第4話
エレナ先輩を見送り、更にクッキーを三枚ほど摘んだ後、私は部室の最上階・屋上へ来ていた。
…部室に“屋上”。
…これ、かなり贅沢なのでは…?
ちなみにその屋上、真っ白い木製のビーチチェアが二セットと、赤と白のカラーが可愛い、大きめのビーチパラソルが、やや隅に寄せて置いてある。
しかし、ビーチチェアの片方は、既に先客に使われていた。
「寝てる…」
中寄り側のチェアを使っていたのは、少し小柄な少年。私と同じ一年生、男子部員のチサト。彼は小さな寝息を立てて、眠っている。
私は彼を起こさないよう気を付けて、その隣にあるもう一つのビーチチェアに寝転がった。
「………」
…さわ…さわ…と、やさしい風が吹く。
ビーチパラソルが置いてあるのは、二つのチェアの頭側・中間。大きさは、丁度二つのチェアの上半分がすっぽり覆われる位。
眩しい太陽の光はすっかり遮られ、代わりに、水気を含んだやわらかい風が頬を撫でていく。
「…はー…」
これは確かに眠くなる。お昼寝に、最高のロケーション…。
「ふぁ…」
やってきた眠りの波に身を任せ、そっと眼を瞑る。耳を澄ませば、遠くから鳥のさえずりや、木々のざわめきが聴こえてくる。
…あぁ…癒やされる……。
意識がとろとろと周りの音に溶けかけた時、隣でゴットンと物音がした。
「え、何⁈」
慌てて身体を起こし音の方を見る。すると、もう一つのチェアの向こうで緑色の皮をしたきのみが転がっているのが見えた。もしかして溢れたんじゃ…と、チサトの寝ているチェアを回り見に行く。幸い中のジュースは飲み干した後だったらしく、ジュースは殆ど溢れていなかった。きのみが落ちた音で目が覚めたのか、寝ていたチサトがもそもそと身動ぐ。
「…なんの音〜…ふあ」
チサトは目をこすり、大きく伸びをすると、直ぐに脇に落ちているきのみとストローを見つけ、声を上げた。
「あっ! しまった…、落としちゃったのか…」
彼はチェアから腕だけを伸ばしきのみとストローを取ると、パッパッパッ…と慣れた手つきで、それらをストレージへ仕舞っていく。
そして作業が終わると、そこでやっと私に気付いたらしく、彼は『うわあっ!』と驚きの声を上げ狼狽えた。…気付くの遅…。
「…あー、びっくりした〜…。ほんといつの間に…」
「チサトが寝てる間に。……ここ、良いね。私も眠たくなっちゃった」
私がそう言うと、チサトは嬉しそうに『だろ?』と言って笑った。
「でも…寝てばっかじゃ、やっぱつまんないな。…ちょっと散歩してくる」
チサトはそう言って二階に降りると、そのまま水面を歩いて森の方へと消えていった。…多分、昔忍者が使っていた、水蜘蛛っぽいアイテムを装備したのだろう。…どこで売ってるのか、後で訊いてみよう。
「ん〜…っ、……私も、もうひと泳ぎしてこようかな」
「あっ、」
気がつくと、視界右上にある時計表示が 16:50 になっていた。慌てて白い建物へ戻り、即ログアウトする。
「おかえり〜」
「遅いぞー、幸(さき)」
ログアウトして現実の部室に戻ると、『エレナ』こと玲奈先輩と『チサト』こと千里から、それぞれ声を掛けられた。
「遅くなってごめんなさい。すぐ準備します!」
私は慌ててグラスをロッカーに片付け、鞄を持ち部室を出た。
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