第304話 帰るべき場所へ。

 ゆっくりと目を開く。真っ白な空間に俺は倒れていた。ここがどこなのかはわからない。”とき聖殻せいがく”だろうか……? 俺は起き上がって周りを見渡した。


【……ぉーい!】


 遠くから声が聞こえた。声のした方に目をやると、そこには人影があった。俺は自然とそこへ向かって歩き出した。


【ヒカル!】

『ジュウザブロウさん!』

【ヒカルさん、やってくれたんですね!】

【ホンマにすごいヤツやで】

『エンジとリオンさんも……』

【この先にみんなもおるで】


 リオンさんが親指で指し示した方向を見ると、他の仲間もいた。


『グレン! ジン! 無事だったか!』

【よう、お疲れ様。無事……ではないかもしれないけどな】

【気づいたらここにいて、体が楽になったんです】

『なんだよ、まるで天国みたいだな』

〈ここは元の時間へと戻るためのトンネルのようなものです。向かうべき場所は、おのずとわかるでしょう〉


 ティアの声が響いた。


『ティア! 上手くいったんだな……!』

〈はい、ありがとうございました。残念ですが、みなさんの記憶も正しい時間まで戻ってしまうので、ここでのことは忘れてしまいます〉

【あぁ、よく知ってるよ】

鹿鳴屋ロクメイヤジュウザブロウ、貴方あなたは2回目でしたね。貴方を選んでよかった。みんなをよくまとめてくれました〉

【ありがたい言葉だが、俺だけの力じゃないんだよ。みんなが上手にまとまってくれただけさ】

〈ふふっ……。そうですか〉


 全員、不思議と歩いていく方向がわかっているようだ。このまま歩いていれば、正しい時間へと戻れる。それがわかっている。


『アスカ!』

【あら、ヒカルくん。よくやったわね】

『最後まで上から目線かよ』

【ふふっ……。お疲れ様】

『体は大丈夫なのかよ?』

【えぇ、なんてことはないわ】


 みんなと会話しながら歩き続けた。


〈みなさん、そろそろ正しい時間へと戻ります〉

『もう戻っちまうのか……』

【寂しいか、ヒカル?】

『イツキさん……べ、別にそういうことじゃなくてですね……』

【はっはっは、照れるな照れるな】


 イツキさんはくしゃくしゃと俺の頭を撫でた。そんな中、俺たちの集団からアスカが1人離れていった。


『おい、アスカ! こっちだぞ!』


 アスカはニコッと笑って言った。


【またいつか会いましょう。ヒカルくん。本当に、ありがとう】


 俺の足は何故なぜか止まらなかった。アスカを引き止めることができないまま、歩き続けた。


 セミの鳴き声が大きく聞こえてきた。


 そして、目の前が真っ白になった。

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