第3話



「ぷはっ」


水面から顔を出す。

この湖はそんなに深くなく、建物の一階部分は湖の中だが、二階の床(兼一階天井。一部抜けてる)は、ほぼ水面にある。雨が降れば足元まで水が来たりするが、晴れの日はからから。

今日は特に良く晴れている。ので、白い床が太陽を反射して、少し眩しかった。


「お、今日は遅かったねー」

二階に居たのは、二年生の女子部員・エレナさん。身に付けた黄色のフリルビキニが、元気な先輩によく似合っている。

先輩は、本棚同様真っ白い丸いテーブルセットで、ジュースを飲んで寛いでいた。

「…先生に頼まれて…、ノート運んでました」

『あはは…』と笑いながら、二階の床へ上がり、私は先輩の向かいの席に座った。

「あはは、お疲れ様ー。サキちょんもジュースで良い?」

「あ、はい」

先輩がテーブルを二回、人差し指でトントンと軽く鳴らすと、テーブル上に、薄い水色をした半透明のメニュー画面が現れた。

先輩は、少し大きめのコミックサイズのそれを、くるりと回してこちらへ向けた。

「どれが良い?」

「え?えと…じゃあ…、これで」

そう言って私は、赤い大きなきのみのジュースのタブを選んだ。…これはまだ、飲んだことがない。


「おっ!サキちょんチャレンジャー!それ酸っぱいよ〜」

「え」


飲めなかったらどうしよう…。


私はテーブルの上にゴトリと現れた、黄色いストロー付きの赤い実を両手で持つ。…よし!

「………ん?あれ?…おい、しい…?」

「ふふ、びっくりした?」

先輩は両手で頬杖をついて、ニコニコと笑っている。赤いきのみのジュースは、アセロラドリンクのような味だった。

「それさくらんぼドリンクなのよ。ちょっと酸っぱいけど、アセロラみたいで美味しいでしょう?」

「…先輩意地悪ですね。普通に美味しいじゃないですか」

「まあまあ、遊び心よ。…ちょっとドキドキしたでしょ?」

まぁ…確かに飲む時、少し身構えてしまった。…いたずら好きな人だ。


「お菓子もいる?今日はね、…え〜っと…これがオススメ!」

先輩が選んだのは、丸いシンプルなバタークッキーだった。サクッとした歯応えと、口に広がるバターの風味と僅かな塩味が、甘酸っぱいさくらんぼジュースと良く合う。美味しい。


「…さーって、もうひと泳ぎして来よっかな〜」


先輩はそう言って、伸びや屈伸などの軽いストレッチをすると、そのまま湖に飛び込んだ。


水泳部もびっくりの、とても綺麗なフォームだった。

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