第2話
「わっ…とと」
『let's go ‼︎ 』の掛け声でホワイトアウトした視界が突然開ける。
飛び込んできたのは、太陽の光を浴びてきらきらと水面が輝く、蒼く澄んだ湖。そして、その湖に浮かぶ白が眼に眩しい石造りの建物。この建物こそが、この部の本当の“部室”だ。
しかし、もう大分見慣れてきたこの部室。
全体的に、ちょっと変わっていた。
まず形。その全容は、大きな立方体の上に、小さな立方体を少し中心からずらし、角を合わせて重ねた様な形をしている。しかし、今居る岸側から見ると、二階・屋上に当たる小さな立方体しか見えない。一階部分になる大きな立方体は、すっかり湖に沈んでしまっている。
変わっているのは、シルエットだけではない。
その白い壁、一階・二階共に窓らしき穴はあるのに、窓枠やガラスなどは一切ない。それどころか、扉などの、ちゃんとした出入口らしきものも無い。
ではどこから入るのかといえば、『そのくり抜かれた窓らしき穴』全てが、入口であり出口でもある。
なので私含め、みんなが其々、好きな窓から出入りしていた。
私は必要がないと解っていながらも、軽く準備運動をする。そして数歩後ろに下がり、助走をつけ…
勢いよく、湖に飛び込んだ。
湖の中はゲーム内だからかよく澄んでおり、何処までも遠くまで見渡せる。時折、熱帯魚らしきカラフルな小魚が視界を横切る。そのうちの一匹をつん、と人差し指出てつついてみると、小さな黄色い魚は少し身をくねらせ、すいー…と何処かへ泳いで行ってしまった。
私はそれを見届けた後、目を瞑って、丸くなる。
…ひんやりとまとわりつく水が…とても心地いい…。
ゆったりとした水のリズムに意識が溶けて、身体が水と一体になったような錯覚を覚える。
私は身体を捻ったり、宙返りしたりと、その感触を楽しむ。現実ではここまで自由に泳ぐことは出来ないので、私はこの時間が大好きだった。
暫く水や魚と戯れてから、あの白い建物・部室へ向かう。ゆるりゆるりと足を付け根から大きく動かし、近づいてゆく。そしてするりと窓を潜り抜けると、中では眼鏡をかけた男の子が、海パン姿で椅子に座って本を読んでいた。
「こんにちは、ニノマエ先輩。何読んでるんですか?」
「…ああ、サキか。今日はこれだ」
二年生の男子部員・ニノマエ先輩が見せてくれた本の表紙には、『世界の名探偵からの挑戦』と書かれていた。どうやら有名推理小説の名作抜粋集らしい。
「面白いですか?」
「うむ…なかなか奇想天外なトリックばかりで度肝を抜かれる。読み終わったら、是非読んでみるといい」
先輩は本から顔を上げずに答える。よっぽど目が離せない内容なのだろう。私は話しかけるのをやめ、先輩から少し離れた。
本を読む先輩の向かい側には、建物と同じ材質の…というか、床にくっ付いている真っ白い本棚がある。水の中に本棚なんて、正にシュールだ。私は本棚に収まっている本の背表紙を端から見ていく。
『美味しいケーキの作り方』、
『うまい泳ぎは魚に教われ!』、
『今日から始めるVR』、『あき』…
なんと言うか…、ジャンルがバランバランだ。料理本に泳法指南書、専門雑誌に短編小説。まとまりがないにもほどがある。
私は本棚から一旦離れ、するりと身体を持ち上げ、上(二階)へ向かった。
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