える。
「ふふーん、聴いて驚け、アイ、アム、ゴッド! なのさ!」
(ん?)
「つまり僕は神様なのさ!」
(へぁっ?)
神、それは古来より崇め奉られて来た全知全能の存在。
人間が作り出した願いの偶像であり、存在する筈の無い空想の産物。
それが、今目の前にいる、というのだ。
これほど可憐な美少女が、羽が生えているとはいえ、神様なのだ。
(道理で……可愛いわけだ)
空想の産物なのであれば、つまりは願いの具現化。
僕の密かな願い。可愛い彼女が欲しいという願いが実現してこの様な姿になったと言っても納得がいく。
つまりここは焼太郎の妄想によって生まれた空想の世界でありーー
「違う違う!! ちゃんと神様だからっ!! 列記とした神様で、力もそれなりに強いんだからっ!!」
(え、本当に神様なんですか?)
「もちのもち! モッチモチさ!」
(あ、ああ……)
その可愛さに驚いた、その軽快さに驚いた。
だが何よりもその神という存在が目の前にいるという事実があまりにも常軌を逸していて、受け入れ難い真実に、思わず唖然。
サムズアップを繰り返す、羽を生やした神様など想像にもしなかったから。ともあれ、神様だと言う証拠を出してもらうにも証明する方法などない。
話を進めるのが先決だろう。
(ええーっと。それで僕は一体なぜここに?)
「んん? もう本題入る? 正直お客さんって久しぶりだからさぁ、もっとお話ししたかったんだけどねぇ」
(……話は構いませんけども……、その、あんまり顔を……、ジロジロ見ないでください)
「良いねぇ、初心いねぇ。そういうの良いと思うよ。これからも大切に持っておいた方がいいよぉ〜。可愛いから」
(男が言われても嬉しくねぇっ!?)
あまりの驚きに立場を忘れてツッコミを入れて仕舞えば、クスクスと笑う女神がそこにはいた。
その姿は本当に可愛らしく、更に言って仕舞えばあまりに自然に接する事が出来るから、人知を超えた超常の存在にはどうしても見えず、一人の超可愛い少女という見解の方が妥当である。
笑う姿に見惚れていれば、
「実はねぇ、君の前世の話なんだけどね」
本題を、切り出してきた。
「ああ、いやいや、別に君の悲しい過去を掘り出そうってわけじゃないのさ。
ただ、君の過去は、あまりにも凄惨すぎた。
そういう方達は不幸度ってのがあってね。それに応じて、次の生は幸運度が高い人に生まれ変わらせてあげようって試みが天界ではあるのさ」
(……それでは僕の見解によると最悪の人間だった為に、次も最悪な人生を送る気が……)
「そう悲観せずに……。君が次に生まれ変わる世界はアルバート。
魔法が使え、魔物や色々な種族が跋扈する中世を風景とした世界だ。
どうだい?」
(……え? それはつまり、俗にいうファンタジー異世界って事……か?)
異世界を題材にした作品など、見飽きる程に見てきた。
昨今では珍しくもないありふれたジャンル。だが、それも実際に体験するとなれば話は別である。
夢見る魔法に、沢山の種族。
排気ガスと高層ビルで囲まれた夢無き現実世界より、何千倍も夢に溢れた世界。
そんな世界に、目下最悪な生活を送っていた自分が行っても良いのか、只々不思議に思う事しか出来ないが、ニコニコと笑いながら喋る彼女の顔は、嘘か本当か定かではない。
そんな中、突然表情が一変。
楽しそうな雰囲気であった彼女の顔は悲壮にくれていた。
「君が喜ぶところ悪いけど……、確かに君は善人とは言い難かった。名前に見放され、他人からありとあらゆる暴力に罵詈雑言を受け、自殺を一度は志していたとしても、ね。さっきは幸運度云々の話をしたけれど、この転生には一つの条件が追加されている」
(条件……?)
「 君の転生先は、人間じゃ無いんだ」
(人間じゃ、ない? つまりは……虫とか、そこらにいる犬っ……て事ですか?)
想像出来るのはその程度ではあるが、魚や鳥もあれば異世界という事で竜なんてのも候補には入るだろう。
想像出来る限りの動物を思い浮かべ、蝉という昆虫をふと思い出す。
あやつは七年も地中に潜伏し、一週間という短い期間のみ外界へと飛び立ち、その七日間の幸せを全うし死を迎える。
ある一説によれば世界で一番幸福を感じるのは成虫となり空飛ぶ蝉だとか。
その真偽は兎も角、まさか、女神から来る言葉が、焼太郎の想像したあらゆる物を無造作に踏みつけて、紙屑のように捨てる程にまで浅はかな考えだったことは、言うまでもないだろう。
無論、大抵の人間であればまず考えつくのは犬や虫ではあるのだが。
今回に限って、その予想は大きく裏切られ、そのぷるぷるに光った唇から告げられる真実は、残酷な死刑宣告に似通ったものと、僕は感じることとなる。
「……それじゃあ、改めて言うね」
(は……はい)
「あなたの次の転生先は
(…………ん? お、おーく?)
「はい」
(よくファンタジーゲームで見かけて、序盤の方にスライムとよく出て来る様な、特攻隊長的な猪頭の人型モンスター?)
「そうですね……、あるところでは緑色の表皮の大男と呼ぶ人達もいますがこの世界では猪か、豚が立ったと表現するのが妥当かな、と」
……。
…………。
………………。
「あ、あれ? 焼太郎くーん?」
人が死んだ後、豚に生まれ変わると宣告された時、どの様な反応が正しいか。
一つ、ブチギレ。
二つ、泣き崩れ。
三つ、笑い狂う。
否ーー、どれも正解ではない。
正解は、ただ一つの“無”である。
「チョッ!? 生きてますか……って死んでるんだけど。大丈夫!? 意識持ってる!??」
(ボーーッ……)
「あ! なんか魂みたいの出てきた! 昇天しちゃダメだよっ!!」
死んだ世界で死ぬなんて事があるのかは知らないが。
どうやら今の自分は魂が外に出ているらしい。
と、無心ながらも考えてみるが、正直な話、焼太郎はもう死んだ身。
普通であれば、何も言わずに転生して泣き崩れていてもおかしくない状況だ。
その中で、態々、あまり人を呼ばない謁見の間を使ってまで、自分を呼んだ。
なれば、何かそこに意味があるのではないか、と、落胆するより先に、そちらを懸念した。
まぁ、ただの現実逃避といえばそれまでの話だが。
「……ーーふーん。案外鋭いねぇ、君」
そんな心を見透かしたのか、女神は不敵な笑みで微笑んでいる。
まるで新しいおもちゃを見つけた子供の様な無垢な顔ではなく、寧ろ、積み上げたブロックの壊し方を幾つも模索しているかの様な、悪巧みを内包した童幼な笑みだ。
「君は確かに酷い人生だった。罵られ、憚れ、苛まれ、謂れのない悪態を際限の無い暴力を、その身に浴び続けた。
その結果、君の魂は濁ってしまった。
この上、無いほどに」
(はあ、濁るねぇ)
自身でもそれなりに腐っていた、という自負はしていた。
だが、まさか、神という超常の存在に、何の躊躇いも無く、告げられてしまうと、さすがにこたえる物がある、と、密かに考えてはいたのだが、実際それだけの生活を送っていたのだから、言い訳のしようなど一片も無い事は明白だった。
故に、僕はやや怪訝に眉を顰めながらも、話を聞いた。
「だから、君にはもっと自由な世界に行ってもらいたくてね。転生先は別世界に決まったのさ」
(だとしても、何で
「それしか君が定着しそうな身体が無いのさ。しかも、“転生”とは言っても、その実、魂の憑依だ。死んでしまった
もし、赤ん坊からやり直すなら、記憶なんてものは引き継げないからね。そんな好都合ある訳がない。あって良いはずがない。
ま、本当にたまにの話にはなるけれど、どこかの神がやらかして、記憶を持ったまま転生なんて話、一つ二つは聞くんだけどね」
(長い説明ありがとうございます。分かる様な分からない様な不思議な感覚を、絶賛体験中です)
「ははっ。別にいいさ。分からなくても。ここはそこまで、大して重要な話というわけじゃないからね。重要な所は寧ろ、今から言う部分だ」
(……?)
女神は、その綺麗な顔を鼻先がくっつくのではないかと言うほどにまで接近し、言った。
「君には、次の人生をより良く過ごしてもらいたい、と先に言ったよね?」
(そう、ですね)
「だから、君には一つ、何でも欲しい物を上げよう。何でも言うといい。何が欲しいかな? 空間さえも切り裂く宝剣。どんな爆撃、それこそ水爆からでさえも完璧に身を守る盾。能力も良いね。重力操作、直視するだけで人を殺せる魔眼、災害を操る男、なんてかっこいいじゃない。何が欲しい?」
確かに魅力的だ。
だが……だがそれは。
あまりに、魅力的で、危険な誘いだ。
ーーだから。
(そっちの世界には、魔物とかいるんですよね?)
「はい、いますよ。うじゃうじゃいますよ」
(じゃあポ○モン図鑑的な、奴をください。後、現実世界の図鑑とかも、見れたら良いかな)
「図鑑……図鑑ですか」
女神は、無重力空間で足を組み、クルクルと回転しながら、顎を手でさすりながら熟考。
答えが出たのか、その回転は止まり、眼差しをこちらへと向けてくる。
「意図が、分かりませんねぇ。なぜ図鑑なのです? 単純に強い力が持てれば、君達の世界でいう無双なる事が出来ると思うのですけど」
(きっとすぐ有名になれると思います。最強の
そこの世界に魔王の概念とか勇者の概念とか、あるのかは分からないですけど。
少なくとも、僕が考える最強が、その世界で通用するとも限らない訳ですよね? その世界の最強が、倒しにでも来たら、戦闘経験が浅い僕は……きっとすぐ死にます。勝てるかもしれませんが、その確率が高いと、思います。また、後悔して死ぬ。そんなのは嫌なんです。だから、まずは知識を、欲したいと思います)
「“知識とは力ではあるが、持つだけではただの石ころと同じ……。活用してこそダイヤとなる”」
(え?)
「いえいえ、こちらの話です。まぁ何とも上手い例えなんですかね。これ。神の感覚としては然程も感動をしないのですが、言い方の問題なんでしょうかね」
誰から聞いた言葉なのかは定かではない。
だが、その言葉を口ずさんだ彼女の顔は、どこか懐かしい様な微笑みを帯びており、とても優しいーーいや、悲しい表情だった。
「にしても面白いよ本当に君。今までここに来たの、まぁ……たくさんいるけどさ。能力でも武器でも無いのを選んだのは、君が初めてだよ」
(へぇ……。そうなんですか。正直、どれくらいの人間がここに来たのか。僕は知らないですけど。その言い振りならかなりのレア何ですかね)
「レアもレアさ。ま、分かったよ。武器にしろ、能力にしろ、図鑑にしろ……。それを反映させるには時間がかかる。さっさと作業を始めますか!」
神のポーカーフェイスを捨てて、出逢った時の無邪気な笑顔に戻る女神。
「じゃあ君には先にそちらに行ってもらおうかな。魂の定着、始めるよ」
(はい。お願いします。……あ、あと一つ良いですか?)
「ん? 何かな?」
女神の元に、それまでは何もなかった白い空間に光の粒が徐々に収縮していく。
合掌し、神であるはずの彼女が、まるで神に祈るように上を見上げながら詠唱を始めようとしていた。
だが、それに割り込む様に挟んだ僕の言葉に、律儀にも彼女は反応してくれた。
正直今からやろうとしている事を邪魔する程の内容でも無いのだが。
一応、言っておかなければ、これは気が済まない話なのだ。
僕の、性分的に。
(ありがとうございます。僕にチャンスを、くれて)
「ふふっ。ちゃんとお礼を言うのも良いところだと思うよ。そこも変わらずあってくれたら僕は嬉しいなぁ」
(はい。善処します)
そう言うと、女神はニッコリと微笑んで、詠唱を開始した。
「では。
“我が名は空間の女神……、ゼオム
我、計画するは同期。
我、執行するは開闢。
我、今此処に滞在する無限の次元に住まうもの。
光普く魂の奔流。
流される、人心。
運び行く、無念。
儚き夢を追いかける羊の如き執念。
扉を開けよう。
今開かれるは汝の発着点。
我が言霊にて現界せよ”!!
《
白の世界は音を立てて崩れさり、ヒビが入り瓦解した。
ここで漸く気付く、彼女は、本当に神なのだ、と。
瞬いた間に発動したそれは、凡人である僕には理解など及ばない、いや、人間でこの現象を理解出来るものなどいやしない。
歪められた空間が、その悲鳴を上げて、崩壊を宣告した。
ーー白は裂かれ、現れるのは暗澹たる闇。
重力を感じていなかった肉達が一斉にその感覚を取り戻し、力に沿う様に下へと落ち始める。
そうして身体の感覚は徐々に消え、あるのは一つの意思に落ち着いた。
もう、遥か遠くに見える“誰か”の事さえ認知出来なくなる頃には、“誰か”もこちらを覗き見てたり、その、雲みたいな切れ間から見えた“誰か”の顔は、まるで、女神と呼ぶに相応しい、可愛い笑顔で笑っていた。
ーーそれでは、お願いしますよ。勇者くん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます