第307話 偶然の出会い。

【あの……カギを忘れちゃいまして……】


 恥ずかしそうに女の子は答えた。


『あぁ、そういうことだったんですね。俺が開けますよ』


 そう言いながらドアを開けた。


【ありがとうございます!】

『いえいえ……』


 エレベーターホールまで無言で歩いていく。エレベーターは3階まで上がっていた。ボタンを押し、エレベーターが降りてくるのを待つ。


【わ、ワタシ、天照栖アマテラストウカっていいます】


 突然の自己紹介に驚いて、俺はキョトンとしていた。


【あ、あの……ここの住人って証明したくて……。301号室に住んでます】

『あぁ、なるほど。真面目ですねぇ。でも、簡単に名前とか部屋番号とか言わない方がいいですよ。特に男なんかに言ったら絶対にダメ』

【ご、ごめんなさい……】


 俺は今どきこんな真面目な子がいるんだなと感心すると同時に危うさを感じた。


『俺は四季島シキシマヒカルです。天照栖さんの部屋の真下、201号室に住んでます』

【わわっ……! 下の部屋でしたか! 足音とかうるさくないですか……?】

『たまにモノを落とす音が聞こえるくらいで、いつもはすごい静かですよ』

【すみません、おっちょこちょいでスマホとかリモコンとか落としちゃうんです……】

『いやいや、全然大丈夫ですよ』


 簡単な会話をしているうちにエレベーターが降りてきた。エレベーターから降りてきた別の住人に挨拶しながらエレベーターに乗った。


『じゃあ、お先に』


 俺が先に降りる。すると天照栖さんも一緒に降りた。


『あれ?』

【あの……! SONICのIDをお、教えてください!】

『え!? べ、別にいいですけど……』

【あ、いや、あの……。天照栖家では、親切にしてもらったら絶対に恩返ししなさいって言われてて……。今度、ご飯でも作りに行きますよ!】

『ふふっ。面白い子だな。はい、これが俺のID』

【ありがとうございます!】


 俺の差し出したスマートフォンの画面を見ながら、ポチポチとIDを打ち込む。


【……よしっ!】


 天照栖さんは小さくつぶやいた。どうやら登録が完了したらしい。登録が終わると天照栖さんはエレベーターに乗って帰っていった。エレベーターが3階に止まったことを確認してから、俺は部屋に戻った。


『偶然の出会いってのもあるもんだなぁ……。それにしても、名前とか部屋番号とか。ありゃ危ないな……』


 ベッドの上で一人呟きながら眠りについた。

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