Day 3

大城祐

「……それで、俺のところに来たってわけね」


 ちょっと早く登校してみたら、藤原、石河、天崎と珍しいメンバーが絡んできて何事かと思ったけど、そういう事情か。


「この学校の最大派閥、とは全く思わないけど、それでも一番群れているのは貴方達だと思うのよ」


「ちょっと、四季、言い方」


 石河が諌め、天崎はただ、居心地が悪そうにしている。元々この二人と仲が良かったとも思えないし、強引な藤原が誘ったって感じだろうか。


「いいよ、別に。派閥とかなんとか、良く分からないけど、校内に限って言うなら、交友関係が広い方だと思う。でもそれってさ、俺……俺達に何かメリットがあるのか?」


 はあ? と小声で天崎。

 威嚇と言うよりは、思わず口にしてしまったという感じだ。怖いなぁ。


「話を聞いていなかったの? 貴方達の誰かが槍玉に挙げられたとき、別の誰かに投票してあげるって言ってるじゃない」


「たかが三票じゃないか」


 これは半分冗談で、半分本気だ。


 これでも計算は出来る方だと自負している。たかが三票とは全く思っていないが、それにしても、こちらとしては組むリスクの方が勝つように思う。


 俺が、藤原の言う最大派閥とやらを目指したとする。その時、藤原と石河は、まあ、良いけど、天崎が邪魔だ。天崎が居るなら入らないって奴は少なくない。ここで天崎という、それこそ、たかが一票を手に入れたところで、その先に手に入れる筈だった、五票、十票を失うのは目に見えている。


 そう、どう考えたってリスクしかない。


「三票、じゃないわ。伊佐間と織田、それに佐野も合わせて六票よ」


「織田、佐野……? 別のクラスじゃないか」


 投票ってうちのクラスだけじゃないのか。他のクラスを巻き込んだことって無いよな。伊佐間だけは同じクラスだが、登校もしてきてないじゃないか。適当な事を言ってるんじゃないだろうな。


「そう、別のクラスね。そして貴方の派閥でもない」


「……何が言いたい?」


 投票なんて、されるわけがないと思っていたから、深く考えなかったかもしれない。何か見落としていることがあったか。


「いくら大城と言えど、流石にこの学校の半分を掌握しているわけではないでしょう?」


「それは、まあ……」


 当たり前だ。数百人からなる学校を、掌握、というか把握出来る奴なんか、どこ探しても居るわけがない。


 待てよ。さっきから『この学校』というのが引っかかっていた。もしかして藤原は、生徒だけでなく、教師も数に入れてるんじゃないか?


「学校の半分……?」


 石河も予想外だったみたいだ。素で驚いてる。


「ちょっと大袈裟だったかもしれないわね。でも投票が、どこまで有効なのか分からないんだから、全く考慮しないというのも変だと思ったの」


 それはそう……か?


 笹木と言えば、たかが一教師じゃないか。そんな権限ある筈ない。ましてや他の教師を巻き込むなんて。


「私もそう思う。でも、その場に居さえすれば、投票は可能なんじゃないかしら。それはまあ、今日の内で『試す』として、どう? 自分がそこまで安全じゃないと、分かってくれたかしら」


 何てこった。これは脅しだ。

 現実的には何も変わっていない。藤原勢力が増えたわけでも、こちらが減ったわけでもない。ただ、新たな認識を突き付けて、お前は窮地に立たされている、だけど安心して、私が助けてあげる、みたいな感じだ。霊感商法とかやってたのかな。


「分かった分かった、分かったよ」


「そう。友好的に解決できて嬉しいわ」


「友好的……?」


 お仲間の方が釈然としていないじゃないか。天崎も何だか不服そうだ。


 しかし。


「言っておくけど、分かったのは大城祐、この俺一人だぞ。お前の言う派閥全員が着いて行くと決めたわけじゃない。話の場を設けるぐらいはするが、その先はお前次第だろ」


「もちろん。貴重な一票、感謝するわ。それよりなにより、貴方という掛け替えのない人材が、私は嬉しいのよ」


 歯の浮くようなことを言っているけど、それも本心だろう。俺が天崎の後ろの失票を見ていたように、こいつも俺の後ろに多くの票を見ている。


 天崎とは逆で、大城が居るなら入る、という奴は居るだろう。それこそ何人も。こいつは俺なんかどうでも良い。票しか見ていない。




 だからこそ、組む意味が有る。

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多数決教室 石嶺 経 @ishiminekei

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