第6話 転生者のいる世界へ
「であるからして、僕はそう思うんですよね~」
______ドッ!
桐島は変な抑揚を付けながら、片足を上げ、眉毛を上下に動かし、口を尖らせる。
まるで桐島はピエロだ。
表情がコロコロ変わり、話のトーンによって声色も変える。
「あはは~。こんなに笑ったの久しぶりよ~」
クリス先輩は壺を抱えながら笑う。
壺の中を覗くと、先程まで無表情だったデブもニコニコとしていた。
「いえいえ。僕もこんな素敵な女性と話せてとても幸せな気分です」
爽やかな笑顔に、面白い話、守護天使の中には桐島の姿をウットリとした目で見る者も多くなっていた。
「師匠! もう時間!」
壺の中からデブが一人這い出て来て、クリス先輩に話しかける。
「あら~。そんな時間なのね~。もう行かなくっちゃ~」
クリス先輩はそう言うと、壺に跨り、宙にふわりと浮いた。
「あなたのおかげで楽しめたわ~。あなた、名前は~?」
「桐島です」
「桐島君ね~。また会いましょ~」
「ええ。楽しみにしています」
クリス先輩の細い目が微かに開き、桐島をチラリと見て、クリス先輩はゆっくりと空の向こうに消えていった。
「桐島! すごいじゃない! あんた!」
私は、桐島に駆け寄り背中をバンと叩いた。
今までただのクズだと認識していたが、今度からは真っ当な人間として見てやろう。
「いたっ! ......何?」
あれ?
さっきまでと雰囲気が......。
「桐島はな、ここぞという時にしかあのスキルを使わないのさ」
「ここぞという時?」
「ああ。何でも、死んでまで人に気を遣ったりするのが嫌なんだそうだ」
「はぁ......」
桐島を見ると、疲れてしまったのか、獣に跨りながらボケーっと空を見上げていた。
「あの......。その、さっきはありがと!」
「ん? 何が?」
獣に跨る桐島に向かって、ティティチアが礼を言う。
ティティチアはプライドが高く、人に感謝を伝えるのは稀だ。
今回は、事が事なだけにティティチアも心の底から”感謝”という二文字の言葉が自然と出て来たのだろう。
桐島がいなければ、ティティチアは今頃、デブがギチギチに詰まった壺の中でデロデロになっていたに違いない。
ああ、考えただけでも鳥肌が立つ。
「私からも礼を言う。ありがとう。桐島」
獣もティティチアの後に続き、頭を下げた。
「エリシアさん。そういえば、あの獣は何なんですか?」
「ん? キマイランの事か?」
「キマイラですよね? あの伝説の獣の」
キマイラ。
確か、天界に伝わる童話の中に出てくる尻尾が蛇で、羽根の生えた獅子だ。
そんな希少な生物が何故、こんなところに?
「一か月前からティティチアとペアを組ませている。ティティチアも成績は良いが、性格に難があるからな。キマイランは力も強く、穏やかな性格だ。ティティチアもペアを組めば少しは他者を敬う心が芽生えると思ったんだが、まだまだ難しいな」
なんだ。
ティティチアも私を馬鹿にするくせにペアを組まされていたのか。
そう思うと、先程、ティティチアに馬鹿にされた心の傷が段々と癒えていくのが分かる。
「その、その、本当にありがと!」
「え、あぁ。はい」
「ありがと!!!」
「......」
「ありがと!!!」
「......チッ」
桐島に向かって、ティティチアは「ありがと」という言葉を連呼するが、桐島は途中からあからさまにめんどくさがり、私の事をチラチラ見て来た。
「はいはい。ティティチア。もういいわよ」
「何よ! テテス! 離しなさいよ!」
低身長で、幼児体形のティティチアを抱きかかえるのは女の私でも容易である。
天候さえ操らなければただの可愛らしい幼女なんだけどなぁ。
と足をバタつかせ、金色の髪を振るティティチアに向かって溜息をついた。
「桐島、そろそろ行くわよ」
「どこに?」
「さっき言ったでしょ! 転生者のいる所!」
「明日にしようぜー」
「ダメに決まってるでしょうが!」
私はこの桐島という男と上手くやっていけるのだろうか?
いや、上手くやらなきゃクビ!
ウダウダ言う事はできないのだ!
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