第296話 適合者。

 全員が唖然あぜんとしていた。


『ア……アスカ……? 今、なんて……?』

【私はアスカではない。クロノ=ティアだ。敬意をひょうし、ティアと呼んでくれて良いです】

【アスカじゃなくて、その……神様だというのか?】

【えぇ。その通りです】

『……マジで女神様だったのかよ……』

【何か言ったか、ヒカル?】

『い、いや、なんでもない』

【どうなってるんですか……?】


 オトハちゃんが恐る恐る聞く。


【元々、私が”時”をつかさどっていました。ある日、人々の”負の感情”が溢れ、デゼスプワールが顕現けんげんしました。このこと自体はそこまで大騒ぎするような話ではないのです。私の力でデゼスプワールを鎮静化ちんせいかさせることは過去にもありました】

【マジかよ……?】

【そんな力を持っているあなたがどうしてここに?】

【今回は”負の感情”が一気に押し寄せてきてきました。私が手をくだす前に、デゼスプワールは大きな力を手にしていました。溢れ出る”負の感情”は私の力にも作用し、私は力を抑えられました。私の力は弱まり、デゼスプワールの力は強まった。戦いの結果は誰が見ても明らかでした。もし、私がいなくなってしまっても、また新しい”時の神”が生まれるようになっています。そして、その”時の神”がデゼスプワールを倒す。そうやって我々の世界は廻っているのです】

【アンタが今ここにいるってことは、敵を目の前に逃げ出したってことか?】

【おい、グレン】

【良いのです。貴方あなたの言うとおり、私は逃げました。なぜならば、新しく神が生まれるまでには早くて数十年、遅ければ数百年、数千年となります。そのかん、人がデゼスプワールの攻撃をしのいでくださるのであれば良いのですが、そうもいかないでしょう】

【それはそうだな……。さっきの言葉は無礼だった。すまない】

【大丈夫です。逃げ出した私は、誰かの体を借りなければ自身を保つことができない程でした。”神”を身に保持できる体を持つ人は一握りの人だけです。私は”時”を往来おうらいし、適合者を見つけた】

『それが……アスカってことか……。そうだ、今まで俺たちと一緒に居たアスカはアスカなんだよな?』

【はい、そうです。疲弊ひへいした私は天照栖アマテラスアスカの中で休ませていただいてました。デゼスプワールに気付かれないよう、いくつかの記憶は封印させていただいてました。デゼスプワールの消滅によって、私はようやく目覚めることができたのです。そして、私たちがこれからすべきことは……】


 ティアの言葉をさえぎるように轟音ごうおんが鳴り響いた。

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