第302話 10段の階段。

―――レイヤー10

 ついに辿り着いた。


『ここが……”最果さいはての地”……』


 そこには何も無い空間が広がっていた。足はまだ動く。


『ティア、”とき聖殻せいがく”はどこに?』

〈このまま真っ直ぐに歩いてください〉

『わかった』


 ティアに言われるまま、真っ直ぐに歩く。歩くこと数分、目の前の景色が変わった。


『……ッ!?』


 そこには大きな城のような建物があった。何も無いと思っていたが、深い霧に包まれていたみたいだ。だから、こんなに大きな建物も見えていなかったんだ。


『ティア、これが”時の聖殻”か?』

〈はい。階段を登り、先に進んだ場所に台座があります。そこまで私を運んでください〉

『あぁ、わかった』


 目の前には10段の大きな階段があった。俺はその1段目に足をかけた。


『なっ……!』


 体へ衝撃が走った。まるで、レイヤー移動時にかかる反動を凝縮したような感じだ。


『なんなんだよ、この階段は……!?』

〈これは、外部からの敵の侵入を妨げる、一種の防衛機能です〉

『そんなのがあるんだったら、先に言って欲しかったぜ……。ティアにはこれは解除できないのか?』

〈すみませんが、できないのです。今はデゼスプワールがここのあるじとなっていますので……〉

『そうか。なら、無理やり行くしかないか……』


 つばを飲み込み、自分を落ち着かせる。


『ふぅ……次だ……』


 2段目。同じように衝撃が走った。だが、覚悟をしていればなんとか耐えられる。3段目、4段目、5段目……。ゆっくりと上がっていく。


『あと5段……』


 数にすると少ないが、先は長そうだ。覚悟を決めて、再び階段を上がる。6段目、7段目、8段目……。


 頭が痛い……。

 割れそうだ……。

 喉が熱い……。

 溶けてしまいそうだ……。

 腹の奥から、何かがこみ上げる。


『ゴホッ……ゴホッ……』


 俺は咳き込むと同時に血を吐き出した。俺の足元には、血溜まりができていた。


『……っはぁ……はぁ……。もう少し……もう少しなんだ……』


 口をぬぐいながら、俺は9段目に足をかける。歯を食いしばり、衝撃に耐える。


『みんな……もうすぐだ……。待っていてくれ……』


 10段目を上がった。


『がっ……!! ぅあぁぁぁ!!』


 思わず声が出てしまう程の衝撃だった。全身が裂けてしまうのではないかと思う激痛が俺を襲い、再び吐血をした。激痛のあまり、右手に持っていたシャルを離してしまい、階段の下まで転がり落ちてしまった。シャルはもう見えなくなってしまった。どれほどの時間が経っただろうか。


『はぁ……はぁ……』


 呼吸はできている。

 目は見えている。

 耳は聞こえている。

 足は動く。


『ティア……聞こえてるか……』

〈はい〉

『このまま……真っ直ぐ行けばいいんだよな……?』

〈そうです。台座を目指してください〉

『よし……』


 俺は足を引きずりながら、台座を目指した。

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