第7話 エルフ×トロール×工藤優作

 ______第七ビオトープ______


 世界人口10億人の大規模な世界。

 エルフやドワーフ、リザードマンやゴーレムなどの多種多様な種族が縄張り争いをしながら生活をしている剣と魔法の世界。

 最近は魔王が生まれた事により世界情勢が悪化してきている。

 とまぁ、エリシアさんから預かった書類に書いてあった。


「おいー。まだ着かないのか?」


「うるっさいな! 私だって初めて来た世界なんだからしょうがないでしょ!」


 私と桐島は背の高い針葉樹が立ち並ぶ森を二日間ほど歩いており、心身共に疲弊していた。


「しっかし、お目当ての転生者は変わり者だよなー。こんな辺鄙へんぴな所で生活してるなんてよ。一体、どんな奴よ?」


工藤優作くどうゆうさく。あんたと同じ日本人よ」


「日本人ねー」


 二日間行動を共にし、桐島の事が少し分かってきた。

 桐島は意外と良く喋る。

 自分がどういう人生を歩んできたのか、付き合ってきた女性との思い出、飼ってた猫が行方不明になり泣きながら探し回った事など、私が興味ない素振りを見せても御構い無しに話してきた。


 普通、興味のない話を延々とされればそいつの事が嫌いになるはずだが、桐島の思い出話の数々に彼の人の良さが垣間見え、「こいつ、ウザいな」とは思ったが嫌いにはなれなかったというのが正直なところ。


 まぁ、好きにもならなかったけど。


 ここまで自分の事を他人にペラペラ喋れるなんて、桐島は相当な自分大好きっ子なんだな。

 と自分の事を好きになれない私は桐島の事が少しだけ羨ましく思えた。


「キャァー!!!」


 突如、静寂を裂くように、森の奥から少女の悲鳴が聞こえ、微かに木々が揺れる。


「あ、そういや、俺が高校時代に体育祭で応援団した時の話言ったっけ?」


「いや! そんなんどうでもいいわ! さっきの悲鳴聞こえたでしょ!?」


「まぁ、異世界なんだし、良くある事だろ」


「......そういえば、そうね」


 桐島について分かった事。

 桐島は悪い人間ではないが、善人ではない。

 変な所で冷めている。

 恐らく、彼は良い事、悪い事などの線引きが他人とズレているのだろう。

 どうしてそうなったのか不明だがチラチラと見える桐島の闇は大分深そうだ。


「まぁ、ヒマだし行ってみるか」


「そうね。工藤について何か知ってるかもね」


 私と桐島は特に走りもせず、トテトテと声のした方向まで歩いた。



 ◆ ◆ ◆



 森を抜けると、だだっ広い原野が現れ、エルフなのか耳の長い女性数名がトロールのような体躯のデカイ種族3人に囲まれている。

 エルフの女性は怯え、中には失禁している者もいた。


「ぐえええへへ! 大量ですねぇ! 兄貴!」

「うご? うんごおおお!」


 トロール三人は狩りをしていたのだろうか?

 棍棒を持っている者、弓矢を持っている者、剣を持っている者、どう考えてもエルフの女性では太刀打ちできない体躯をしている。

 魔法があるといってもエルフは攻撃系魔法を使える者も少ない為、トロールの集団に襲われればひとたまりもない。


「お! おーい! ちょっと教えて欲しいんだけど!」


「はやっ!」


 桐島はトロールの集団に臆することなく、アホ面全開で向かっていく。

 まぁ、あいつの能力を測る上でもサンプルが多くあった方が良いか。


「うご? あんご?」


 桐島も身長は低くはないが、トロールは横も縦もデカイ。

 まるで、子供と大人ほどの違いがある。


「あのさ! 俺、今、工藤優作っていう転生者を探しているんだけどさ。何か知らない?」


 桐島はトロールを見上げ、トロール三人は桐島を見下げる。

 あいつ、いくらチート持ちだからと言っても度胸有り過ぎだろ。

 と私は少し離れた所から桐島の強心臓を称賛した。


「......ふん!」


 棍棒を持っているトロールが無言で棍棒を振り下ろすが、桐島はそれを予想してたかのように平然と避け主張を続ける。


「工藤優作! 工藤優作だって! ほら! 俺と同じ人間だよ!」


「うご! ごおおお!!!」

「ふん! ふん! ふん!」

「とりあえず、ミンチだ!」


 トロール三人はまるで桐島を袋叩きにするように武器や腕や足を用い、桐島に波状攻撃を浴びせる。

 土煙が周囲を漂う中、土煙の中から命からがら捉えられていたエルフの女性数名が私の元まで駆けてきた。


「はぁはぁ。た、助けて下さり、ありがとうございます!」

「うっぐっ! 死ぬかと思ったわ」

「怖かったよ~!!!」


 赤、金、緑と同じ種族なのに瞳や髪の色は違うんだな。

 私は初めて見るエルフという種族を物珍しい表情を浮かべながら観察した。


「あの! お連れの方を助けに行かなくても良いのですか!?」

「トロールは野蛮な種族です! 殺されてしまいます!」


 私があまりにもボケーっとしていたからだろうか。

 エルフ達は、桐島を助けるように促す。

 っうか、私、守護天使なんですけど~?

 あんたらみたいな下等生物が話しかけて良い存在じゃないですけど~?


「大丈夫。大丈夫。あの程度じゃ死なないから」


「そんな! お仲間を見捨てるのですか!?」

「あれはトロールなんですよ!?」

「オークではなく、トロールなんですよ!?」


 いや、オークとトロールを比較されても知らんがな。

 ダンゴ虫とワラジムシくらいの違いみたいなもんでしょ。


「はぁはぁ。人間ごときが俺達、トロールに話しかけてくるからいけないんだ______ぜっ!?」


 肩で息をするトロール三人と汗一つ、傷一つ付いていない桐島は土煙が消えた場所から姿を現し、トロール三人は平然と立っている桐島に対して目を丸くしていた。


「うご!? ごほぉ!?」

「ごほ!? ごほお!?」


「だから! くどごほおっ! ごほ! 器官んがぉ!」


 あいつらアホなのか......。

 自ら発生させた土煙を吸い、咳き込むバカ四人を見ながら私は呆れ、溜息をつく。


「す、すごい! あのトロールの波状攻撃を全て避けるなんて!」

「え、ええ。もしかして、あの方は名のある勇者様なのでは?」

「絶対にそう。あの方からは覇王色のオーラが見えますわ」


 急に玄人っぽいことを得意気に言いだすエルフ。

 弱っちいのにいっちょ前に語るなよ!

 とイライラしたが、転生者以外の種族への暴力行為は規則違反なので、私は拳をグッと握り感情を抑え付けた。

 まぁ、転生者への暴力行為も本当はやっちゃいけないんだけどね。


「この野郎がぁぁぁ!!!」


 咳き込みながらもトロールは棍棒を再び振り下ろす。


「あ! 危ない避けて! 勇者様!!!」


 桐島は咳き込み、下を向いている。

 さすがに、この状況では避けきれないか?

 周囲に緊張が走る中、突然、トロールの動きがピタリと止まる。


「あ、兄貴どうしたんですか?」

「うご? ふご?」


 棍棒を頭上に掲げたまま制止し、微かに身体を震わせるトロール。

 一体、何だ?

 もしかして、桐島が能力を使用したのか?

 しかし、桐島は気管支に土煙が詰まったのか、未だにゴホゴホと咳き込んでいる。


「きょ、今日はこれくらいにしてやる」


 そう言うと、トロールは仲間を引き連れ、森の奥に逃げるように帰ってしまった。

 一体、何があったのか?


「......森の精霊ですわ」


 ボソッと金色の髪をしたエルフが言葉を零す。


「森の精霊?」


「ええ。最近、この森で噂になっていてね」

「トロールやオークに襲われると森の精霊が助けてくれるって」


「ふ~ん」


 森の精霊ね~。

 恐らく、先程の力は転生者が使用した能力だろう。

 しかし、転生者の姿も見えなければ、気配すらなかった。

 あくまでも私達の前に姿を表さないつもりね。


「ねぇ! 工藤優作! あなた、どこかに居るんでしょ? 出て来てくれないかしら?」


 大声で叫ぶが案の定、呼びかけに対しての返答はなく、風で木々が揺れる音が無情に周囲に響く。


「無理ですよ。森の精霊はとってもシャイなんです。滅多に姿を現しません」


「ほう」


 確かに、工藤優作は生前、引きこもりだったと聞く。

 ならば......。


「工藤優作! ちょっと、見てなさいよ!」


 大声で叫んだ後、私は小さな声で詠唱をし、詠唱を終えて数秒後、エルフ達の服が弾け、生まれたての姿が露わになった。


「いやー!!!」

「きゃあー!!! 服が!!!」

「い、一体、何を!?」


 エルフ達は、肉付きの良い自身の胸元とデリケートゾーンを手で覆い、小さく身体をたたむ。


「うおー!!! エルフの裸!!!」


 普段はヤル気などの気力がゼロの桐島もエルフの裸体には興奮したのか遠い位置からこちらを凝視している。

 私は、エルフや桐島を無視し、意識を集中させた。


 ______ガサッ!


「そこか!!!」


 斜め45度の茂みが微かに動き、私は咄嗟に指を指し、先端から螺旋状の風の渦を飛ばす。


「お、おお、お!?」


 渦の中から男の声がし、私は渦を操り目の前まで誘導。

 髪を大きく揺らす程の風圧は段々と弱くなり、渦の中から無精ひげを生やした小さなオッサンが姿を現した。


「きゃあー!!! 何でその人、服着てないんですか!?」


 エルフの一人がそう叫び、桐島は「いや、君達もだよね......」と冷静にツッコミを入れた。

 私は、裸のオッサンに近付き。


「み~つけた」


 と満面の笑みを向ける。

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